決着から始まる物語(2)
「エリア2Aで何が起こっている?相当低い所に飛行機雲が……」
<市役所上空でとんでもないドックファイトをやってる連中がいる ありゃ、黄色の大鷲か!?>
グリペンとフランカーは大気を切り裂きながら、鷹達の縄張り争いのように激しく互いの背後を取り合う。大型のフランカー・ターミネーターは巨大な図体でありながら、空力法則を無視したようなねじまげるような動作でグリペンを追い詰める。これは強力なエンジンと、そのエンジンノズルを可変する制御システムが生み出しているものだ。
一方、グリペンも積雪を掛ける白狼のように、その追撃を軽やかにかわす。フランカーとは逆に小型な機体だが、非力さを感じない。軽量な機体と前方に付けられた小型カナード翼と、デルタ型の翼は並外れた空力特性を発揮する。
二機は互いに目まぐるしく位置を入れ替えながら、ミサイルを発射し、フレアで回避する。彼等の放つ輝きながら、落ちていくフレアはクリスマスのイルミネーションのようだ。
「フォックス、電波妨害を怠るな」
「はい、誰も彼には近づかせません!」
彼等の戦場から、遠く離れた空ではビジネスジェットを改造したストーカー早期警戒機AEWが電波妨害でウルフを支援する。彼らが後方で電波攪乱を行い、ウルフが奇襲・一騎討をしかける。それが対黄色連隊戦のやりかただった。
「レーダー上では二機が重なっています。……流石は、黄色連隊の伝説のエース、アドラー。この戦場でこうも飛んで見せるなんて。ほ、本当に彼は勝てるでしょうか?」
「馬鹿者。負けたら、誰が貴様の晩飯を奢るのだ? 勝つに決まっている」
そう言いながらも、大熊はレーダー情報を凝視している。二つの機影は重なったままだった。実際、彼等は重なっていた。二機は互いに重なり合いながら、ツイストしていた。互いにパイロットの姿が見える程だ。
<やぁ、狼>
「……!」
ウルフは珍しく驚いた。
敵から無線が来ることなんて、増してや敵のトップエースから無線が来るようなことなんてなかったからだ。敵、アドラーはGに声を震わせながら、それでも知的で、落ち着いていて、何処か楽しそうな声で続けた。
<君には仲間を何人もやられたな>
「それが戦争だ」
<だが、何の為に戦う? 平和とやらの為か?
平和の空にエースパイロットの居場所はない。
それなのに何故だ?>
二機は空高く上昇し、円弧を描きながら、互いの背後をつけ狙う。
「仲間達が望んでいるからだ」
<面白い>
その時、戦場を舞う雪が急に強くなり、ウルフとアドラーの視界を奪う。ウルフは焦ったが、敵の挙動を予測し、そこに回り込む。そして、視界が開けた時、目の前にはフランカーが居た。
HUDの
<仲間……か、見誤るな…よ…>
ウルフは慌てて振り返る。だが、その時にはフランカーは爆発、飛散しており、破片が空に散っていた。
<ああ、アドラー中佐が!?>
「敵の防衛網が乱れた! 機甲部隊前進!」
<て、撤退だ! 動けない者は投降しろ!>
「敵が撤退していく! 俺達は勝ったんだ!」
味方の歓喜の声とは対照的に、ウルフは呆然とする。あの強敵との戦いが、あんなに呆気なく終わったのか、本当に?
ウルフの心にじんわりと虚しい感情が広がる。
「ウルフ、応答してください、無事ですか、怪我はないですか、喋れますか? 大丈夫ですか!」
「落ち着け、阿呆! ウルフ、聞こえているか? 終わったぞ、戦争が! さっさと返事をしろ!」
「あ、ああ……。聞こえている。大丈夫だ」
フォックスの涙ぐんだ声と、大熊の興奮を隠しきれない声に、ウルフはようやく勝利を自覚する。そして、彼は大熊に尋ねる。
「これで平和が来るのか?」
「ああ。そうだ」
「大佐、アンタは知っていると思うが、俺は他国から難民として流れ着いた身だ。
俺は戦争が嫌で逃げだしてきたが、毎日食っていくために、戦争に参加せざるを得なかった。そして、ようやく、平和を迎えた。だが、戦争ばかりで、平和は初めてだ。平和というのは本当に良いものなんだな?」
「お前は明日をつかみ取ったんだ、自分で確かめてみたらどうだ」
「ウルフ。本当に軍を辞めるんですか?」
大熊は感慨深げに語り、フォックスは寂し気に尋ねる。だが、二人の声色にウルフを強制させるものはなかった。ウルフは彼らのAEWに近づき、翼を振って見せる。
寡黙な彼が出来る精一杯の感謝のつもりだった。
「ウルフ、帰投する」
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