二つの顔
奈緒美さんとの新しい生活が始まってから、僕の毎日は今までとはまるで違うものになっていた。
外ではいつも通りの男子高校生として学校に通い、友達とも普通に話し、部活動にも参加していた。
しかし、家に帰ると、その日常は一変する。
家に帰ると、まず最初に浴室へ向かうのが日課となった。
奈緒美さんが「学校での疲れをしっかりと落としましょう」と言ってくれたからだ。
シャワーを浴びながら、僕はその日一日の学校生活を思い返し、少しずつ心と体の緊張を解いていく。
シャワーを浴び終わると、用意されている柔らかいバスタオルで体を拭き、鏡の前に立つ。
水に濡れた短い髪を手で軽く整えながら、坊主頭の自分を見つめた。
この頭では、どうしても女性らしさを感じられない。
それが少し恥ずかしくもあり、奈緒美さんの期待に応えるにはまだまだ足りないと感じることもあった。
「やっぱりカツラが必要だな…」
僕はクローゼットから用意されたウィッグを取り出し、慎重に頭に被せた。
長い髪が肩にかかり、セーラー服を着る前にすでに少し女性らしい気分が高まるのを感じる。
自分の姿が変わると、まるで違う人間になったようで、少しずつこの新しい自分に慣れていくのが不思議だった。
シャワーを浴び、ウィッグを被った後は、すぐに奈緒美さんが用意してくれた女性用の下着とセーラー服に着替えるのが日常の流れだ。
初めはその変化に戸惑い、居心地の悪さを感じていたが、奈緒美さんが温かく見守ってくれるおかげで、次第にその生活にも慣れていった。
「おかえりなさい、今日もお疲れさま」
着替えが終わると、リビングから奈緒美さんの優しい声が聞こえる。
その声を聞くと、僕は不思議と心が落ち着き、自分がこの場所で受け入れられていることを実感する。
「ただいま、奈緒美さん」
挨拶を返しながら、リビングに向かうと、奈緒美さんが笑顔で待っていてくれる。
その笑顔を見るたびに、僕はこの生活を続けていく決意を強めるのだった。
家の中では、奈緒美さんの指導のもと、女性らしい振る舞いを学ぶ時間が多くなった。
姿勢や言葉遣い、動作の一つ一つに至るまで、奈緒美さんは丁寧に教えてくれた。
特に姿勢に関しては、背筋を伸ばし、柔らかい動きを意識するようにと、何度も注意を受けた。
「女性として生きるためには、まずその姿勢が大切なのよ。少しずつでもいいから、意識していきましょう」
奈緒美さんの言葉に従い、僕は少しずつその教えを実践していくようになった。
ウィッグを被った自分の姿を鏡で確認しながら、歩き方や仕草が自然と変わり始めていくのを感じた。
しかし、学校ではまだ以前と変わらない男子高校生としての姿を保っていた。
そのギャップに時々混乱しそうになることもあったが、奈緒美さんが与えてくれた新しい自分に向き合う時間が増えるにつれて、その混乱も次第に薄れていった。
ある日の放課後、部活動を終えて家に帰ると、いつものようにシャワーを浴び、ウィッグを被ってからセーラー服に着替えた。
鏡に映る自分の姿を見つめると、以前の自分とはまるで別人のように見える。
男らしい顔立ちが少しずつ女性らしく変わっていくようで、違和感と同時に不思議な安心感を覚えた。
「どう?今日も一日お疲れさま」
奈緒美さんが部屋に入ってきて、僕の姿を見て笑みを浮かべた。
僕はその言葉に少し照れながらも、自然と微笑みを返した。
「ありがとう、奈緒美さん。少しずつ、慣れてきた気がします」
「それは良かったわ。焦らずに、少しずつ進んでいけばいいの。あなたがこの新しい生活に馴染んでくれることが、私にとって一番の喜びだから」
奈緒美さんのその言葉に、僕は心から感謝の気持ちを抱いた。
彼女のために、僕は新しい自分を受け入れることを決意したが、同時にその選択が自分にとっても意味のあるものになり始めているのを感じた。
その夜、僕は奈緒美さんと夕食を共にし、彼女が娘としての自分にどう期待しているのか、改めて話し合った。
彼女は無理をさせることなく、僕のペースで新しい生活を進めていくことを約束してくれた。
そして、夜が更け、ベッドに入ったとき、僕はこれからの自分の未来を少しずつ見据えるようになっていた。
奈緒美さんの望む「娘」としての自分を受け入れることで、僕は新しい人生を歩み始めていたのだ。
これから、学校と家で二つの顔を持ちながら生きる日々が続くだろう。
しかし、それをどう乗り越えていくかは、僕自身が決めること。
奈緒美さんの期待に応えながら、自分自身の未来を見つけていくことが、今の僕にとっての課題だった。
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