優柔不断

青山えむ

優柔不断

 どんっ。真夏の夜、外から音がした。

 花火だ、きっと花火だ。今日、花火が打ち上げる噂があった。

 時間もちょうどよい。


 私は自宅の二階にいた。窓を開けたら見えるだろうか。

 しかし花火の音がする方向に、窓はない。


 隣の部屋に行きカーテンを開いて窓の鍵を開けるか。それとも玄関まで行き家族を誘って外に出ればよいか。


 しかし外、地上だと花火が見えない可能性がある。

 私は悩む。悩んでいる間も花火の音はどんどん鳴る。


 いったん隣の部屋に行き、そこから見えるか試してだめなら玄関に行く。それが一番無難だろう。


 しかしこの花火は五分間だけの打ち上げなのだ。


 年老いた家族を誘い移動している間に花火は終了するかもしれない。

 隣の部屋に行くことすらロスになるのだ。


 どんっどんっ。音はどんどん大きくなる。五分間が過ぎてしまうかもしれない。


 とりあえず部屋を出た瞬間に決めよう。

 そう思いドアを開けたら天井から落ちてきた。知らない男だった。


 私の危機感知は作動し、目まぐるしく頭の中が回転する。

 この男は天井裏に潜んでいたのだ。昔そんな事件があった。


 予想外に落下したせいか、男は頭を抱えて唸っている。


 現実離れした状況に、ついていけない。

 そもそも最近の私はうつ病の傾向があった。感情の起伏が少ないのだ。


 私は怖がり逃げればよいのだろうか。年老いた家族を連れて避難すれば。


 そうしたら花火は見れない。


 もうすぐ五分間が経つのではないだろうか。無駄に悩むことが増えた。


 無性に腹が立った。

 花火の音が聞こえない。もしかして花火ではなく、この男が動いていた音だったのだろうか。


 それを花火だと思い私は喜び、大いに悩んでいた。

 腹が立つより、恥をかかされた気分だった。

 それに壊れた天井を、どうしてくれるのだ。


 許せない。殺してやりたい。

 幸い護身用のナイフがあるし男はまだ頭を抱えてうずくまっている。


 こいつは天井裏に潜んでいた犯罪者だ。正当防衛を唱えよう。

 それに私はうつ病の傾向がある。責任能力が、きっとない。


 殺すか、動けない程度に刺すか。五分以内に決めなければ。


 ああ、もう、花火じゃなかったんだ。









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優柔不断 青山えむ @seenaemu

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