第14話 呪われた魔王達
快晴の天気に恵まれ、王都はこの日ども都市よりも賑を見せていた。それもそのはず、十数年に渡る人類対魔族の戦いに勝利したのだから。立役者は勇者ルークとその仲間五人。都市は勇者の帰還とその功績を称えるため、屋台が日夜並び多くの人々が活気に息づいていた。
そう――勇者一行を除いて。
豪華とも言えないオンボロな家屋。その中で三人の若者がテーブルを囲んでいた。
「クソっ。二人死んだ」
勇者ルークは先の戦いで失った戦力――もといい友の死を嘆く。タンクとヒーラーだったウドとノルンは魔王との戦いの際に命を落としてしまった。
「しょうがないじゃない。だってあの魔王、めちゃくちゃ強かったんだから。私の使った大魔法絶死絶命でも頭が痛い程度だったんだから」
大魔法使いルーレンが涙を目にためながら吐き出すように口にする。そう、彼女の魔力六割消費の大魔法でその程度だったのだ。
「わかってる。けど…」
「そうだぜ。大将の聖剣ハッピーエンドがあれだけ効力を発揮できたのは、二人の支援が合ったからだ。五時間も時間を稼いでくれて…それだけのことをやってくれたんだよ」
魔剣士のユズルドが深々と頷く。
正直言って、魔王を倒すには星属性と神聖属性が極限まで凝縮された聖剣ハッピーエンドの秘技【星に帰れ】の十連撃を余すことなく魔王に浴びせたからだ。その技の仕様に必要な溜め時間
五時間を彼らは稼いでくれた。そう、たった二人で…!
「ちくしょう!魔王城から去る道で妹のレルはどっか行っちまうし、姫様は元々魔王城にいなかったし、そのせいで俺達、魔王からも王様からもお宝一つ貰ってね―んだぞ!おかしいだろ?何だよ魔王を討伐した祭りって?俺達王様から微妙な笑顔で迎え入れられて、しかも、丁重に姫がまだ戻ってきていないから報酬は払えないとかいいやがって!舐め腐ってやがる!」
「でも、しょうがないじゃない。わたしたちじゃあ権力がないし…あの王様魔王並みに強いんだから…」
「ほんと、王様が魔王討伐に出向けばすべて収まるのにね」
ユズルドが呆れたような微笑んだ。
「全くだ!」
勇者ルークはそれに同意する。
「けど、レルちゃん、どこ行ったんだろう?」
三人は頭を悩ます。
レルさえ戻ってくれば――あの頭がよくて天才的な発想で聖剣を自らの手で造り、勇者ルークに与え、王様にその可愛さで取り繕って時期妃まで上り詰めたあの妹がいれば――こんな現状すぐに打破できるというのに。
「それにまだ、霧の魔女も見つかってないんだってね」
「魔王の嫁だったっけ?あんなもん見つかんなくていいんだよ」
「でもさ、そいつが姫様をさらってるんじゃないの?」
「……そうかも」
「もしかしたら姫も、そこにいない?」
ルーレンが尋ねる。
勇者も魔剣士もそれに頷いた。
あり得る、と。
「レルなら、あの魔女に取り入って自分が魔王になるとかいいかねない」
「そうね。あの子なら遣りかねないわ。そう言えば、魔王城から帰るとき、この城欲しい、とか呟いていたわね」
「ああ。王様の城より立派で豪華で飯がうまいって…」
「わかる。あの城の食料庫にあった飯、この国のものより美味かった。素材が違うね」
「…それじゃあ次の目的地は」
「ああ。そうだ。霧の魔女の住処だ。そこに、妹と姫と、ついでに魔王の嫁がいる!」
勇者一行は嬉々として立ち上がる。そして、各々が武器を手に取り掛かげた。
「よっしゃあ!ぜってぇ妹の魔王化を阻止するぞ!」
「おおー!」
こうして、勇者遠征パート2が始まるのである。
王様は眼の前にひれ伏す勇者たちを野蛮人を見る目で見下していた。
「今、なんと言った?」
「ですから、私の妹が次期魔王となるやもしれません。ですので、今からそれを阻止しに行きます。突きまして、国王陛下直々に金貨六千枚を手発祝に頂戴足したく存じ上げます」
「お主、我が国の国家予算を知っているかね?」
王様は勇者に訪ねます。
「いいえ」
「そうか。我が国の国家予算は金貨五千枚だ。私はお主たちに国家予算以上を支払いたくはない。国が終わる。先日の祭りにいくら注ぎ込んだと思っておる。我が国に余裕などないわ!」
「そこをなんとか!」
「そもそも妹が魔王かするとはどういうことじゃ!いや、そもそも姫を連れてきておらぬではないか!言っておくがな、あの魔王くらい儂一人で倒せたんじゃよ?だが儂は魔王と旧友であったから密かにお主たちに討伐と、魔王が気まぐれで連れ去った姫の回収を命じたのだ!それを差し置いて別件で我が国家予算を動かそうとは、傲慢なこと甚だしいわい!」
「魔王様、一つ提案があります!」
「魔王じゃない。王様じゃ!」
「失礼しました。提案というのは、我がパーティーメンバーである大魔法使いを姫様に添えるというものです」
「あ?」
「我が大魔法使いは容姿端麗清廉潔白な正真正銘の姫様であらせられます」
その言葉に、王様が大魔法使いルーレンに視線をやった。
確かに彼女は容姿端麗で胸が大きく可愛い童顔をしていた。
「ふむ…どこかの貴族出身か?」
「はい。ローズワン辺境伯の姪です」
ルーレンはなっていそうでなっていない最敬礼を披露しながら、真っ赤な嘘を吐いた。
「ふむ。そのような辺境伯は知らぬが…後で調べさせよう。しかし、お主が姫となるのは却下だ。論外だ。しかし、儂もお主らの力に期待している身。この国一番の冒険者と名高いパーティー【駆け出しの勇者】を信じることにしよう。お主の妹――あのレルが魔王になるなどという戯言はともかく、いなくなったのなら探しに行かなくてはな。金は金貨二十枚ほどなら出してやる。さぁ、行が良い。妹を救いにな」
王様は投げやりに答える。それでも王の厳格というものを保っているのだから大したものだ。
「ははぁ。アリガタキ幸せ」
勇者一行が王室間から出ていくと、王様はぐったりときらびやかな長椅子に腰掛けた。あのパーティーは国内でも敵にも味方にもしたくないと評判な最強最悪の異名を持つパーティーだ。その扱いにはこの国のトップで世界屈指の実力を持つ王様でも頭が痛くなる案件だった。
彼らの中でも勇者の持つ聖剣は基本スペックが化け物で、模擬戦とは言え国内の名家剣聖当主と大魔法使いの二人を同時相手にして無傷で勝利した事がある。それにプラスして剣先にふれるだけで大抵の魔物は消滅するというイカレ性能の聖剣に加え、十時間剣を握るというだけで世界の半分を滅ぼせる大斬撃を放つことができる(らしい)大技を秘めている。その妹のレルは天才と謳われる小説家であり、発明家としても有名だ。彼女が聖剣を自作し、実はそれを十五本世界にばらまいたと訊いたときは3日寝込んだほどだ。大魔法使いルーレンはこの世に存在しないとされる魔法だけを扱う異常者であり、現在彼女を教祖とした信教宗教が組織されつつある(ちなみに第一の使徒は勇者に負けた大魔法使いの一族である)。魔剣士のユズルドは魔法大学の創設者の孫にして、とある犯罪組織のリーダーという王様も手につけにくいハイイロの存在。今回死亡したというタンクは闘技場で無敗を誇る鉄壁と言われた戦士だったし、ヒーラーは他国から密入国した逃走中の聖女だったりする。
そんなありえんパーティーは、メンバーの殆どが頭が悪い以外に欠点はない。そして、王様が魔王のもとに彼らをよこした本当の目的は、その頭の悪さで我が国に膨大な被害をもたらさないよう魔王に討伐してもらうことだったのだ。
姫はそのための口実に魔王に預けたのだ。
だが、どんな間違いか魔王は討伐されてしまった。
そして、姫も帰ってこない。
王様はもう政のすべてを放棄して床に入りたかった。
「ベンゼル。いるか?」
王様が宙に言葉を投げかけると、どこから声がした。
彼は王様が一番の信頼を置く暗殺者である。裏切りは絶対になく、いつだって国王の命令を華麗に遂行してくれた。
「はい。ここに」
「あやつらを尾行しろ。そして、もしあやつらが我が国に害をなす行いをするものなら、始末しろ」
「了解しました」
王様は瞳を閉じる。
もう何も考えたくなかった。
勇者一行は考えもなしに森をあるいていた。勇者の手には一つの羅針盤があり、それは探し物を見つけてくれるという画期的なアイテムである。天才レルが作った魔道具であり、先程勇者がマジックバッグに入っていることを思い出し使ったのだ。
その指示に従い、彼らは深い森の中に入っていった。
数分歩いただけで、あたりに霧がたちどころに歩みを鈍らせた。ふと、先頭を歩いていた勇者が声を上げる。
「誰か居るぞ!」
すると、すぐに甲高い声が白い霧から漏れ出る。
「おや、気づかれたか!」
「誰だ!」
「私だ。次期魔王となるレルである!」
「おお、レルか。俺だ。勇者ルークだ!」
「勇者ルーク?悪いが知らぬ名だ!敵対するといのなら、我か糧となるがいい!」
あたりの霧が晴れる。
眼の前に巨大な蜘蛛の上に座る美少女が見えた。
レルだ。
黒髪のショートカットに悪い顔つきの少女。
彼女は何か巨大な杖を持ってそれを天にかざしていた。彼女に魔法は使えない。故にそれは、杖型のマジックアイテムだろう。
「ふははは。我が魔法にひれ伏すがいい!ファイアーボール!」
「バリア!」
ルーレンが一枚のバリアを勇者の前に作り出す。すると、ファイアーボールはバリアにあたり消滅した。
レルは驚愕に目を見開き、バリアを張った張本人を見る。
「な、我がふぁいあーぼーるが!!!」
「ふっ。この私がその程度の魔法の対策をしていないとでも!」
ルーレンがドヤ顔で答える。
それに対しレルは、ぐぬぬと悔し顔をした。
「こうなったら…おい、コヤツらを始末しろ!」
レルが叫ぶ。すると、蜘蛛の後ろからゆっくりと一人の女が現れた。
「はいはい…ああ、もう全く悪巧みがすべてパーじゃないの…」
その少女は大層機嫌の悪い表情を隠さぬ態度でルークの前に現れた。そして、少し息を吐いたあと、レルの方を向いた。
「ねぇ、これが勇者?」
「ん…そうだけど?」
「あんたの兄何でしょ?なんで顔を覚えてないのよ。ってか顔似てないし」
「だって義兄妹ですし」
「全くだ。ところで、あんた誰?」
勇者の問いかけに、女はゴミでも見る目を向ける。
「姫様ですが何か?てか、まじで何のよう?今から王国を滅ぼしに行くんだけど。魔女はもう滅ぼしちゃったし…」
「え…。まじかよ」
「そうそう。だから、兄妹なの喧嘩なら他所でやってくれない?本当に兄妹の顔すら忘れてるんだってなら…レル。あの件はなしにするから」
「な…ふ、ふん。最初から相手が兄だとこの天才レルちゃんはわかっていたのだよ。そ、そうだよな、兄よ」
「あ、ああ。普通は兄様呼びするのに、たまに頭が悪いときだけ兄呼びするのは変わりないようだが全くその通りなのだよ妹よ。それで、姫様よ。王国滅ぼしちゃっていいの?」
「ん?いいんじゃない?だって私魔王だし?」
「え?」
「いやね、兄様。最初は私が魔王になる予定だったのだが、どうも同じことを考えてる姫様が隣にいてな…それでどちらが最初の魔王を名乗るのかをじゃんけんで決めたところ、彼女に成ったのだ。許せ…世界の半分はもらう予定だ」
「魔王で世界分け合ってんじゃねぇよ!」
ふと、若い男の叫び声がする。
皆の視線が一本の木に集約した。
そこには、黒い人影があった。
「げ、く…さらばだ」
「させるかぁ!」
姫が黒服に手を向け叫ぶ。
その瞬間、黒服の動きが止まった。
「な…」
「ククク。貴様、国王の手先だな。そうとなれば、生かせておけん…。おい、そこの魔道士」
「いえっさぁ?」
「急に頭わるくなるな!こいつを始末しろ」
「報酬は?」
「国一つ」
「了解!」
ルーレンの目が輝き、手に持つ杖から巨大な氷の刃が出来上がる。
「ごめんね?…国のために死ねやっっっっl」
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
議会。その中でも国王直々に発令される王長議会が本日、何の予告もなく開かれた。集められたのはこの国の最高戦力である二人、大魔法使いルーダと剣聖オズベルド。そして、王様本人。
「さて、先程我が姫が魔王となり、勇者一行を引き連れ我が国に攻め込んでくるとの情報が入った」
国王が重々しい口調でその内容を告げる。
当然、残る席に座る二人は、口を開けるまでもなく驚き顔で沈黙していた。
「な…何じゃその前代未聞の大行進は…」
普段ならヨボヨボの声が聞こえるはずだが、世代が代り幼いロリ声が会議室に響き渡る。声の主は自身よりも背丈のある杖をきつく握りながら、言葉を続けた。
「わ、儂は逃げるぞ。魔王はともかく、あの勇者と敵対しとうない…」
祖母の影響か、後期高齢者言葉を使うロリ大魔法使いに王様の心が少しだけ癒やされる。
「ふむ。この俺もそれには賛成だ。魔王はともかく、勇者が行けない。あれには誰も勝てんだろ。この国くらい分け与えてはどうかな?魔王になったのは姫様なのだろ?だったら、姫様に国を譲るって言う体で争いなく国を与えることができる」
「…お主たちにプライドはないのか?」
「ない!勇者は儂の一族の教祖様であるからな」
「ないな。普通に考えて勝てない戦にいくもんじゃないね」
「な…お主達…」
王様は再度頭を抱えそうになったが、この二人の前でそれをすれば二人の意見が通ってしまう。王様はごほん、と咳を本当にしたあと、二人の顔を見渡した。
「…わかった。お主たちがそういうのなら儂一人で姫と戦おう」
「儂は逃げるからな」
「王様。あとは頼んだよ」
「く…できればお主たちも来てほしいんだがな」
王様が顔を上げると、とうに二人の姿はそこになかった。王様はため息をつきながらその名を呼ぶ。
「ベンゼル、いるか?」
「はっ。ここに」
黒服のそれが前に出た。姿を見せたのは、少しでも王様に安心感を与えるためだろう。
「お主が放った監視役はどうなってる?」
「…死亡したものかと」
「そうか…姫は殺人まで犯したのか…」
王様は過去を思い出す。姫は確かに世間離れした妄想が好きだった。例えば、【世界最高峰の蘇生魔法を使える聖女なのに勇者パーティーからお前は使えないと追放されたので魔王の嫁に嫁ぐことにします】とか、【弱小貴族の六女なのですべての婚約を断っていたら皇帝殿下からの婚約も断ってしまって、第二王子に目をつけられてしまいました】とか、【不治の病にかかり死亡した少女は来世で聖女(五歳)に転生しエリクサーを探す旅に出ます】とか、そんな妄想ばかりをしていたやつだった…。
まさか魔王になってしまうとは…。
ああ、頭が痛い。
「私も戦場に出ますので、ご安心を…」
「ああ。ああ、本当に期待している。お前は勇者達を頼む。…確か、3千の部下が居るんだったよな…」
「はい。そのとおりでございます」
「我が軍は…使えないか」
「……」
「…よし、せめて門の前で迎え撃とう。場所はわかるな?」
「はい。東門からかと」
「よし、今からゆくぞ」
勇者一行は何の弊害もなく南門へとたどり着いた。唯一予定外のことと言えば、姫が急に進路変更を告げたことだろう。東門から入る予定だったのだが、姫が何故かそれはだめだと宣言したのだ。勇者一行は姫の権力の元集っているため彼女の言葉に是非をつけることはしなかった。
姫は南門を盛大にぶち壊して都市内部に入り込んだ。得意の爆撃魔法であったため、音は盛大だ。
だが、不運なことに開けた道のど真ん中にこの国最強と名高い二人の戦士がいた。
「大魔法使いルーダに聖剣…えっと、長い名前のやつ。くそ、待ち構えていやがった」
姫がレルに肩車されながらそれらを二人を見下ろす。
名を呼ばれた二人は戦々恐々と彼ら一行を見上げ、そして剣聖が先に口を開いた。
「そ、そうだ。俺は剣聖。しかし勘違いするな、俺達はお前らの敵に回るためにここに居るんじゃあない。味方になるってのを伝えたくてここに居るんだ。ほら、王様からは聴いてるぜ。この国を取るんだろ?だったら味方になってやる。もちろん、ポストは王国戦士長だ。な、なぁ、お前もそうだろルーダ」
「あ、ああそうじゃとも。儂はもとよりレル様の下僕じゃからな。うむ。力になろうぞ」
「な、なんだコイツら。私と話すときと態度が全然違うではないか」
姫が恨めしいものを見るように二人を見下す。
「まぁいいじゃねーか姫さんや。俺は賛成だ」
ユズルドが笑う。
「そうそう。コイツラなら俺でも倒せる」
「ふむ、そうだな。今更小奴ら程度に負けるほど我らは弱くはない、か」
姫はそういうと、にやりと笑い宣言した。
「よかろう。我が傘下に加わった暁にはこの国の重鎮としての地位を約束しよう」
「「ははぁ」」
そうして、新たに仲間が加わった新パーティーは王都を蹂躙するため進行を続ける。
一方、東門で待ち構えていた王様のその部下三千は都市内で暴動が起きたことをすぐに察知した。何しろ爆発音がすごい。
「お、おい。何がどうなってる!」
王様のその問に、先程帰ってきた尖兵が答える。
「はっ。それが南門から入られたそうで、その、大魔法使いと剣聖が相手につきました」
「な、なに!」
王様は驚きのあまり失神しそうになる。すぐさまベンゼルがフォローに入った。
「まだ間に合います。急ぎ彼らの阻止を。これは王、貴方様しかできないことです」
「…わかっておる。すぐに向かうぞ」
礼拝堂なるものをルーレンの大魔法で爆撃しまくっていると、ズドン、と上から何かが降ってきて礼拝堂を何者かが踏み抜いた。
そいつは土煙を手で振り払うと、冷静さを隠せない声で言う。
「お前ら!やりすぎだ!」
そう。空から降ってきたのは王様だった。
「げっ」
「お父様。これはこれはどこからおいでになっているのですか。品格を落とされましたね」
姫が上品な口調で王様の登場を攻める。
「お、お前がいうか姫よ。今すぐこの蹂躙をやめろ。でなければ、儂が直々に相手してやる」
「あら、嫌ですわ。魔王と同格の力を持つお父様と戦うだなんて。ですが…私が次の国王になるのを阻止するというのでしたら…仕方ありません。受けて立ちます」
「そうか。やはり次の王狙いか。それならなすでにお前に渡す予定だったわ」
「まぁ、それは本当ですの?」
「ああ。本当だ。しかし、お前がこのような作戦を取ったことが許せん。少しは反省しろ!」
「いやですわ。お父様、可愛い愛娘に暴力だなんて」
「そうだそうだー」
「下品なお父様は嫌われるぞー」
「まったく、父がこれなら娘がこうなるのもしかたない」
「王様は引っ込んでろー」
「このブサイク」
「誰がブサイクだぼけが!」
「げっ。王様が怒った!」
「にっげろー」
「ふっ。受けて立ちましょう。今度は龍でも召喚してやりましょうか!」
「ああ、もう黙れ。黙れ。お前たちに政ができるとは思えん。この儂が支えてやる。それでいいな」
「あら、怒りは収まったのですか?」
「ああ。コイツラには武力よりも精神的な苦痛を与えたくなった」
「まぁまぁ。それはご愁傷さまです。では、明日にでも戴冠式を」
「無理だ。ここまで暴れられたら国民に言い訳が必要だ」
「あら。それは不要ですわ。なぜなら私は魔王として君臨するのですから。力の強い魔王として、民の皆様方に証明するためにしたことなのです。言い訳んて…」
「ああ。わかったわかった。とにかくだ。もう暴れるな。そして、宿を貸すからそこで安静にしてろ。いいな」
「わかりました。お父様がそうおっしゃるのなら、そしてそれで全て丸く収まるのなら、そういたしましょう。皆様。それでいいですね?」
「はーい」
「おっけぇ」
「わかった」
「ちぇっ。私の黄金竜の見せ場を…」
「それで結構です」
「う、うむ。儂も賛成じゃ」
「ということですので」
「ああ。ベンゼル。いるか?」
「はっ。ここに」
「コイツラを宿まで案内しろ」
「承知しました」
宿についた勇者一行は、すっかり仲良くなり夜通しカードゲームに明け暮れた。その騒ぎ用は昼間の暴れっぷりに匹敵するものがあり、宿に泊まっていた客も支配人も皆宿が炎に包まれる前に逃げ出したほどである。
後日、目を覚ました一行が目にしたのは、瓦礫の上で怒りを目にたたえたこの国の王様だった。
「おい。これはどういうことだ?」
「え…いやぁ、何のことかな?」
姫はとぼける。なにせ姫がそうやれと命じたわけではないのだ。姫からしたら自分も被害者のようなものである。
「…も、もう勝手にせぇ!儂はもうお前たちを助けないからな。儂は降りる。この国の国王を降りるぞ!コイツラに国を奪われてやる!そんで、魔王としてお前たちと敵対してやる!」
流麗歴五百三年。世にも珍しく同時期に新たな魔王が三柱誕生した。一柱は強大な知恵と国力を携えた【叡智の魔王】と呼ばれ、他国を次々と合併。巨大な王国を築くに至った。
二柱は【暴力の魔王】と呼ばれ、世界最強と名をはせた近衛騎士団を使い各国に自ら戦争を仕掛け、その全てに勝利し、歴代最強の魔王としてその地位を気づいた。
三柱は【叡智の魔王】と【暴力の魔王】に敗走した国・民族らを集め、少数ながらも遊牧民が如く世界を飛び回り【奔放の魔王】と呼ばれ、常に【叡智の魔王】と【暴力魔王】に立ち向かい、そのたびに負け、そしてその戦全てで生き残ったとされ、尋常ではない執念と戦術、そして自慢の体力を活かし二柱を幾度も窮地に追い詰めたとされている。
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