第3話 F級ダンジョンを無双する兄妹
「———さて、と。一通り撮り終えたことだし……駄目だよ、そんな捨てられた子犬みたいな目で俺を見ても」
俺は、破壊力抜群な妹によるうるうるの上目遣いを食らって怯むが、何とか兄の威厳だけで持ち堪える……も、さらなる一撃が放たれる。
「おにぃ……どうしても、だめ……?」
……妹よ、お兄ちゃんは君が将来男を手玉にとる悪女にならないか心配だよ。
いつの間にそんな奥義を覚えてきたんだい———って昔から俺はその目に弱かったもんね。
「でも、今回ばかりはお兄ちゃんだって流石にやりたくない」
「それは私だってやりたくないもん! というか私には無理だよ! お願いおにぃ、一生のお願いだから!」
「ほぅ……なら、今まで積み上がった49回の一生のお願いはどうしたんだ? ん? 凛音は50回も転生できるのかな?」
「うっ……」
俺が今までの一生のお願いを持ち出して不敵な笑みを浮かべれば、痛い所を突かれたとばかりに渋い顔で声を漏らす凛音。
続けて、必死に言い返す言葉を探しているようだが……見つからないのか悔しそうに目を泳がせて黙り込んだ。
ふっ……お兄ちゃんの完全勝利だな、妹よ。
ククッ、今まで散々甘い顔して叶えてあげたのだ、今回くらいは公平に執り行おうではないか。
因みに、今俺達がお互いに何をなすりつけ合っているのかというと。
「どっちがダンジョン内のホーンラビットを倒すか、正々堂々じゃんけんで決めようか……!」
今告げた言葉通りのことである。
当たり前だが、俺も凛音もあのきゃわいいの権現みたいな生き物を殺すなんて酷いことしたくない。
ならなぜダンジョンに来た、とツッコまれそうだが気にしないことにする。
「勝てば……再び撮影するも良し、寝そべって惰眠を貪るも良し。対して負ければ、このダンジョンを攻略するまで戦う。もちろんボスも倒さないといけないからな? さぁ、天国と地獄、どちらが笑ってどちらが泣くか決めようじゃないか!」
俺は仰々しく手を広げて詳しい説明をする。
ウチのじゃんけんはいつ何時でも1回勝負と決まっているので、ソレに関しては説明する必要はない。
その証拠に、凛音は覚悟を決めたようで、意地でも勝つという意志を籠めた視線を向けてくる。
「……分かったよおにぃ……。私は本気で挑むからね」
「ふっ……掛かってこい、妹よ。お兄ちゃんの強大な胸を貸してやろう」
そう宣言したのが合図。
お互いに腰を落として右手を横腹辺りまで引き……カッと目を見開く!
「「最初はグー! じゃんッ、けんッ———」」
「———おにぃ〜〜がんばえ〜〜」
「くっ……あんの天使ぃぃぃ……! なぁにが『がんばえ〜』だ、巫山戯やがってからに……ッ!!」
「何てぇ〜? 天使しか聞こえないよ〜」
「くそうっ、ちくしょうッ!!」
この会話を聞けば、結果は火を見るより明らかだろう。
俺が負け、凛音が勝った。
凛音は普段からグーばかり出すからと俺がパーを出したら……何とあやつはチョキを出しやがった。
完璧な戦略負けを喫した瞬間である。
「はぁ〜私はおにぃが頑張ってる間、お花とお空を眺めながらお昼寝しよーっと」
「ぐぬぬ……!」
駄目だ駄目だ、耳を傾けるな。
コレ以上聞いてたら嫉妬でおかしくなっちまうよ。
俺は何度も何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
繰り返し深呼吸をして少し落ち着いた所で、凛音が寝る暇もなく終わらせてやるという反骨心をバネに、意気揚々と俺は懐から手の平サイズの武骨なリコーダーに似た笛———所謂『モンスターチャームの笛』を取り出した。
そして———。
———ぴゅぅぅぅぅぅぅ!!
笛の歌口に口を当て、あらん限りの息を吹き込んだ。
それはやまびこのように
数は……大体100匹前後。
群れの最奥には、周りのホーンラビットより一回りも二周りも大きな体躯のホーンラビットがいる。
恐らくソイツがホーンラビットの群れを従えると共に、このダンジョンのボスとなる個体だ。
「さて……初ダンジョンで初実戦、いっちょやってみますか!」
俺は死体に群がる蠅のようにやって来るホーンラビット達———あれ、それだと俺が死体じゃん。ま、まぁそれはともかく———を鋭い眼光で見据える。
そして腰を落としつつ、しっかりと地面を踏み締めながら腰のバスターソードの柄を握る構えを取った。
バスターソードの長所は、柄が長いので、片手でも両手でも使えるという点。
俺……というか俺達はどちらでも使うので、色々と試行錯誤した結果……1番使いやすいと感じたのがこの種類の剣だった。
まぁそれはさておき。
俺は余計な思考を止めて脱力。
何度か息を吸って吐いて……最後に大きく吸うと、柄を握ると同時に全身に力を籠め———。
「———【飛燕一閃】」
バスターソードを低い姿勢のまま横一文字に薙いだ。
その瞬間———ボスも含めた百もいたホーンラビットが、ほぼタイムラグなしで横一文字にスパッッと両断される。
《ダンジョンを攻略しました。これより1週間は当ダンジョンを封鎖します》
同時に腕ポケットに入った覚醒者カードがピピッと音を鳴らし、ダンジョンの踏破を告げた。
その音を聞き届けた俺は、額の汗を拭い、驚いているであろう凛音に声を掛けようとして、
「あ、モンスターの回収ももちろん、じゃんけんに負けたおにぃの仕事だからね?」
「くそったれッ!!」
逆にニヤニヤした顔で先手を打たれ、思わず地団駄を踏んだ。
「……な、なななな……え……は?」
片方が寝転び、片方が文句を垂れながらホーンラビットを鞄に入れる2人を、後方からダンジョン用スマートフォン———通称ダンジョンスマホで撮影していた1人の男が、開いた口が塞がらないと言った様子で呆然と眺めていたのだった。
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