あの空へ-3
「これはミサイル……いや、違うの?
とにかく、レーダー上では、10数個の点が見えます!
北東の海上、目視で何が上がってきているのかを、私たちに教えてください!」
フォックスの言葉を聞き、ウルフは晴天に映える海面を見下ろす。
ドラケンのコックピットからでも、その海上から白い煙と共に上がってくるそれを見ることが出来た。
「ミサイルじゃない、飛行機だ。
ただ、有人機には見えない、平べったいエイみたいな無人機だ」
「わかったぞ! S-22レオパルドUCAVだ!
技研の開発した偵察用無人機だ!
機動性・速力ともに飛行性能は低い、だが、固定武装として機銃がある! 数で押されるとやっかいだ! 」
<ち、うじゃうじゃとなんなんだよあいつらは!>
ジョーは若干焦った口調で吐き捨てると、荒い操縦でクルセイダーを引きはがし、迎撃体制に移った。
「協力して、迎撃――」
<誰がてめぇなんかと!>
なんとなく予想はしていたが、ウルフの提案はジョーに速攻で跳ねのけられた。
「ええい。仕方ない。
迎撃だ、ウルフ。そこの野良犬のことは気にせず、手早くやるんだ!
「わかった」
ウルフはドラケンを、下から上がってくる無人機たちの抑え込むように高高度にあげる。思った通り、ジェットエンジンの加速が途切れた無人機たちは、ミサイルのような勢いがなくなり、高い高度の低気圧の中では弱々しい動きになっていた。
そこを狩る。
ドラケンは天空で反転し、群れる無人機の群れに上から鷹のように飛来する。
ミサイル――はロックオンしない。旧式のミサイルは敵後方の排熱を長い時間とらえなければロックできないのだ。
予想の範疇だ、ウルフは機関砲を放つ。
一機の無人機の右主翼を捉え、翼を失った無人機はひらひらと落ちていく。
そして、機体を制動して、もう一機も狙いに行くというところで機首がややずれた。
ウルフは攻撃を諦め、そのまま下に離脱する。
ウルフは首を横に振った。
これを扱いきれていない。
80%のポテンシャルは出せている。だが、80%だ。
このドラケン、ピーキーすぎる。
とにかく、速度を回復し、再び有利な高度に登ろうとする。
その時、翼を掠めるように、20mm機関砲が空を切った。
思わず、機体を捻り回避機動を取ったが、それは無人機からの攻撃では無かった。
「……!」
<はは! てめえが射線でうろうろしてるのが悪い!>
回避のために減速したウルフのドラケンを嘲笑うかのように、クルセイダーが飛び去る。ジョーはデモ飛行でのうっぷんを晴らすかのように、無人機の群れに突っ込み一機を撃墜して見せた。
だが、ウルフはかつてのジョーのように、嫉妬心に囚われて、我を失うような人間ではなかった。冷静沈着だとか、人間性が出来ているとかそういうことではない。
ウルフは空を飛ぶことに全てをつぎ込み、日々の小さな一歩を積み上げてきたただの人間だからだ。
ジョーの描く挙動を見て、ウルフは気づきを得た。
彼の無理な挙動を立て直す激しい
だが、この旧式の戦闘機は航空技術が発展途上の時代の代物、どうしても、予期せぬ機動が出てしまう。
古い時代の戦闘機、ドラケンには、そのカウンター・マニューバ―は有効なのだ。
ふわふわと漂うように、呑気に旋回する無人機を目掛けて、鋭く上昇する。
ガンの射程内に入ると、敵の進路上に置き去るように機銃をばら撒き、戦果を確認する前に、左に切り返す。
機首がぶれる、しかし、ラダーペダルを乱暴に蹴り上げて、機動を制御して見せた。
そして、少し距離のある敵機の背後を取り、数秒間のロックオンを経て、ミサイルを発射する。
ミサイルと比べれば、無人機など止まっているように等しい。
白い尾が、無人機に迫り、撃墜した。
<クソ、あいつ!>
ジョーがウルフの戦果を見て、対抗すべく機体を激しく起動させようとするが、バランスを崩しかける。
大胆不敵なジョーだが、先の墜落は堪えたらしく、戦場はウルフの独壇場の様相を見せ始めていた。
計器を確認する為に下を見ている暇などない。
五感を駆使して、操縦桿とラダーを駆使して、抑え込む。
ようやくウルフがドラケンを分かって来たその時だった。
「ペガサス、聞こえますか!? 空中待機を願います!
現在空中戦が広げられています!
その空域には入らないでください!」
無線に聞こえてきたフォックスが必死に呼びかける相手は、護衛対象の機体”ペガサス”だった。
必死の制止に関わらず、ペガサスの機長は正論を言うような口調でこういった。
「黙れ、VIPの方々がご自分の目で不届きものの襲撃を見たいとおっしゃっているのだ! ひかえろ、雑兵共!」
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