Touch-3
「なんてこった!」
「ベルヌーイ人の騙し討ちだ!」
「連中、ハイウェイを進んでいくぞ!」
眼下の異常に気づいたコルサックのパイロットたちは、悲鳴と怒り、驚きの混じった声を上げる。
「フォックス、下のベルヌーイ機甲部隊に爆撃を行う。ターゲットの指示を」
「あっ、えっ……?
わ、わかりました。車列先頭T-90戦車をターゲティングしてください。攻撃侵入方位110、下の退避中の友軍、民間スタッフに注意」
その中で湧き上がる疑念と戦いながら、ウルフは冷静に対応した。
「レッドデビル隊、落ち着け。
制空権は我々のものだ。
体制さえ整えば、空から連中を一網打尽にできる」
「ターンストン、これはあなたの思惑なのか?
聞いているのか!?」
「……」
「ウルフ、ATCは私たちとの無線を切り離したようです
待ってください。ベルヌーイの北部から接近する機影あり、数12、機種はタイフーン!?」
「ベルヌーイも、コルサックも使ってない戦闘機だ。
だが、ATCか人民重工はテスト機として保有していたかもしれん。
二つが合わされば、最大の軍需企業どころか、最大の軍事組織……くそ、何が平和の為の歩み寄りだ!」
前方から悠然と近づいてくるタイフーンの編隊は、グリペンのレーダーでも捉えられていた。だが、それは友軍と表示され、グリペンはロックしようとしない。
「フォックス、奴らのIFFの変更を!」
「そんな、できない……権限が遠隔でロックされてて……」
フォックスは呆然と呟く。
彼女が見つめるコンソールにはNOT AVAILABLEの表示が出て、多くの機能が死んでいた。
「大丈夫だ! 軍の防空司令部ならば指示をオーバーライドできる!
司令部、HQ、HQ、非常事態だ! HQ! 応答を!
聞こえないのか!?」
◇
コルサック空軍、防空司令部。
ベルヌーイの地から遠く離れた安全な土地に建てられた堅牢な造りの司令部は、敵の進入を許さないはずだった。
だが、侵入を許してしまったのだ。
警戒する必要がないはずの味方に。
コルサック第一空挺団。
前の戦争では精鋭の切り込み部隊として、つい先日まではベルヌーイ過激派との戦いでコスト削減のために無謀な突撃を命じられていた部隊だ。
何の予告もなしに空挺団のチヌーク・ヘリが降り立った時、防空司令部の職員たちは怪訝な面持ちで彼らに近づいて何事かと尋ねた。その次の瞬間、彼らは銃撃を浴びた。
流石は空挺部隊だった。
司令部がクーデターだと認識する前に、彼らは施設をすばやく制圧した。
「考え直せ、こ、こんなことやめるんだ」
真横にある同僚たちの亡骸に怯えながらも司令部の司令官は必死に空挺隊員たちの説得を試みた。
「何故、敵であるベルヌーイの仲間をするんだ?」
「彼らは仲間ではないさ。憎しみもある。
だが、それ以上に憎いのはこの国だ」
「まて、話せばわかる!」
だが、説得虚しく、空挺隊員たちのM4A1が火を吹いた。
「悪く思うな。
全ては新しい黄金の時代の為だ。
主任が我々を導いてくれる」
◇
こちら側からは攻撃できないのに、タイフーンは攻撃をできるようで遠距離からミサイルを放ってきた。
更には下の車列に隠されていた短SAM車両がミサイルを放ち始めた。
コルサック軍機はフォーメーションを崩し、経験の浅いものから順に落とされていく。
「何がどうなってやがる!?」
「どうして、増援が来ないんだ!」
「ウルフ、ここは一度離脱を……!」
フォックスはそう提案しようとするが、直後、帰るところなどないことに気がつく。
ATCは裏切り、軍はウルフらをもクーデター扱いするかもしれない、ベルヌーイは論外。他の国へ? いや、燃料が足りない。
「と、とにかく、安全な空へ」
だが、安全な進路へと導く経路を送るシステムはダウンしている。
レーダー上では刻々と友軍のアイコンが消えていく。
フォックスは迫り来る絶望感に喉の強烈な渇きを覚え始めた。
「レッドデビル3!? 誰かあいつのパラシュートを見たか!?
くそっ!?
あっちはミサイルが使えて、こっちは使えない! どうすればいい!」
「落ち着け! 高度を上げてSAMの射程外に逃げるんだ!」
遂に、残る友軍機はウルフとクロックワイズだけになった。
雲の上へと出たクロックワイズも錯乱しかけている。
しかし、その時、彼は歓声を上げた。
「あれは友軍か!? 友軍だ!」
てっきり錯乱による錯覚かと思われたが、ウルフの目にもコルサックから飛んできているF-15の2機編隊が写った。
「こちらイエロージャケット、援軍に来た!」
「そのコールサイン……隊長、軍に復帰されていたのですか!?
さっき私が話していた、行方不明の上官だ!」
「ああ、戻ってきた」
ウルフも一瞬安堵しかけたが、フォックスの悲鳴のような言葉にハッとした。
「ウルフ、それは友軍じゃありません!避けて!」
彼女の言葉を信じ、咄嗟にフレアを放つと、援軍に来たF-15から至近で放たれたミサイルは間一髪でそれに吸われた。
だが、かつての上官に気が緩んだクロックワイズは被弾し、主翼から大量の燃料が漏れ出した。
すれ違ったF-15には大型のカーナード翼が付いていて、それはコルサックが装備しているモデルのものではなかった。
「隊長、何故です!?」
「正義の為の致し方ない犠牲だ」
「待て、隊長の来た方角から黒煙が上がっている……あんたがやったのか?」
「燃やしたさ。
だが、我々が生命をかけて守った土地に住む価値のものが今のコルサックにいるのか? それをわからせなければ」
「畜生、こいつ、俺の故郷を燃やしやがった!妻と5歳の子供がいるんだぞ!ぶっ殺してやる!」
「脱出しろ、その機体は持たない!」
だが、ウルフの静止は虚しく、クロックワイズの機体の右翼は、遂に発泡スチロールのように脆く砕け散り、雲の中に消えていった。
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