決着から始まる物語(5)

 映像開始:


 静かな音楽が流れると共に、映像が流れる。

 広がる青空の下、グリペンが滑走路を滑り、優雅に飛び立つシーンが映し出される。カメラが航空機を追いながら、ナレーションが始まる。


「ようこそ、ATCへ。ここは未来の空を切り拓く『トライアングル先進開発局』です。」


 次に、社内の最先端技術が集結した研究施設の映像。白衣を着た技術者たちが、モニターに映し出されたデータをチェックしている。


「私たちは、航空技術の最前線に立ち、試験飛行を通じて、世界の空を変える新たな航空機の開発に取り組んでいます。」


 グリペンのコックピットが映し出される。

 急上昇し、雲を突き抜けようとしている。


「トライアングル先進開発局は、次世代航空機の試験飛行を主な業務とし、その技術革新の可能性を追求しています。私たちの仕事は、単に飛行機を飛ばすだけではありません。飛行性能、安全性、効率性の全てを見極め、改良を続けることが使命です。」


 社員たちが航空機の整備や計測を行う様子、風洞実験やデータ解析のシーンが映し出される。


「私たちのチームには、パイロット、技術者、エンジニア、データアナリストなど、様々な専門家が集まり、全ての業務を一体となって進めています。あなたもこのチームの一員として、未来の航空技術を共に創り上げてみませんか?」


 グリペンは雲の層を突き破る。

 同じく、雲を突き破って来たホーネット/ミラージュ/ヴァイパーと優雅なデルタ編隊を編成する。


「トライアングル先進開発局。ここで働くということは、未来の航空技術を自分の手で形にするということです。挑戦する心を持つ皆さんの応募を、私たちは心から歓迎します。」


 社員たちが満足げに頷く様子が映り、最後にATCの三角形のロゴが画面に表示され、スローガンが画面に浮かび出る。


 <Advanced Triangle Company Advanced Development Department――まだ見ぬ、空の可能性へ>


 ――アドバンスド・トライアングル・カンパニー、トライアングル先進開発局、応募者に向けたビデオメッセージより。


 ◇


「ATCは先の戦争で俺達の使う戦闘機を製造していた。

 だが、お前さんの知っている通り、前の戦争での軍の行いは無能と呼ばれている。

 そして、兵器もポンコツだと連中は決めつけた。


 ATCはこの国だけに商売しているわけじゃない。

 上層部はそうした非難が、売り上げに影響することを恐れている」


 大熊大佐はいつものブリーフィングのように語る。

 2年経ったが、ウルフの記憶とは違わず、相変わらずの禿げ頭で立派な口ひげを携えていた。


「大丈夫ですか? 」


 床にへたり込んだウルフの額の傷を優しくハンカチで拭いながら、心配そうにのぞき込むのはフォックスだ。

 2年前は軍の規則に合わせた飾り気のない短髪にしていたが、今はふわふわとした長い髪にしていた。

 けれども、目は大きく、まつげが長く、その可愛らしい表情が喜怒哀楽の度に表情ころころと変わるところは変わりなかった。



 戦場で無茶をして、コックピットに頭をぶつけたウルフをフォックスが手当てしながら、大熊がブリーフィングを行う。いつもの光景だった。


「国民だけではなく、ATCも軍部に疑問を持っている。

 もっとも、烏合の集とは違って、より専門的な内容でだがな。

 

 そこでATCは私設の軍隊を持つことにした。

 その戦闘データを顧客に提供し、兵器の性能を信じてもらうという訳だ」


「……誰と戦う? 」


「ベルヌーイ残党だ。

 奴らは敗戦を不服として、ベルヌーイ内で内戦を広げ、国境付近のコルサック領内へ小規模な攻撃を仕掛けることもある。しかし、コルサックは世論の支持率を気にして、金のかかる大規模な軍隊の動員を絞っている」


 それを聞くと、ウルフは立ちあがった。

 大きな目をまたいて困惑するフォックスをおいて、彼は大熊の元へと近づくと、彼の顔面を思い切り拳をぶつけた。

 さらにウルフは押し倒して、大熊に馬乗りになった。


「アンタが平和が良いものだなんて嘘をつくから! 」


「っ! 止めてください、ウルフ! 」


 フォックスは勇気を振り絞って、何とか割って入ろうとする。

 それを止めたのは、殴られた本人だった大熊だ。


「止めるんじゃない!

 こいつには俺を殴る権利がある!」


「戦争を終わらせるよう戦えと命令して、次は俺に戦えと命令するのか!?

 戦場に戻りたいと思うよう仕向けたんじゃないのか!?

 本当は全部知ってたんじゃないのか!? 最初から、便利な道具みたいに使うつもりで! 」


 再度、怒号と拳が大熊に炸裂するが、大熊は黙ってそれを受け止めた。


「……こうなるとは、思わなかった。

 だが、すまなかった」


「クソ、畜生! 」


 激しく息をしながら、ウルフは大熊を離し、立ち上がった。

 大熊も唇から血を流しながらも、ゆっくりと立ち上がる。


「言い訳に聞こえるかもしれないが、お前を呼びことには抵抗があった。

 それでも、呼んだのは、俺のエゴだ。


 ウルフ、もう一度、ネメシスを結成した。

 お前さえよければ」


 大熊らしからぬ、真摯な口調だった。

 ウルフは息を整えて、それから一分ほど考えた後、短く告げた。


「……了解した」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る