決着から始まる物語(3)
勝利から2年。コルサック軍、戦後の経済崩壊と国民の怒り
11月5日発行 —
コルサック軍がノイシュタットを陥落させ、戦争の勝利を収めたものの、国民の間では戦争の「勝利」がもたらしたものへの怒りと不満が沸騰しています。軍の無能が引き起こした経済崩壊と、それに伴う国民の生活苦が、今やコルサック国内での主要な問題となっています。戦争による軍事費の膨張とインフラの破壊が、コルサック経済を深刻な不況に陥れました。その影響で、物価は急騰し、失業率も上昇。コルサックの国民は、戦争の勝利がもたらしたのは一時の栄光だけで、実際には貧困と困窮だけだと嘆いています。さらに、戦後の状況に対する軍の対応に対する怒りが爆発しています。軍の高官たちが戦争を戦い抜いた自らを誇示し、勝利を「誇り高い成果」と称賛している一方で、国民はその虚飾に嫌気がさし、「無能な指導者たちが国を破綻させた」との声が高まっています。軍部の失態がもたらしたこの経済的苦境に対する批判は、ますます激化しており、コルサック国内では軍人への不満と蔑視の感情が広がっています。コルサック軍は、戦争の最前線での「英雄的な」姿勢を振りかざしていますが、戦争の「結果」が国民にとっては最悪の事態を招いたことを、多くの国民は見抜いています。軍の高官たちは、戦争の終結を祝うばかりで、その後の経済的な困難には対処するどころか、国民の生活の厳しさを無視しています。また、勝利したとはいえ、前線の軍人たちは無能としか言いようのない行動で戦局を混乱させた。彼らの低い能力と無能な決断に伴う戦時費の増大が、戦争の終結後の経済危機を一層深刻化させたのは明らかであり、国民からは軍の無能さに対する強い不満と怒りが噴出しています。
◇
「駄目だよ。だーめ。全然、だーめ」
終戦から2年後、ウルフはとある企業のエントランスにいた。軍を辞めたウルフは平和な時代を生きていくために、就職活動に励んでいたが、此処まで全敗だった。
軍で貯めた貯金も底をつきそうになっていた。
今日も結果を伝えると、エントランスに呼ばれたが、眼鏡姿の男は醜悪な嘲笑でこう告げたのだった。
「軍人?パイロット? 我が社の設備整備担当となって、何の役に立つんだい? ええ?」
「戦闘機の機材調整も担当していた。機械類の調整には自信がある」
「ははは、冗談止せよ。 調整ができるなら、ミサイルの精度でも調整して、ベルヌーイの首都にさっさと打ちこめよ。何年戦争続けてんだ雑魚」
眼鏡の男はねちねちとウルフを煽る。
隣の受付嬢もププとわらう。明らかにそれは日ごろのうっぷんの八つ当たりだったが、根が真面目なウルフはそれを真摯に受け止めてしまう。彼は黙って、履歴書を回収しようとするが、眼鏡の男にヒョイととりあげられてしまう。
「返してくれ」
「いらねぇだろ、どうせ、誰もお前なんてとらねぇよ」
「そうだとしても大事なものなんだ。軍を辞める時、同僚が書くのを手伝ってくれたものだ」
「まとめて、死ねばよかったのに」
眼鏡の男はあっけらかんと言った。
「……なんてことを言うんだ?
俺、個人は良い。
だが、他の軍人たちも懸命に戦った、君達を含めた市民を守るために!
それを馬鹿にするのは」
「それが軍人の役目だろぉ!
それで金貰ってんなら、命ぐらい捨てろよ!
悔しかったら、勉強していい職につけばよかっただろうが! 自業自得でなった癖に!」
「……!」
「迷惑なんだよ、お前ら全員。
英雄だとか、戦果だとか、平和の為だとか、結局、金を無駄に消費しただけじゃねぇか。
俺達の税金でやってんだからさ、赤字じゃなくて、黒字の成果だせよ」
ウルフは男の言葉に衝撃を受ける。だが、企業のフロントにいるビジネスマンたちは男の言葉に同意するように頷く。一部の知識人が提唱した軍の無能説は、戦場で命を賭けた兵達にとってあまりにも冷酷なものだったが、それ故に感情に囚われず事実を淡々と述べるのはインテリジェンスでかっこいいという論調がビジネスマンを中心に広まった。
「何も間違ってないだろ、正論だ。
役割は終わりだ、消えろ! 消えろ、早く、消えろ!」
<だが、何の為に戦う? 平和とやらの為か? だが、平和の空にエースパイロットの居場所はない。それなのに何故だ?>
かつての敵の言葉が、脳裏をよぎり、気づけばウルフは男の胸元を掴んでいた。
「お、おい! 離せ! 警備を! 警察を呼べ!」
「……!」
男が脂汗を垂らし甲高い声で叫び、ウルフは冷静になり、咄嗟に手を離したが、オフィスは騒然となり、収拾が尽きそうにない。そして、速攻で、覆面姿の二人組が現れた。
「お、お前たちは誰だ!?」
「特殊武装警察です。治安パトロール中に、騒ぎが見えたので……何事ですか?」
覆面で顔が分からないが、女は冷たい声で眼鏡の男に尋ねる。
「丁度良かった! そこの男が暴力を振るってきたんだ、そいつは元軍人だ!テロリストかもしれない!」
「違う……!」
「おい、早くそいつを捕まえろよ!」
覆面の女は、警棒を取り出すと威嚇の為か、強く机にたたきつける。
しかし、それは眼鏡の男の手のひらに命中した。
「ぐあああああ! お前えええええっ!」
「おっと、失礼。手が滑りました」
「痛い、指の骨が折れた……!」
「まさか、あれぐらいでご冗談でしょう?
ま、苦情は最寄りの警察署にまで。
おい、お前、無駄な抵抗は止せ」
もう一人の覆面は、体格の良い、渋い声の男だった。ウルフは男を睨みつける、怒りが制御できなくなり、歯からうめき声が漏れそうだった。だが、覆面の男は諭すように告げる。
「元軍人なんだろう?
やめとけ、暴れたら、以前の同僚に迷惑が掛かるかもしれん」
「……!」
ウルフはネメシスの面々を思い出し、ぐっと下唇を噛みしめる。
「よし、良い子だ。 連行するぞ」
ウルフは二人に囲まれるように、連れ出された。彼の表情は文字通り、深手を負った狼のように、歯を強く食いしばり、眉間に深い皴を寄せていた。
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