見るなのタブー

 カリギュラ効果と言う言葉がある。


 かつて公開された映画「カリギュラ」が過激すぎる演出により一部地域にて上映禁止となった結果却って興味を引き大ヒットにつながったと言うそれであり、極めて近似したそれとして「鶴の恩返し」がある。


 平たく言えば、やるなと言われるとやりたくなると言う事だ。

 今まで数え切れないほどたくさんの文化が「大人」からその手の圧力をかけられながら、人気を得て生き残ったかは言うまでもない。

 そして逆に「大人」たちが見ようと推薦して来たそれが生き残る事は少ない、訳でもない。実際それらの存在は後世になって確かに力を発揮する事も多く、その事を指し示してそれ見た事かとなる話はそれほど珍しくもない。

 だが極めて単純な計算だが八歳の子どもにとって一年間は八分の一であり、四十歳の大人にとって一年間は四十分の一である。要するに、八歳児にとっての一年は四十歳の一年より五倍重い事になる。

 実際にはもっと重いとも言われている。

 要するに、大人から見てみれば長くてほんの数年しか持たない消費財でも、子どもから見れば一生モノの財宝だった。


 その一生モノの財宝を共有できない事がどれだけ子どもの心を傷つけるか、と言う理屈をこねるのはそれほど難しくもない。だがそれらの代物は親から見れば浪費にしか見えないしそれ以上に親本人の目から魅力的に映らない事が多い。

 いや「魅力的に映らない」ならまだいいが、危険物として判断される事も多い。

 その危険物扱いが余計に子どもたちの好奇心を掻き立て、尚更意欲を煽る。何とかして先延ばしにしたり達成が難しそうな条件を付けるが、子どもはその欲望のためにその条件を達成してしまう事も少なくない。

 それを裏切れば親は信用を失うし、子どもは意欲を失ってしまう。またさらに甘いと言うか寛容な親がその危険物に見える存在を子どもにあっさり与えてしまい子どもたちの中でアドバンテージを得てしまうケースも山とある。

 くだらないマウント合戦かもしれないが、大人だってファッションのトレンドを追いまくるのだから全く人の事を言えない。


 またむしろ魅力的過ぎるゆえに「本来すべき事をしなくなる」と言う方向で制限しにかかる事もあるが、それこそ端的に言えば嫉妬であり、親としての力不足であるとも言える。

 何せ製作者だって本気で客を楽しませるために作っている以上、オキャクサマの財布の中身と時間の取り合いをしている。「魅力的に映らないそれを作れ」など、それこそ「自殺しろ」と言っているのと大差がない。



 そして親にとって魅力的なそれは、子どもにとって魅力的には映らない事が多い。


 古臭いと言われるのはまだいい方で、第一次反抗期を経験した存在からしてみれば親からの押しつけがましいやり方はそれだけでマイナスの意味を帯びてしまう。これまで親から与えられて来たそれしか知らなかった存在にとって第三者的な刺激を持った存在は新鮮であり、親から与えられたそれはこれまでと同じ人間が供給した分だけ幼稚で子供っぽく見えて来るのだろう。


 とは言え、親からしてみれば子どもに与える存在は選びたい。自分の子どもが歪んだ存在にならないように、その可能性のある存在を排除したい。

 だがそれを100%やるなら、それこそ学校教育など受けず山奥の一軒家で暮らすしかない。いや、それでさえも寄って来る野生動物その他の影響で「マイナスの」影響を受けるかもしれない以上、完全なコントロールなど不可能である。

 女性だけの町について嘲笑を浴びせられた理由の一因は、女性だけの町を望んだ人間たちが「男性が主に作った」それらのコンテンツを嫌っていると言うか脅えている臆病ぶりを笑われたと言う事もある。無論それらの全てが男に因るそれな訳でもなく、公共の電波でやっている「国民的アニメ」の原作者はどっちも女性だし、主人公の声を当てているのだって女性だ。それを無視して男のせいでとか言うなど何のつもりだとか理屈であるが、それでももしテロ事件が起きなければその方向で現在も進んでいたかもしれない。




 しかし実際それらのコンテンツを排除するためだけに作られた「女性だけの町」が完成した以上、恐怖心と言う存在は決して侮れない。人間は正義のためならば残酷になれると言うが、それと同じぐらい懸命にもなれる。自分たちの正義を守るために動いた彼女たちの功績は、決して消されるべきものではない。

 ただそれと同じくらい、世の中の「俗悪」なそれも丹精込めて作られたのもまた事実なのだ。親とは、それらの代物から時間と金を奪い合う職業なのかもしれない。その戦いを務めて来た私の親には感謝しかないが、それでも筆者に出来るかと言われると不安しかないのも事実なのだ。

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