あの空へ-4
ペガサスが侵入してきてからは、滅茶苦茶だった。
敵は好機と見たのか、追加の無人機を打ち上げ、無人機たちは、ペガサスにターゲットを変えた。
ウルフは殲滅戦から、護衛戦という窮屈な戦いに切り替えなければならなかった。
大熊はペガサス相手に、離脱するよう必死に説得するも、ペガサスは傲慢な態度を崩そうとしない。
「護衛作戦の指揮を担っているものとして命令します!
直ちに進路を変更せよ! 護衛対象に逃げる気が無いなら、守り切れませんよ!」
「ええい、この機に誰が乗っているのか、分かっているのか!?
あのコルサック・ディベロップメントの女帝こと、シエラCEOが乗っておられるのだぞ!? そのお方のご命令なんだぞ!」
「はっ、知ったことじゃありませんね 」
大熊は吐き捨てるように言う。
だが、その女帝ことシエラCEOは、博識とは言えないウルフですらTVで見たことがある。
30代くらいの女社長で、ATC本社がある都市開発を担った実績の持ち主だ。その手腕は大統領候補であるディビットすらも認めるものだが、同時に、失態を犯した部下や生産性の低い部署をまるごと解雇するなど氷の女帝として知られている。
だが、今では傲慢な存在にしか思えない
ペガサスを守る為、窮屈に飛ばないといけなくなったウルフは苛立ちを覚えながら、そう思った。
「ええい、無人機を撃墜しろ!
何をしているか!?」
大層な態度だが、ペガサスの機長は自分から近づいておいて、無人機が近づいて来るとヒステリックに叫ぶことを繰り返している。
<今日ばかりはてめぇに同情するぜ。
飼い犬は飼い主を選べないとは言うが、とんだ外れを引いたな。
なぁに、スコアは俺が稼いでおくぜ>
ベルヌーイ側の護衛機であり、ペガサスを護衛する義務が無いジョーは嘲笑うかのように悠々自適に敵を堕としていく。
皮肉なことに2人は護衛と、攻撃で上手く役割分担ができていた。
だが、それでも足の遅い護衛機は、無人機に群がられ、このままでは単機の戦闘機ではどうしようもなかった。
「大佐、フォックス。
このままではペガサスを守り切れない」
「うう……。そうだ、さっきのノヴァリア空軍機に援護を要請するのは!? 」
「いや、どうやら、ここは彼らのテリトリー外のようだ。
……おい、ペガサス、いい加減にしろ! 進路を変えろ!
このままじゃ、全員、海に落っこちて死ぬぞ! 」
「何を言うか!? アマチュア集団め、護衛任務すらもでき、なんだ? 何をする、やめ――! 」
その時、何かがぶつかる異音と短い悲鳴が聞こえ、ペガサスの機長の声が途切れた。
「ウルフ、ペガサスからの応答がありません!
まさか、撃墜されたんですか!? 」
「いや、俺の目の前を飛んでいる。
高度も速度も変わりない。
ペガサスに並走して、コックピットを確かめてみる」
ウルフがペガサスと並び、コックピットを見ると、機長が操縦パネルに倒れこむように気絶していた。そして、一人の人物が機長を押しのけ、そのままその席に座った。
「な、何が起きているんだ?
ペガサス、今、機長の席にいるのは誰だ? 返答を」
「――副機長だ。
機長は……戦闘の揺れのせいで、コンソールに頭をぶつけて気絶してしまった。
私がコントロールを引き継ぐ」
その声の主は、ヒステリックな機長とは正反対に、この状況でも落ち着いた様子の女の声だった
戦闘の揺れのせいで気絶というが、ずっと水平飛行してたはずだが……ウルフは怪訝に思いつつも、彼女に一筋の望みを託した。
「このままでは、そちらを護衛できない。
離脱してくれ。さもなければ――」
「承知した。
離脱方位は220、高度は10000ftでよろしいか? 」
「あ、ああ。それで頼む」
女はあっさりと承諾し、瞬時に、戦闘から離脱する為の的確な進路を導き出して見せた。
あの機長とは違い、本物のプロフェッショナルだ。
「お客様、激しい揺れが想定されますので、シートベルトを……しまった、これは機外無線だ」
少しのおっちょこちょいがあったものの、乗客にシートベルト着用のアナウンスした後、ペガサスはきっかり90度左にバンクした。
「いい腕だ」
ウルフは驚き、思わずつぶやいた。
いくら、ペガサスが中型のビジネスジェットとはいえ、あれは戦闘機並みの機動だ。中の乗客は阿鼻叫喚だろうが、並外れた操縦技術だ。
それにしても、今の機動、あのシャープな動きは何処かで見たことが……。
「やっと、逃げてくれたか。
ウルフ、あとは雑魚狩りだ」
「あ、ああ。了解した」
大熊の声に促され、ウルフは我に返った。
さっきのバンクに対抗するかのように、鋭く機体を90度バンクさせ、敵の迎撃へと向かった。
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