騒ぐと言う事は
なぜ、物事は人々の口の端に上るのだろうか。
それはひとえに、そうさせる力があるからである。
例えそれが悪い意味であったとしても、それだけの力を持っていることに変わりはない。好きの反対は嫌いではなく無関心であるとはよく言ったものだが、炎上商法とか言う不謹慎なそれであっても悪名は無名に勝ると言う事か。
と言うか、テレビについて騒ぐ時点で我々はテレビに負けているとも言える。嫌いと言うマイナスの意思を示す時点で関係している事がわかってしまう以上、それこそやり過ごすのが一番無難な選択肢だが、それができるのは小さな波だけだ。
流行と言う名の大波から人間が逃げるのは難しく、それこそ孤立無援と言う名の最悪の事態を避けるために水を浴びるしかない。海水でさえない明らかな泥水だとわかっていても浴びなければならないし、浴びせなければならない。その事に耐えられない保護者たちの多くが求めたのが、それらの存在が届かないシェルターだった。だがシェルターは所詮文字通りの避難所であり、生活空間ではない。なればこそ生活空間の常識そのものを変えてしまおうとしたのは正しかったが、それは失敗に終わった。
先ほど女性の陰部がと言う話をしたが、男性の陰部についてはかなり前から露出していた。無論実在の人物ではなく絵に描かれたひとケタの少年のそれだが、とある研究筋によれば第一次大戦の末期ごろから減少し第二次大戦の途中までほとんど消えていたとも言われているそれが、女性だけの町が出来上がった頃から戻って来たのだ。
無論不謹慎と騒ぐ存在もいたが、原作至上主義と言う名目のもとに黙殺された。別にその手の趣味嗜好の意味合いはなく、ただ話を面白くするためだけに存在しているそれをなくすと言う事は、話の面白さを奪うと言う事だ。
そんな事をしなくても面白くなるだろとか言うのは残念ながら暴論であり、自分の面白いと認めないそれを排除すると言う思想統制的なそれである。もちろん過激すぎるそれは良くないが、現状そちらに流れはない。
少なくともそこに行けば逃れられる場所が、出来上がってしまったからだ。
でも子どもがとか言う理屈を振りかざした場合、何と言われるだろうか。
自己満足。一人相撲。毒親。モンスターペアレント。
答えは、どれでもなかった。
そのつもりで離婚を申し出ようとした幼稚園年長の娘を持った女性は、自分に言われた言葉で開いた口が塞がらなくなったと言う。
答えは—————「女尊男卑」。
男性は性転換手術を受けていても入れないような場所にて「理想の教育」を受けさせようとする事自体、男性差別だと言う意見は女性だけの町が出来る以前から確実に存在していた。だが創始者たちの中にはその手の言動に対し過剰反応する存在も少なくなく、自分たちこそ男性社会で苦しめられて来た存在でありその無理解ゆえに女性だけの町を「作らねばならなくなった」と考えて来たはずの自分たちが差別する側だと言われて眉を吊り上げたせいで嘲笑され、訴訟を起こそうとして仲間に制止されたとか言う話もある。
実際、もし男子が「女性だけの町」で現在行われているような教育を受けた場合、相当に立派な人間になれる可能性はあるだろう。
何せ三訓として
「困っている存在をすぐ救え」
「仲間はずれは絶対にダメ」
「みんな違ってみんないい」
と言う言葉を小学一年生どころか幼稚園児でも唱え続け、その上に絶対的な「暴力反対」が存在し、そして何より小学生でも悪事を行えば刑務所に入ると言う極めて厳格なそれが行われているのだから。
その根源にあるのは外の世界の男たちになめられぬようにと言う一種の敵愾心だが、それにより男性的な罪科だけではなく女性的なそれをも排除すると言う徹底した教育。
ご存知の通りインフラ整備を含む第二次産業が中核となっている女性だけの町においては低学歴はハンデになりにくく、高校大学に進む資金や知力のない人間は中卒で世に出て小さな工務店などに勤める事も多い。エリート校や大学まで出た人間は主に女性だけの町を企業城下町としている誠心治安管理社に入社する事が多いが、その給料は中卒一年目の第二次産業従事者より安い事もある。
だが現場至上主義ゆえか水道配管業者でも事務員など「汚い所に触れない」仕事になると給料はかなり下がり、加齢により体力低下に伴いそちらに回されると生活水準の低下をせねばならないため生涯収入の格差は実はそれほど大きくないとも言われている。
とにかくその結果決して他人に隙を見せない立派な存在が出来上がるのだから、親としてはぜひ受けさせたい教育だろう。無論「水清ければ魚棲まず」と言われる可能性もあるが、少なくとも立派な大人になる事だけは間違いない。
それを女性だけが独占する事など、なるほど女尊男卑と言えよう。
もっとも、外の世界に中卒者を優遇する多数の企業と、小学生でも刑務所に入れられると言う過酷な刑法などを認める土壌などがあれば、どこでもできなくはないのだろうが。
女性だけの町へ教育のために移住しようとした女性たちの中には、後者の事実にひるんでその手を引っ込めてしまった人間も少なくないらしい。
しかも場合によっては拘束衣まで着せられるとか言うから、まったく私は女性だけの町に生まれなかった事に感謝するしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます