第2話

空は青く風が穏やかに吹いている今日、皆さんお元気ですか?僕は今いない人間として生きています。


あぁ、石碑や歴史書に名前が載っている人が何と羨ましいことか。その人たちは自分の行動を誰かの記憶に残すことができたから名前を伝えられていくんだろう。


それに比べ僕はなんと悲しいことか...。魔王討伐という最上の結果をだしたのに帰って来たらこの扱い、しかも勇者たちや魔王も架空の生き物認定せれている。魔王討伐したら、毎日贅沢三昧の生活が待っているんじゃないの⁉街を歩くとみんな頭を下げる英雄的な扱いをうけるんじゃないの⁉歴史書なんかに名前が載るんじゃないの⁉そう思って浮かれながら帰ってきたのに、蓋を空ければ僕の名前はない、勇者や魔王はいない。もうやってられないよ!




街で心を粉々になったため街から出たところにある川辺で寝っ転がっていた。僕は多くの問題に頭を抱えていたのだ。


まず、家がない。聞くところによると僕の住んでいたオース王国はなくなっており今ではリンド共和国となっていた。こうなっては自分の家がどうなっているのかわからない。なんでも共和国は人間至上主義なようでエルフやドワーフ、セイレーンなどの亜人が住めない環境らしい。僕はハーフエルフという何とも曖昧な人種なため共和国には入れないだろう、さわば我が家...。ちなみに、勇者パーティは人種がバラバラだったりする。勇者クリスは人間、レオはドワーフ、アリアはセイレーンと人のハーフ。レオは人種も相まって気が短い奴だった。クリスとアリアはそれをなだめるのに必死だった。僕はレオをおちょくって遊んでた、すごいんだよ?あの巨体を支えてる足が短すぎるのなんの。巨木を支えてるのが二本の木の棒なんだ。奇跡としか言えないよね。


次にみんなのことも気になる。勇者たちも像があるだけで本当はいないっていうのが街の人の考えだった。どうやったら魔王を倒した者たちがいないなんて考えられるんだ?人類史最大の脅威だぞ?しかも魔王も空想だってよ?


最後にこれからのこと。僕はこれからどうすればいい?みんなを探したいってのはあるけど、お金がない、身分もない。これじゃ国に入ったり、冒険者になってお金を稼げない。自給自足でやっていったとしても200年前の人物の手がかりがあるかわからない。僕の記憶をたどっても目途なんかない。


あぁこんなことになるんだったら、魔王なんかもっと本気を出して倒しておけばよかった。こうなったのは全部魔王のせいなんだ!あの時のことを思い出す。






戦いは苛烈を極めていた。勇者と戦士の連携をブレスで対抗していたり、聖女の回復魔法を何らかの手段を用いて妨害していたり、魔法使いの魔法をその固い外皮で防いだり、4人がかりの連携を魔王はいなしていた。これではじり貧で押し負ける。魔法使いは切り札を出した。魔王も目を見張るその切り札によって戦況はガラッと変わり、あと少しで魔王を倒せるまで追い詰めていた。


「はぁはぁはぁ、さすがだな勇者たちよ。魔王として生まれ誰にも負けずに魔王としての研鑽を積んできたこの我が、初めて負けるのか。魔族の長の我が負けるのか。傑作だな。初めての負けは初めての死か。我は皆にいい暮らしをしてほしかっただけなのだ。ただ皆の笑顔が見たかった。なぁ勇者たちよ、魔族はどうなるのだ?我の死で魔族は生き残れるのか?頼む勇者たちよ、我の首を差し出すゆえ魔族を頼みたいのだ、魔族を殺さないでくれ!」


魔王は王だった。魔王として生き魔王として死ぬ覚悟があるのだ。勇者たちは初めて気が付いたのだ。魔族も人みたく感情があり、家族があり、日常があり、考えがあった。


「魔王、僕たちはお互い血を流しすぎた。どちらかの王を倒さなければ戦いを終わらせられないほどに。だが僕たちは、話し合える、互いを尊重できる。その架け橋を僕たちが引き受ける。みんなが指をさして蔑もうとも僕は言い続ける。僕たちは分かり合える、争わなくていいってね。だからって、安心してほしいなんて言わない。僕を見ていてくれ、僕たちの結末を上から見ていてくれ。僕は君の描いた未来を実現して見せるから。」


勇者はそう言い切った。魔王に、魔族の王に、王としてしか生きれなかった夢見がちな青年に。その宣言にパーティの皆が賛同する。


「あぁクリスの言ったとおりだぜ!俺らは分かり合える、今もお前の考えに俺は立派だな、すげー奴だなって思ってるんだぜ!正直お前を倒したくないしもう戦いたくない!でもお前の覚悟をみて俺は決めたんだ!お前の夢を俺が叶えるんだ‼ぜってー叶えてやるから上で待っててくれ、俺らが上に行ったら今度はみんなで宴会しようぜ‼」


戦士は豪快に笑う。戦士は知っている、魔王を助けられないことを、魔王も覚悟を決めていることを。聖女は反発する。命に貴賤はないことに気づいたからだ。それが魔王や魔族でも。


「魔王さん、私はあなたの行動を赦すことができません。故郷のこと、家族のこと、仲間のこと、忘れたことはありません。ですが、魔王さんも魔族の皆さんも同じなんですね。皆同じ傷を負った仲間です。あなたが死ななくてもいいじゃないですか!これからの行動で清算していけばいいじゃないですか!誰かの命を犠牲にした平和なんてもう十分失ってきたじゃないですか‼」


「アリア、クリスの言ったとおりだよ。もう歯止めが効かなくなっている。復讐が復讐を生む最悪のサイクルに入ってしまった。僕たちは止めなくちゃいけない、この戦争を、この茶番のようなくそみたいな行為を。」


聖女の叫びに気持ちに魔法使いは痛いほど理解できる。しかし、自分たちも入っているサイクルを止めなければこの争いが永遠と続いてしまうことも理解していた。頭を取り換え、技術を磨き、命を数としか見ない争いに。


「アリア、その通りだ。だけどハルが言った通りに、僕たちがこの戦いを止めなければこの戦いは終わることができないものになってしまう。それは魔王や僕たちの覚悟や信念が無駄になってしまう。だから僕は終わらせる。レオの言った通りみんなで上に行くから魔王は待っててくれないか?君にいっぱい思い出話をしたいからさ!」


「...あぁ待っている。待っているとも、勇者たち。いや友たちよ。我の首でこの戦いを終わらせえる、この悲しき物語を終わらせる。そして、平和なエンドロールが流れるであろう。それを聞かせてくれ、楽しみに待っているぞ。」



こうして魔王は倒れた。友に看取られ優しい表情のまま。勇者たちの心は晴れやかなものではなかった。友が行ってしまったのだ。しかし、勇者たちは約束した。この戦争を終わらせ平和を勝ち取るのだ。勇者たちは王都を目指し歩き出す。これからの平和な時代へ思いはせながら。油断していたのだ。ここは魔族の本拠地魔王城、魔族がいつ来るかわからない。魔王が勇者たちに倒されたのだ。報復に来ないほうがおかしい、特に魔王が倒されたときにそれを見たものの心境など想像に難くない。勇者たちは一直線に来る紫色の光を見ることしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

召喚魔法が終わっている Mutti @Mutti0424

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ