いよいよの時
若者のテレビ離れ。
そんな言葉が言われて久しい昨今であったが、最近その言葉の力が陰り出している。
テレビ離れとか言うが、女性だけの町に住むような人間のせいだ――とか言う暴論が暴論でなくなりつつある現状を憂える気も嘆く気も私にはないが、それでもそういう存在がいなくなった昨今の業界は、五十路の三文字が見えつつある私から見ても変わってしまった。
端的に言えば、私の子どもの頃にタイムスリップしたのだ。
やけくそになったら大当たりして、そのまま引くに引けなくなって暴走中だとか言う指摘もある。
どれだけの批判を受けようが知った事か、バッシングを受けても飢え死にするよりはましだとばかりになりふり構わなくなった結果—————もしそれが本当だとしたら、人間はびた一文進歩していない事になる。低俗だの下品だのとか言う謗り言葉を唱えるだけで満足するようなある意味高尚な人種を相手にし過ぎたせいで萎縮からの衰退を招き、崖っぷちまで追い詰められた。
—————そう、女性だけの町を作るような人種の。
いわゆる第一次大戦の最中、テレビジョンと言う力を持ったメディアのやり方について彼女たちは恐ろしいほどに口やかましかった。
二言目には教育に悪いと叫び回り、子どもたちを置き去りにして吠えた。
まだ毒親とか言う言葉もない時代、それこそ人間の盾と言うか矛の様に振り回して自分の主張を通そうとした。
無論全員がそんな人間であったわけではないが、そんな存在が悪目立ちした挙句暴行事件まで起こしたものだからどっちが教育に悪影響だとなり、その運動は急激にしぼんだ。
だが運動がしぼんだとしても残ってはおり、これまでほどではないがゆっくりとその方向に進むはずだった。
その流れが止まったと言うか逆流したのは、女性だけの町が完成した頃からだった。
—————為せば成る、為さねば成らぬ、何事も。
かつての英雄の文句だが、その言葉が第一次大戦の時に吠えていた女性たちに跳ね返って来た。
仲間であるはずの存在は自分たちの手であれほどの行いをやってのけたのだ、なぜ何もせずに吠えてばかりいるんだ?女性だけの町ではその手の存在から逃れられるのに何でしがみついているんだ?
と言う調子での批判が増え、実際に女性だけの町へ移り住んだ人間もいたが少数だった。多くの人間は家族がとか別に自分は気にしていないが世間がとか適当に言い訳を作って尻を動かそうとせず、口から文句を垂れ流していた。
どんなにテレビを始めとするメディアが過激化しようとも、文句をつけるばかり。下手に物理的に動けば自分が不利になるからこらえてはいるが、どうにもよろしからぬとしか思えぬ存在の跳梁跋扈とそれらの人気に頭痛と胃痛は増えるばかり。
女性だけの町が出来て繁盛した商売は建築物を出荷する業者と、外の世界に残った人間のための胃と喉の医者と、そして酒屋だとか言うギャグもある。女性だけの町が出来て過激化した表現に胃を痛め叫び回す女性が、ストレスを抱えて胃潰瘍になりその上で酒に逃げると言う話だ。
「この作品は原作に忠実に作られています」
もしテレビの倫理が退行ではなく進化したと言うのならば、このフレーズだけだろう。
原作者と言う名の発明者、版権の所持者を踏みにじる行いは厳格な視聴者たちにとって許されざる罪であり、アニメ化するような作品を作った原作者は文字通りの一発逆転の成功者となった。
無論テレビ局とて資金は無尽蔵ではないから素材は選ぶが、原作者がこの世を去っている作品は少しばかり悪質だが都合がいい。その版権が原作者の親族や会社などに移っている場合、原作者と言う絶対的独裁者のいない世界でお互いの落としどころを見極める事が出来るからだ。無論寛容な原作者もいるが、これまであまりにも安すぎると批判を受けまくって来た以上金を弾まねば原作者以上に視聴者に憎まれる。
昔と違ってその手の生々しいカネの動きは見えやすくかつ視聴者が文句を言うのも平易なので、余計に気を使わねばならないのだ。
—————この展開が、何をもたらすか。
「これオリジナル昭和じゃねえか」
「それも1970年代だよ」
そう、そんな黎明期のそれとしか思えないような作品のリメイクの連発。当然倫理規定などゆるゆるであり、しかも原作忠実と言う絶対的お墨付きのまま緩い倫理規定で作られた作品が技術だけ上げて戻って来る事になる。
時代設定が古臭いのはともかく展開が古臭いと言われて率を取れなかった作品は多いが、それでも薄味に慣れ切っていた視聴者にとっては十分衝撃的であり、新たな扉を開いたとも言える。
そしてその流れのまま、そのアニメは放映された。さすがにと言うべきか時間帯は深夜だったが、およそ何十年ぶり、いや半世紀以上ぶりだった。
いわゆる、女性の陰部が公共の電波に映し出されたのは。
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