第4話

 次の殺しは、でかい。

 ようやく、待ってたやつが来た。わたしの記憶を食ったやつ。こいつを殺して、わたしの記憶を。


 いや違うな。こいつを殺して、こいつに殺されて、わたしはそれで終わり。


 記憶を食われたから、殺す。わたしの記憶に興味はないし、わたしが誰だとかどういう過去があったとか、そういうのも、どうでもいい。多分こういうのは、記憶があった頃も変わらなかっただろうなと思う。根源の、わたしの軸にある部分は、いつも投げやりで自暴自棄。唯一、肌身離さず持っているこのライターだけが、わたしの過去の証明。


 この前ひさしぶりに帰ってきた、わたしの部屋。悲しいほど小綺麗。ひさしぶりなのに、すぐ暮らせてしまう。わたしがいない間もロボット掃除機が綺麗にしてくれたようで、まったくもって何の不具合もない。最適化された部屋。そう。これがわたし。死に向かって最適化された殺しを行うだけの、つまらない女。


「くそっ」


 冷蔵庫を開ける。


 酒はなかった。


 習慣とはおそろしいもので、好きでもない酒でも、飲み続けていれば勝手に冷蔵庫を開けるようになってしまうらしい。彼と暮らしていて、唯一残されたわたしの習慣が。好きでもない酒を呑むことだけか。ばからしい。


 彼に。何も残せなかったな。せめてキャッシュカードぐらいは置いていくべきだったかもしれない。さんざん酒呑んで下着を投げ散らかして、金も置いていかずに去る女。最悪すぎる。呑んでないのに吐き気がする。キャッシュカード。いまからこっそり置きに行こうか。

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