あの空へ-2

 ノヴァリア防空識別圏、上空8000ft。


 護衛対象のビジネスジェット、コールサイン”ペガサス”の安全を確保する為、ウルフのドラケンは先にヴァルハル島へ接近していた。

 アナログ式のレーダーに、北側から迫る4機の機影が写る。

 デジタル式の最新のレーダーならば、もっと見やすく、更にはコンピューターがデータを分析し、敵機の情報を記してくれるが、これはドットでしか表示してくれない。


 そこはチームワークでカバーする。


「ウルフ、今、接近中の機体はノヴァリア空軍所属のF-16です。

 ヴァルハル島上空まで、エスコートするようです。

 彼らの指示に従ってください」


 コルサック上空を飛んでいるAEWから無線通信が入る。

 ドラケンの装備は実戦を退いた20年ほど前の旧式のものばかりで、ケーブル等も旧式で即席での回収は断念されたが、無線機だけは最新のものに改修されていた。


 その無線機に、別の周波数から渋い声で問いかけがあった。


「こちらノヴァリア空軍、コールサイン、ガーディアン1だ。

 飛行計画は承認しているが、確認せねばならん。

 君の所属を聞かせてくれ」


「ATC所属の護衛機だ。 

 コールサインはウルフ。

 飛行計画3284に基づき、飛行中。

 確認を求む」


「承認。事前計画と差異はないようだ。

 一応、その機体が我が国の要求に合致したものか、確認させてもらう。

 そのまま真っすぐ飛行してくれ」


「了解した」


 ノヴァリア空軍のF-16 ヴァイパーが接近し、ウルフのドラケンを隈なくチェックするように、ドラケンの回りを旋回する。

 第四世代ジェット機、ヴァイパーの主翼には最新の短・中距離AAMがマウントされていた。

 幾ら、ドラケンの機動力に目が見張るものがあるといえども、フレアなどの原始的なCM妨害手段しか積んでいないドラケンではあのようなミサイルを回避するのは困難だろう。これが世代の差だ。


「機種はGen2のドラケン、対地兵装はない。

 よし、問題はない。

 

 ふむ、よい機体だな。選んだ奴は良いセンスをしている」


「どうも」


「乗っているパイロットも、行儀が良い。

 さっき来たG/Sの奴は、野良犬の様だったぞ。

 ……おっと、すまん。行っていいぞ。

 

 ノヴァリアにようこそ! 」





 ドラケンの周りから離れていくヴァイパーの編隊を見送りながら、ウルフは嫌な予感を感じていた。

 そして、目に入って来た機影を見て、嫌な予感は確信に変わった。

 グレーの塗装が施されたF-8 クルセイダー、垂直尾翼には荒々しい猟犬が描かれていた。


 <くると思ったぜ……一匹狼>


 その声は間違いなく、自称G/S一番の賞金稼ぎ、猟犬ことジョーだった。


「……無事で何よりだ」


 とりあえず、ウルフは先のジョーのデモ飛行での墜落からの生還を喜んだ。


 <てめぇ……!>


「ウルフ、彼をからかわない方が! 」


「いや、からかってはいないが……」


 <てめぇら、全員で俺をこけにしやがって!  

 狼、てめぇのせいで俺のメンツは台無しだ!

 お陰で、こんなオンボロの機体で、しけた仕事をやらされてる!>


 恐らく、ベルヌーイ側の護衛機として選ばれたジョーは任務に不満のようだ。


 ジョーのクルセイダーは、ドラケンの上に陣取るとその場で逆さまに背面飛行して見せた。

 ウルフがそれを見上げると、ジョーは上から中指を立てて見せた。


 <てめぇの事調べたぜ。

 大層なエースパイロット様じゃねぇか。


 空で受けた屈辱は、空で返す。

 てめぇを倒して、俺は更なる名声を得る。

 それが空の流儀っていうもんなんだろう、コルサックの白狼?>


「……ああ、そうだな」


「おい、二人共所属は違えど、同じ護衛任務についているんだぞ!

 わかっているのか!? 」


 一触即発になりかけた二人を仲裁しようと、大熊が無線で呼びかけたその時だった。

 レーダーを監視していたフォックスが、小さく息を吸った。


「待ってください、北東の海上、何かが打ち上がったのをレーダー上で確認!

 これは……!」





 ヴァルハル島から23km、ノヴァリア付近公海にて。

 一隻のタンカーが横並びに積んでいたコンテナの上部が、パカリと二つに割れた。

 そして、中からせりあがって来たものは二本の長いレール上のものだった。

 そのレールの先端にはご丁寧に製造元”人民重工兵装技研”の印字がされていた。


 <船長、豹型無人機レオパルド、射出準備宜し!>


 <うむ! 天候よろし、晴天なり! 飛行に支障なし!

 コルサックとの協調などあり得ぬ、わが国とかの国の間には憎悪しかない!

 アイアン・ジークの無念を晴らす! >


 <了解、はっしゃあ! >


 威勢の良すぎる掛け声と共に、レールからマンタを連想させる平べったい無人機が飛び出した。

 数は10数機。

 それらは補助JATOロケットを使って、天空に向けて一気に加速していった。


 

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