秘密と揺れる感情
学校での生活は順調だった。
翔太は女子としての生活に徐々に慣れ、うまく男子であることを隠し通していた。
体育の時間も上手く避けて、クラスメートたちとも良好な関係を築いていた。
そんなある日、ふとした油断が彼の生活に大きな変化をもたらすことになる。
昼休み、翔太は廊下でクラスメートの莉奈と話していた。
彼女とはクラスでも特に仲が良く、翔子として接してくれることに安心していた。
しかし、その時、莉奈が不意に質問を投げかけてきた。
「翔子、最近なんか変じゃない?いつも何か隠してるような感じがするんだけど…」
翔太は一瞬焦った。
心臓がドキドキと鳴り始めるのが分かる。
今までバレずにうまくやってきたはずだが、何かが彼の素性を疑わせてしまったのだろうか。
「え?そんなことないよ、何も隠してないって…」
翔太は笑顔でごまかそうとしたが、莉奈の目は鋭かった。
「うそ。ねぇ、教えてよ、翔子。本当のことを知りたいの」
その真剣な眼差しに、翔太は嘘をつき通すことができなくなった。
深いため息をつき、ついに彼は自分が男であることを打ち明けた。
「実は…俺、男なんだ」
その瞬間、莉奈は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
翔太は彼女がどう反応するか不安だったが、予想外の言葉が返ってきた。
「ふーん、なるほどね。でも、バラそうとは思わないよ。ただ…」
莉奈はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、さらに話を続けた。「バラさない代わりに、私と付き合ってくれない?」
翔太は耳を疑った。
まさか、こんな提案をされるとは思ってもみなかった。
彼女が冗談を言っているのか本気なのか、すぐには判断できなかったが、莉奈の表情は真剣だった。
「え…付き合うって、どういうこと?」
「そのままの意味よ。あなたが男だって知ってしまったから、もっとあなたのことを知りたくなったの。誰にも言わない代わりに、私と特別な関係になってほしいの」
翔太は戸惑った。
彼女の提案をどう受け止めればいいのか分からなかったが、今はバレるのを防ぐためにも、彼女の話に乗るしかないと感じた。
家に帰った翔太は、奈緒美に莉奈のことを相談することにした。
だが、まずは様子を見るために、莉奈を「女友達」として奈緒美に紹介することに決めた。
「奈緒美さん、実はクラスで仲良くしている子がいて、今度その子を家に招きたいんだけど…いいかな?」
奈緒美は微笑みながら、「もちろんよ、翔子にも友達ができて良かったわね。楽しみにしてるわ」と答えた。
莉奈が家に来る日、翔太は少し緊張していた。
彼女が自分の正体を知っていることで、どう振る舞うべきか分からなくなっていた。
二人きりで話をしているうちに、莉奈の態度はどんどん親密なものに変わっていった。
「ねぇ、翔子。今日の格好もすごく似合ってるよ」
莉奈はそう言って、翔太の肩に軽く触れる。
翔太はその瞬間、心の奥で妙な感情が湧き上がってくるのを感じた。
普段なら感じないような違和感とともに、彼女の近さに胸がドキドキし始めた。
「ありがとう、でもちょっと緊張するな…」
二人の距離がどんどん近づいていく。
翔太は、莉奈の目が自分をじっと見つめているのを感じながら、何か言葉を返そうとしたが、うまく口が動かなかった。
気まずい沈黙が流れる中、莉奈が静かに口を開いた。
「翔子、私はあなたが男でも気にしない。むしろ、そんな秘密を持っているあなたに興味があるの。だから…もっと私に近づいてもいいんだよ」
翔太は、その言葉にさらに動揺した。
彼女の本音がどういうものなのか、奈緒美に相談するべきか迷いながらも、翔太は今の状況から抜け出せない自分に戸惑いを感じていた。
その夜、翔太はベッドに入りながら、莉奈の言葉を思い返していた。
奈緒美の望みを叶えようとする自分、そして自分自身の感情や葛藤。
それに加えて、莉奈の存在が今後の生活にどのような影響を与えるのか、全く予測がつかなかった。
翔太は、これからどうするべきなのか、深く悩みながら眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます