語られない前線(3)

「先日のウルフの行動が報道されました」


「ほう。それで君や一部の上層部が懸念した通り、世間からのバッシングは来たのかね」


「いえ……予想外に、世間は我が社に好意的な印象を持ったようです」


「くく、だろう?」


ATC本社、30階層にもわたるビルを貫くエレベーターの中にターンストンと、彼の秘書が居た。

彼は葉巻を取り出す、秘書がやんわりと禁煙ですと注意するも、彼は火をつけてそれを咥えた。


「別に世論は、あの哀れで貧しい村を救ったことを褒めたたえているのではない。

 ATCはよくやった。それに比べて軍隊は……と言いたいだけだ。

 我々は彼らの側シヴィリアンサイドなのだからな」


「そのことを予想して、彼等を止めなかったのですか? 」


「ま、民衆の反応よりも、もっと重要なものがある。

 我々の最大の同業者であり、最大のライバル、人民重工は黙っていないんじゃないか? 」


「そこまで見抜いていて……! 」


彼の秘書は驚いた声を上げる。

エレベータの扉が開かれ、ターンストンは意気揚々と降りる。


「さぁ、急ごう。この一歩は小さいが、いずれの大きな一歩に繋がる前進だ」



「ベルヌーイ人民のために、そして我が国の輝かしい未来のために、我々は築き上げる。ベルヌーイ人民重工、我らこそが祖国の守護者を支える力強い柱だ!」


五月蠅い程、壮大なオーケストラの音楽と共に、大勢の作業員たちがラインでウラル型戦車を組み立てる様子が映る。


「戦車から軍艦、戦闘機まで、我々の手によって生まれた兵器は、人民の安全を守る盾となる。我らの兵器をもってすれば、どんな敵の脅威に怯むことはない!

我らが作り上げた兵器が、国境を守り、輝かしい未来を築くのだ!」


黒煙を上げるミサイル巡洋艦が海面を進み、その上空をベア型爆撃機10機が編隊を組んで飛行する。


「我々は創り、守り、築き上げる!

 ベルヌーイ人民のために!未来のために!これが、ベルヌーイ人民重工の誇りだ!」


「同志よ、我々と共に働こう!」


掲げられた拳のロゴと共に、会社名とスローガンが現れる。

ベルヌーイ人民重工――人民の力、祖国の守護者。



「潰れたんじゃないのか、この会社」


ミーティングルームの大型モニターによって映し出された一昔前を思わせるベルヌーイ国営企業”人民重工”のプロパカンダを見て、大熊大佐は呟いた。


「確かに、コルサック―ベルヌーイ戦争の終結後、和平条約により軍需製品の製造は禁止されている。

 ただ、今でも存続しており、軍需製品の技術を転用した民生品の生産を行っている。

 ただ、国営企業として、国家に尽くしてきたからか、彼等の一部には厄介な者達もいてな。

 例えば、人民重工の一部門、兵装技研通称”重工技研”は条約を無視して、兵器を製造し、ベルヌーイ軍残党に提供している。

 それだけなら、我が社には関係ないことだが……画面を切り替えろ」


ターンストンは秘書に指示する。


新たなモニターが壁からせり出し、フォックスはおおと感心の声をあげた。 

合計三枚のディスプレイが左から映し出すのは、攻撃で廃墟と化した街に残る小さな工場群を捉えた衛星写真、ベルヌーイの内戦で撮られた戦車の写真、それをレーダー等分析したデータだった。

中央の戦車を映したモニターがズームされ、砲塔部についているセンサーを捉える。


「これは我が社、ATCが製造しているレーザーファインダーだ。

 重工は技研は、戦時中コルサックの兵器の調査も担当していたから、それを再利用・コピーしているのだろう。 

 どうであれ、我が社の技術が内戦で使われ、民衆たちを殺めるというのは人道的にも、会社の信用的にもあってはならないことだ。


 人民重工の広報は、重工技研の独断だとして、誠意ある対応を見せなかった。


 よって、我々はATCは、重工技研の拠点に対し武力攻撃を行う」


「それって……企業間戦争ってこと……!?」


フォックスは信じられないという表情で呟く。

民間企業が軍に協力して戦争というのはあるが、企業が利害の為の戦争を仕掛けるというのはSF小説の話だった。

ウルフは黙って聞いていた。




 

 

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