第7話

 雪が降っている日だった。


 彼女が、倒れていた。雪にうずくまっている。真っ赤になっていて。周りが。


「待って」


 抱き起こそうとして、強めに言い止められる。一度も聞いたことのない、彼女の。強い声。


「抱き起こさないで。そっとしてて。肚が裂けてて、体勢変えると全腑出ちゃう」


「でも」


「あ。え?」


 彼女。いま、自分に気付いたらしい。


「え。ええ。えへへ。嬉しいなあ」


 さっきとはまったく違う。いつもの彼女の声。やさしくて、ちょっとだるそうな感じの。


「なに言ってんだ」


 どうしよう。どうすればいい。助かるのか。肚が裂けてるって言った。今。


「起こしてよ。顔見えない」


「いや無理」


「抱き起こして。こう、お姫さま抱くみたいにさ」


 なんで。なんでこんな状態で。笑ってられるんだ。なんでそんなに安心したやさしい声が出せるんだ。なんで。


「ねぇ。顔見えないから」


「見えるだろ」


「見えない」


「待って、今」


「助けは要らない。いらないの」


 やさしい声で。押し留められる。


「望んだ結果なの。これが。だからあたしは幸せ」


 あたし。彼女の。いつもの。


「起こしてよ。わたしを。あなたの顔を眺めながらしにたい」


 そう言ったっきり。


 彼女は、喋らなくなって。動かなくなった。

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