第5話 スーパーキノコブラザーズ2は難しい

 優気ゆうきは時間に余裕を持ちながら教室までゆっくりと足を運ぶ中で、先生の思慮への感謝、そして昨日の有り得ない事象は全て秘密にすることを約束したことを再び思い出す。今日一日、そのような内容のことについて話さなければいいが、確実に怜真れいまは昨日の放課後に起こったことについて話しかけてくることが予想される。


「全部夢だったんじゃない?」という言い訳で済むほど簡単な弁解はもちろん通用するわけがない。そこで、その内容に触れられたら心苦しいが無視を決め込むことにした。この答えは怜真やその他の友人を巻き込まないためのものであり、未知なる不思議な力の詳細が把握できていないことからでもあった。


 教室に入り、全体を見渡すと怜真は璃久瑛りくあとたわいのない会話をしている姿が確認できた。怜真は優気の姿を確認すると璃久瑛と共に席を外してこちらに向かう。その時の表情は険しいものだったため、少し焦りを覚えるがあくまでも冷静に振る舞うことを意識する。しかし、いつも通り平常運転で振る舞うことも忘れてはならないこの状況は、学園ラブコメで思い人とギスギスしているワンシーンを演じねばならない役者のようだった。


 「おはゆうき!!無事生きてたか!!」始業式の後の様子知らなかったため無事であったことを心配してくれた。


「おはよう、りっくん!!心配してくれてありがとな!!」璃久瑛は元気のいい声で挨拶をしたことでこのテンションに乗り、この場を乗り越えることにする。そうプラン立てたが果たしてうまくいくのだろうか。


「おはよう優気。昨日のことなんだが_」「あぁ、大丈夫。体育館の騒動は無事だったからな。あの後介抱してくれてありがとうな」


「そうだぞ。みんなマジで心配したんだからな」確かに周りを見渡すとたくさんの視線を感じる。みんながみんなという訳ではないが、たくさんの心配をかけたことには面目がない。


「俺が言いたいのは放課後の_」


「みんな心配と迷惑かけてごめん!!改めてよろしくな!!」その場に立ち上がりクラス全員に感謝を述べた。


良かったよなどの労いの言葉やイエーイ、ブラボー、わっしょいなどと意味の分からないヤジが飛び、少し盛り上がる。これは3年間で基本的な交流を様々な人と育んだ優気だからこそできる芸当だった。自身の持ち合わせた武器を駆使してこの場を乗り切る。


「そういえば、りっくんの今期おすすめアニメってなんだっけ?」


「よくぞ聞いてくれた!今期は新規も面白いものが多いし、続編アニメも多くてかなり豊作なんだが、『夜のワンダーランド』がおすすめかな。ユーフォーだしね」


さらに璃久瑛の大好きなアニメを餌に巻き、このまま強行することにした。「そりゃあ注目も集まりそうだな。昨日言ってた戦場で腐ったパン食うアニメはなんだっけ?」


「腐ったパンを食ったのは俺だから!アニメでは血だらけのパンな」


「とんでもねぇアニメだな」


「ええっと、『戦場に咲きほこる凛とした花』のことね。あれも面白いけど、話が難しいんだよね。ある程度その世界観を理解してないときちぃんだ。『夜のワンダーランド』はデスゲームでストーリーが分かりやすいんだけど、かなり捻った内容になってるから誰でも楽しめる感じかな」


今期アニメの情報を饒舌に説明する璃久瑛に相槌を打ちながら、ちらりと怜真の顔を見ると怪訝そうな顔でこちらを見ていた。どうやら話を遮られたことに対する疑念を浮かべていたようだった。


「じゃあそれだけでチェックしてみようかな」そう言い終わると同時に担任の前道ぜんどうが教室に入ってきたので、近くに向かい昨日かけた迷惑を深謝しに行く。


「先生、昨日は多大なご迷惑と心配をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」深々と頭を下げる姿に前道は安心していた。


「無事でよかったよ。教師が生徒を守ることは当たり前だよ。とりあえず今日からまたよろしくね」


「はい!これからもよろしくお願いします。本当にありがとうございました」そう言い終わるとチャイムが鳴り、自分たちの席に移動した。前道への感謝を伝え、怜真の詮索を突破した。この調子で今日を乗り切るぞ。心の中で優気はそう意気込んだ。


_____________________________________


 10分間の休み時間、昼休みなどで詮索される場面がたくさんあったが、優気は巧みに躱し、気づけば帰りのホームルームとなっていた。上手く昨日のやり取り回避することに一安心する一方で、怜真はムスッとした表情を浮かべていた。友人と一日中、目的の会話をできなければこうなることは当然だろう。


 ホームルーム中に優気の新型腕時計、スマートウォッチに知らない人物からメールが届いた。件名は無題、内容は『同じ階にある空き教室に来い』とのことだった。


その空き教室は階段を挟んだ奥にあり、特に授業や部活などで使われることもなく、誰にも立ち寄られてない場所だった。昨日のことを踏まえた上で察すると、この教室に行くとそこにスサノオという神様擬きが居て、昨日起こった詳細を説明してくれると考えられた。


だが、生徒ではない者が無断で学校に潜入することは警備事情を含めると考えにくかったが、自身が超人的な回復力で怪我を癒したことや目に見えない速さの刀捌きを目の当たりにしたことから、何かからくりがあるに違いないと疑っていた。


 ホームルームが終わり全員が各々の行動に移る中、友人たちに足止めを食らわぬように優気はリュックを背負い空き教室へ向かう。空き教室の入り口に立ち、室内をじっくりと観察したが、中には誰もおらず、青空の光のみが照らされる普通の教室だった。


とりあえず中に入ってみようと一歩踏み入れた瞬間、先程までの教室の姿がテレビの砂嵐状態に色付いた風景ようにぐにゃぐにゃと歪み始め、どこかの室内に変化した。困惑しながら周りを見渡すと、一般的なフローリングと高い天井、奥に目を置けば立派なキッチンと大きなダイニングが設置されている。ここはとある家の室内に見えるが、仮想空間なのか、それとも誰かの不思議な力で転移されたのか、昨日から疑問の行列が後を絶たない。


 「グハッ!!また死んだわ」


「はい交代、交代。お前は焦りすぎなんだよ」


目の前のソファーに目をやると男2人がスーパーキノコブラザーズ2をプレイしていた。1人の声に聞き覚えがある、スサノオだ。声をかけようとしたが当人がもう1人に話しかけたため、タイミングを見送る。


「お前上手いな~よくこのブクブク地帯超えたな」


「だから言ったろ?焦らず冷静にやれば行けるかr」近づいてきたバタバタに直撃し、ミリオはやられた。どうやら残機はもうなかったらしく、ゲームオーバーと表示されている。


「プハハハハハッ!!自信満々でプレイしてたのに、お主、死んどるやしませんか!!あひゃはははッ!!」


「お前が話しかけるからだよ!!ふざけんな!」スサノオを大笑いしていたが、隣の男は悔しさと恥ずかしさで赤面を浮かべる。


「大体お前が序盤から死にすぎなんだよ!!」


「仕方ないだろ、4面が難しかったんだから。バックンとゲソマルが厄介だったんだからさ」


「それは俺も同じだわ!!」傍から見ると小学生の喧嘩に見えるが、言い争いをしているのは紛れもない青年である。


「あのすみません、昨日の神崎かみさきですけど」2人に「あぁ?」と鋭い視線を向けられたが、「あぁ」とすぐさま冷静さを取り戻した。


「やっときたか。待ちくたびれてキノブラやってたところだったんだ。まぁ今残機無くなって終わったんだけどね」


「みっともない姿を見せてすまない。すぐに準備を整えるからそこで待っていてくれ」両者とも立ち上がりソファーを移動させ、古いゲーム機を片付ける際に見知らぬ青年は話しかけてきた。


「空き教室に入ったのに何故一般的な家の室内にいるのかと思っただろ?」


「はい、とても困惑しましたよ。最先端の技術力ですか?」


「まぁそうなるな。教室の端から端までをこのアジトに当てはめて、位置を共有している。本来教室にいる君の意識や感覚、姿形を最大限までこちらのいるアジトに寄せている。そのため、空き教室の入り口から君の姿を視認されることはないから他の人間にはバレないような作りになっているんだ」


つまり、優気は空き教室と、あるアジトの両方にいることとなっており、優気や他の人の認知ではアジトにいることとなっている。


「こりゃたまげたな。凄い技術ですね」


「私も感心する一方さ」少し間が空き、ゲーム機を片付け、周囲を掃除する青年が再び声を上げた。


「すまないね。待たせてしまって申し訳ない」


「大丈夫ですよ。ちなみにゲームしているとこ後ろで見てました。まぁキノブラ2はキノブラの中でも難しいのでゲームオーバーも仕方ないですよ」


「マジかよ…ジャンジャン知ってた?」


「もちろん。お前はそれも知らずにやっていたのか?」


「い、いや知ってたよ。し、知らないわけないわな!」


「こんなにもわかりやすい嘘は初めてみたな…」2人のやり取りを呆然と見ていたがソファーの準備が出来、どうぞ、とジャンジャンという青年に声を掛けられた。ありがとうございますと謝辞を示し、青年2人が腰を下ろしたことを確認してから優気はソファーに腰を下ろし、リュックを横に置いた。


「自己紹介がまだだったな。スサはもうしたか?」


「したけど、もっかいしとくわ。あんときテキトーだったし」軽く咳払いをし、改めてスサノオが自己紹介をすることとなった。


確かにこの人物も謎だらけだ。今わかることはキリっとした濃い顔立ちにどこぞの戦闘民族のように立ち上がった髪型、腰に刀を収めていることなどの外見情報と、途轍もない速さと腰に収めれらた刀の扱いに突出した技術があることで、故郷はどこなのか、有り得ないその力はどのようにして得たのかなど知りたいことばかりだった。さぁどんなことを教えてくれるのか。優気は改めて関心を寄せる。


「俺はスサノオ。趣味は刀の素振り。よろしくな!!」


______全く情報が落ちない。こんなものか??こんなものなのか自己紹介は??昨日のテキトーな自己紹介と何が違うんだ?そうか、これは間違え探しだ。これは相手からのテストに違いない。優気は自身に暗示をかけるが、相手に探りをかけることにした。


「他に好きなこととか特技とかありますか?」おもわず自身から質問を投げかける。


「うーん。どっちにも当てはまることは…真剣勝負の殺し合いかな」もうこの人は当てにならない。真顔で殺し合いが特技と言う者は少なくともまともな人物ではない。そう判断し、隣の青年に目を移すと同じく呆れかえってため息をついていた。


「お前は単純だな」青年は前髪は七三分けと黒縁の眼鏡を身に着けていた。しかし、全身が薄青と珍しい体色をしていて、ピアスを開けネックレスをしていたことからガラの悪さを感じる。しかし、先程の切り替えの早さやその後の落ち着いた対応など、知性を感じていたため期待が高まる。


「では気を取り直して。私はカラマノランジャン。芸術や音楽などを好んでいる。長所は器用に色々なことに取り組めることだ。もっと具体的に会話を交わしたいところだが、この後16時くらいに予定が入ると予想される。悪いが本題に入っていいか?」


____ジャンジャンじゃないんかぁい。ジャンジャンはあだ名かぁい。スサノオがジャンジャンと呼んでいたことからジャンジャンという名前だと勘違いしていた。


「わかりました。そういうことならじゃんじゃん行きましょう」頭の中にジャンジャンという言葉が強く響いていたため、おもわず「どんどん」と言うはずが「じゃんじゃん」になってしまった。


「こちらの事情で悪いな。それじゃあ本題に入ろう」そう言われた当人が気にしていなかったため、ほっと安心する。もちろん悪気はないことは確かだ。


 コホン、と軽く咳払いをすると真剣な顔つきでこちらに視線を向けた。


「日頃人間が崇める『神のような存在』に人類が支配されそうになっている。それを我々と共に阻止して欲しい」

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