装甲列車(2/2)

「列車の対空砲は強力だが、射程は短い!

 奴を撃破するには高高度から、垂直落下して攻撃しろ!


 もちろん、このやり方には大きなリスクを伴う」


「それしか方法が無いんだろう? 」


 グリペンは緩やかな上昇旋回を行い、攻撃コースに機体を乗せる。

 眼下の列車は黒煙をまき散らしながら、あらゆるものをなぎ倒し、その先に広がるベルヌーイ奥部に繋がる雪原へと飛び出さんとしている。


「ウルフ、状況を確認します。


 私たちは第7工場、それに隣接していた試作品試験場の破壊に成功し、輸送拠点は彼ら自身の手アイアン・ジークによって破壊されました。

 装甲列車破壊任務はアサインされていませんので、既に任務は達成しているということです。

 

 あなたの意思を確認します。それでも尚、リスクを取ってでも装甲列車を破壊しますか?」


ああyeah


 フォックスの問いかけに対するウルフの答えは即答だった。

 それを聞いた彼女は、嬉しさと悲しさが混じったような複雑な溜息を洩らした。


「承知しました。

 ただ、私はあなたのオペレータとして、あなたを管制する権利を持ちます。

 列車の向かう先、ベルヌーイ北部で、対空ミサイルの稼働を検知しました。

 攻撃は一度、撃破の成否に問わず、やり直しは許可できません。


 進路160。攻撃開始最適高度は5000ftです」


「了解、進路を微修正する」


「ウルフ、よく覚えておけ! 3000ftまでは雲がある。1500ft迄に上昇しなければ、地面に真っ逆さまだ!」


「わかった」


 返事するや否や、グリペンのエンジンノズルに真っ赤な火炎アフターバーナーが迸る。

 それから、ウルフが操縦桿を引くと、グリペンは主翼、それからカナード翼にまで空気を切り裂いてできるベイパー雲が張り付いた。

 成層圏を目指すロケットのように、雲を突き破り、遥か高みへと上昇する。


 <敵が雲の上に!>

 <安心しろ、この鋼鉄の車内に居ればどんな攻撃も防いでくれる!>


 雲を突き抜けた頃、グリペンは重力に引き留められ、徐々に速度を落とし、丁度5000ftで落ち葉のように一転落下する。

 今度は重力に引き寄せられるように、ぐんぐんと落ちていき、殺人的に加速していく。


 3000ft、先程突き抜けた雲の層を再び潜る。

 雲を抜けた時、彼の目は装甲列車の57mm主砲を真上から捉えた。


 <また現れました! 対空砲の射角が取れません!>

 <はっ、やれるものならやってみろ!

 何、本社からの通達? 敵ノ機体ハ何カ?

 おい、君は元空軍だろう、あの機体はなんだ? テレスコープで見てみろ>

 <はっ、工長殿! む、あの機体……!>


 1700ft、ウルフは57mm主砲の杜撰な溶接跡を捉えた。

 HUDの機関砲の照準ガンレティクルSHOOT!撃てと命じる。

 1600ft、ウルフはトリガーを引いた。


 その弾道を見届けることなく、直ちに機体を引き上げる。

 1500ft、1400ft、1300ft、1200ft、1100ft……"PULL UP! PULL UP!"

 まだ水平に戻らない、主翼は激しくしなり、コックピットが激しく揺れる。

 速度が上がった機体の立て直しは容易ではない。

 6.5G、7.0G、8.0G、"OVER G! OVER G!"

 機体が悲鳴を上げるように、警告音を発する。


「行ける……!」


 苦痛を顔に歪ませながらも、それでも、ウルフはグリペンを信じていた。

 500ft、機種が水平に戻った。


 <主砲のハッチが、うわあああああああああああああああ!>

 <あの機体、”白狼のグリペンで――!>


 直後、背後で爆発1回、2回、そして、大地を揺るがす大爆発が起きた。

 20mm機関砲が、ハッチを貫いて主砲の弾薬へと到達し、爆発が爆発を呼び大爆発へと連鎖したのだ。

 あの立派だった装甲列車は見るも無残な姿へと変わり、ただのスクラップの山と化した。


「……! 列車の停止を確認しました! ウルフ、怪我は?」


「大丈夫だ。それより下は……」


 ウルフはカメラを使い、下の様子を下がる。

 どうやら、列車は比較的開けた場所で爆発し、下の街への被害はなさそうだった。


「いや、ウルフ、よく見ろ。バラックヤードの東の方だ」


 大熊の指摘にウルフは肝を冷やした。

 そこに犠牲者が広がっているのを想像したからだ。

 しかし、そこに居たのは英雄譚の映画でも見たかのように、興奮の表情を浮かべ、拳を突き上げる少年だった。

 それだけではない、100名近くの大勢の住民たちが拳を突き上げ、歓声を上げている。

 若い娘が神を見るかのように、十字を切り、空を涙と共に見上げていた。

 母子が抱き合い、空を見上げていた。


「前の戦争が終わった時、私がお前に見せたかったのはこの光景だった」


「……」


「ベルヌーイの混乱のさなか、 悪徳企業に街を支配され、見捨てられた人々。

 彼らは私達が、コルサックなのか、ベルヌーイなのかもわからない。

 それでも、誰でも良いから、解放してほしかったのでしょう」


「解放者か、新たな二つ名が増えたな」

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