新たな学校生活

時間が経つにつれて、翔太の体は変化し始めていた。


毎日のエクササイズや食生活の改善で、少しずつ筋肉が落ち、体がしなやかになってきた。


セーラー服を着た自分を鏡で見たとき、以前よりも女性らしく感じることができたが、その変化は学校生活において新たな問題を生み出すこととなった。


「翔太、最近なんか雰囲気変わったよな?」


クラスメートの男子が、昼休みにふとそう声をかけてきた。


翔太は一瞬、胸がドキッとしたが、何事もないように微笑んで答えた。


「そんなことないよ。ちょっと運動量が減って、体つきが変わっただけかな」


表向きはそう答えたものの、心の中では焦りを感じていた。


クラスメートたちに違和感を抱かれ始めていることが明らかだった。


今の学校では、これ以上変化が進むと、いずれ何かがバレてしまうかもしれない。


その夜、奈緒美と夕食を囲みながら、翔太は不安な気持ちを打ち明けた。


「奈緒美さん、学校で最近みんなが俺の変化に気付き始めてるんだ。何だかこのままだと、もう隠しきれなくなる気がする…」


奈緒美はその言葉を聞き、少し考えた後、穏やかな表情で口を開いた。


「そうね、翔太。あなたがこれから女性として生きることを選んだ以上、周囲に気付かれることも避けられないわ。だから、私は提案があるの。もっと遠くの学校に転校して、そこで最初から女子として生活するのはどうかしら?」


「転校して、女子として…?」


翔太は驚いた表情を見せた。


突然の提案に、どう答えればいいのかわからなかったが、奈緒美の言葉は彼の不安を和らげるかのように続いた。


「遠い場所なら、今の学校の誰にも会うことはないわ。新しい学校で、最初から女子として生活を始めれば、あなたの正体がバレる心配も少なくなるはずよ。それに、その方が翔太も自分らしくいられるんじゃないかしら」


翔太はしばらく考え込んだ後、深く息を吐いた。


奈緒美の提案は、確かに理にかなっていた。


新しい学校で女子としての生活を始めることで、自分自身が抱える不安や疑念を少しでも解消できるかもしれない。


「分かった。奈緒美さんの言う通り、転校して女子として生活してみるよ」


翔太の決断に、奈緒美は満足げに微笑んだ。


新しい学校での生活が始まった。


翔太は「翔子」という名前で女子として学校に通うことになり、クラスメートたちも彼を完全に女子として扱ってくれた。


しかし、翔太は男性としての自分を隠しながら生活することに、予想以上の困難を感じ始めていた。


特に、体育の授業や更衣室での場面では、いつもハラハラしていた。


男子と女子の体の違いがある中で、自分が「バレないように」過ごすことは、予想以上にストレスだった。


友達になった女子たちと一緒に笑い合う時間は楽しかったが、彼女たちと接するたびに、自分が本当の女子ではないことを意識せざるを得なかった。


「翔子、今度みんなでプール行こうよ!」


クラスメートの一人がプールに誘ってきたとき、翔太は内心動揺した。


「えっ、プ、プールか…ちょっと、泳ぎは得意じゃなくて…」


翔太は慌てて言い訳を考え、誘いを断ろうとした。


プールのような場所では、男性の体が隠せないのは明らかだった。


しかし、そんな言い訳がいつまで通用するのか、翔太は不安だった。


その一方で、新しい学校の校長先生である加藤は、奈緒美の知り合いだった。


彼は、翔太が女子として生活していることを密かに知っており、その経緯についても奈緒美から話を聞いていた。


加藤は何かと理由をつけて翔太の学校生活を見守っていたが、その裏には好奇心が混じっていた。


奈緒美と加藤は、時折連絡を取り合い、翔太が新しい学校でどのように過ごしているかを話し合っていた。


翔太が新たな生活に苦労しながらも、少しずつ女子として馴染んでいく様子を奈緒美に伝える加藤。


しかし、奈緒美はそんな話を聞くたびに、翔太が自分の望む「娘」としての姿に近づいていくことに、密かな喜びを感じていた。

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