第8話 配信でも普段通りな兄妹

「———皆んなー、こんにちはー!」


 絵美が元気な声と共に配信を始める。

 声がさっきよろ一段高いのには、一種のプロ精神を感じさせるというもの。

 そして相手はもちろん、ダンジョンスマホに表示されたリスナー達。


〈こんにちは!〉

〈こんにちはー!〉

〈こんちは!〉

〈毎度のことながら朝の教育番組みたいな挨拶だよねww〉

〈こんにちは!〉


「もー、教育番組なんて言わないでくださいよっ! これでも真剣なんですからねっ!」


 不満さを滲ませ、ぷくーっと頬を膨らませてそうな声色の絵美。

 正直言って、とても可愛い。


〈真面目だなぁ〉

〈可愛いなぁ〉

〈癒やされるなぁ〉

〈雑談配信キボンヌ〉


「もうっ、皆んなのせいで全然本題に入れないじゃないですかーっ!」


 俺にはリスナーがどのくらいいて、どんなコメントをしているのか分からない。

 ただ、絵美が配信を心から楽しんでいるのはよく分かる。

 これで放送事故なんか起こした日には、また大バズリするだろう。


 ———炎上、という形で。


 それは可哀想なので、少々気を引き締めるとしよう。

 

 何て俺が思っていると。


「それでは本題に入りますね? 実は今日———とある方達とコラボして頂くことになりました! いえーい、わーいわーい!」


 更に1段と高くなった絵美のあざとい(多分意図してないから天然)声が聞こえてくる。

 さて、そろそろ出番のようだ。


〈!?!?〉

〈マ?wwww〉

〈コラボ?〉


 ———カシャッ、カシャッ。


〈え、誰?〉

〈ボッチのえみちゃんがコラボ??〉


「ちょっ———ボッチなことは言っちゃ駄目ですよぉ! まだお相手の方にはバレてないんですからっ!」 


 今君が言ったことでバレちゃったけどね。

 でもそうか……ボッチだったんだね。

 これからもちょくちょく遊びに行ったりしような。


「でも……多分皆んな分かりませんよ! だってそれほどレアな方達ですから! えっへん!」


〈胸張るえみちゃんかわよ〉

〈俺分かっちゃたかもww〉

〈俺もだわww〉

〈てか簡単ww〉

〈ずっと聞こえてるww〉


 ———カシャシャシャシャシャシャ。


〈ほら聞こえたww〉

〈丸聞こえですww〉


「ええっ!? あ、まぁ確かに……それでは、ご紹介いたします! 今回のコラボ相手……というかゲストは———昨日ツウィッターを中心に大バズリした新気鋭のおもしろ兄妹のお二人です!!」


 その言葉と共に、恐らく俺達へとダンジョンスマホが向けられたのだろう。

 向けられたのだろうが……ちょっと待って欲しい。

 今は……。


 ———カシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!


「おにぃ、スマホが向けられてるよきっと」

「知ってるわ。気になるなら先に自己紹介しておけば良いんじゃね? あ、ついでに俺の自己紹介も頼む。———おお! 左ゴブ様の強烈な右フックが炸裂した!」

「またまた〜、おにぃは卑怯だな〜。もちろん配信よりこの———ゴブリン様同士の仁義なき戦いをカメラに収めることを優先するに決まってるよ! おほっ、右ゴブ様の渾身の一撃が入った! いいぞーそのままやっちゃえーっ!」


 今は……珍しいゴブリン様同士の戦いを撮影するのに忙しいのだ。

 お互いに話しながらも、カメラから目を離すことはなく、様々な角度から数十メートル離れた所にいるゴブリン達を撮影している。


「お二人さん!? もう自己紹介の時間なんですけど!?」

「「今大事な所だからタイムで」」

「この配信にタイム機能はないんですけど!?」


〈おおおおおおお!!〉

〈うおおおおおおお!!〉

〈マジかよ!?〉

〈本物じゃん!!〉

〈あの撮影会の兄妹がえみちゃんの配信に!?〉

〈すげぇ……ガチなんだなぁ……〉

〈あの姿勢はガチすぎるってww〉


「ふえっ!? ど、どどどど同接6000人!? 普段100人くらいなのに!?」


 後ろから何か驚いたような声が聞こえるが、わたわたしている所も可愛———うわマジかよ!?

 あぁ……やっぱ右のゴブ様が勝つかぁ……。

 まぁ動きも良かったしそうだよなぁ。


「へへっ、やっぱりー! 私の目に狂いは無かったね!」


 そう言いながら、凛音が嬉しそうに破顔してぴょんぴょん飛び跳ねる。

 その際だが……案の定揺れることはなかった。


 まぁそれはさておき。

 これで、俺と凛音のどちらが勝つか勝負は勝敗を喫した……かのように思われたが、当たり前のように不満爆発。


「いや待て妹よ。先に問答無用で決めるのはズルいだろ。せめてお互いじゃんけんなり何なりしてだな……」

「負け惜しみかな? かなかな?」

「よぉし、10分間こちょこちょの刑な」

「ええっ!? そんな理不尽、私は断じて認めない! 寧ろ返り討ちにしてやるもんね!」

「お二人共ぉ……自己紹介してくださいよぉ……」


 俺達が少し距離を取りつつ、ファイティングポーズの構えを取り出すと、絵美が縋るように言ってくる。

 その姿は大変可哀想だが……ここで意識を凛音から外したら反撃されること間違いないので、慰めることは出来ない。

 ごめんよ、絵美。


〈えみちゃん涙目で草〉

〈2人は良く分かってるみたいだな〉

〈やっぱえみちゃんがベソかいてる時が1番良いんだよな〉

〈えみちゃんどんまい!〉

〈えみちゃんかわいいよ!〉

〈てかあの兄妹仲良すぎだろwww〉

〈何かバカップルのイチャイチャを見せつけられてるみたい〉


「お二人共、10万円はどうしたのですか!?」

「「5万でいいからもうちょい待って」」

「何でぇぇぇぇ!!」

 

〈ブレないなぁ〉

〈あの動画どおりすぎるwww〉

〈ギャラ下げてまで写真撮影を優先させるんかい!ww〉

〈か、変わってるなぁ〉

〈逸材すぎで草〉

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