第4話 初のダンジョン攻略を終えた兄妹

「———くそう……。よくも俺に全部やらせやがって……」

「ふふんっ、おにぃが負けるのが悪いんだよ!」

「普段俺に負けて泣きついてくる奴が良く言うぜ」

「ナンノコトカナー。あ、外が暗いよ!」

「おい話を逸らす……ほんまや」


 無事全ての回収を終えてダンジョンから出てきた俺達は、自動ドア越しの外が暗いことに気付いた。

 暗いと言っても、街頭や建物の明かりで物凄く明るいのだが。


 ただ、ダンジョン内と外で時間経過が違うという話は本当だったんだなぁ……何て考えながらそのままの足で覚醒者協会に向かう。

 今回は初めてということもあり、出来るだけ覚醒者協会の近くを選んでいたので、数分もすれば到着。


 直ぐに首が痛くなるくらい見上げないと頂上が見えない高さを誇る覚醒者協会のビルは、壁の殆どが窓のため、他よりも強力な光を内側から放っている。

 そんな規格外の建造物に、田舎者である俺達は、


「相変わらず大きいねぇ〜」

「それな。ウチの街じゃこのレベルの建物存在しないもんな」


 ほえぇ……と口を半開きにして陳腐な言葉を並べるしかできない。

 しかし呆けるのはこの程度にして退けないと、余計な喧嘩を売られそうなので、早急に中へと移動。


 威圧感のある(大都市に来たこと無い人限定)外装とは違い、中はオフィスのエントランスみたいな清潔感を重視した意外と殺風景な内装だ。

 それでも当初の俺達は近未来の空間に来たかのように目ん玉ひん剥いたんだが。


 少し前の滑稽な自分達の姿を思い出して笑みを零したのち、受付の美人なお姉さんのいる机に空間圧縮鞄———ラノベでいうアイテムボックス———を置いて口を開く。

 

「この鞄の中に入ってるヤツの買い取りお願いします」

「はーい、少々お待ち下さい」


 にこやかな笑みを浮かべた受付の美人なお姉さんは、鞄を持ってカウンターの奥へと消えていった。

 それと同時に、隣の凛音がツンツンと腕を突いてくる。

 無視しても無理っぽいので仕方無しに目を向ければ……頬を膨らませ、ジト目で見つめてくる凛音の姿があった。


「……おにぃ、絶対美人でおっぱいが大きかったから選んだでしょ」

「もちろん。どうせ話すなら美人でおっぱい大きい人の方がいいだろ」

「チッ、おにぃがあんな贅肉を好きなんて有り得ない。絶対矯正させないと」

「お前ほんと巨乳な人に容赦ないよね」


 気に入らないという感情を全面に出した苦々しい表情で舌打ちをする凛音。

 本人がどれだけ頑張っても大きくならないから恨んでいるのは知っているが、それを俺にまで押し付けてくるのは一体どうなんだ、我が妹よ。


「てか凛音、アニメとか漫画の巨乳は何も気にせず見てるじゃん」

「それはそれ、これはこれ」

「何と使い勝手の良い言い訳だ」


 何て軽口を交わし合う俺達の下に、例の巨乳なお姉さんが戻ってくる。

 その表情は、僅かに驚きを孕んでいるようだった。


「えっと……ホーンラビット106匹、確かに確認いたしました。ボスの魔石だけ斬られていましたので買い取れませんが……」

「は? なに———」

「それでいいです!」


 俺は無駄に喧嘩腰な妹の言葉を遮るように食い気味に答えつつ、口元を押さえる。

 それでも何やらモガモガ言っているが、無視してお姉さんの言葉に耳を傾けた。


「そ、そうですか。でしたら……ホーンラビット106匹で6万3600円です」

「「おおっ!」」


 お姉さんから渡された予想外の大金を前に、思わず声を上げる。

 だが、お姉さんが生暖かい目を向けてくるのが恥ずかしくなり……俺達はそそくさと頭を下げ、鞄を回収して回れ右。


 しかし、お姉さんから少し離れれば、

 

「おにぃ……!」


 俺の横を歩いていた凛音がこちらを見上げてくる。

 その瞳には確かな期待が宿っていた。


 ふっ……言いたいことは分かってるから焦るでない。


 俺は凛音の視線を受け、ニヤリと笑みを浮かべると。


「———今日はお寿司パーティーだ、高い寿司食い行くぞ! 後のことは後で考えれば良いのさ!」

「やったぁ! おにぃ大好きーっ!」

「ふははははは、寿司食うぞおおおおお!!」

「おーっ!!」


 抱き着いてくる凛音と共に、テンション最高潮のまま足早に協会を跡にした。



「「ホーンラビット様、感謝します!!」」








 ———俺達が高級寿司店で涙を流しながら食べていたまさに同時刻。


 ネット上に、1つのダンジョン攻略の様子が映された動画が流された。

 兄妹が一眼レフで写真を撮り、じゃんけんで戦うかを決め、百を越えるホーンラビットの大群を、一振りの内に全滅させる動画が。


 そのことに気付くのは、もう少し先のこと———。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る