召喚魔法が終わっている

Mutti

第1話

昔々、このアルセーラ大陸には魔王という魔族の王が侵略してきた。魔王は異形の姿をしており、巨大で絶大な力を持ち、魔族を率いて、集落、街、国を次々と滅ぼしていった。大陸に在った国々は国を守ることに注力にしており人々は魔王という脅威にさらされ続けていた。


魔王城の深奥部、魔王が鎮座する王の間では魔王と4人の人間たちが戦っていた。魔王は驚愕した表情を浮かべていた。それもそうだ、魔王はたった4人の人間たちに苦戦しており、深手を負っていたからだ。魔王は困惑し怒りを露わにする。


「何故だ!何故下等な生物4匹と家畜風情に我が傷つけられ劣勢になっているのだ‼人間なぞ大した力もなく、魔力も限られたものしか持っていなく、指導者は民すら守らない何のとりえもない下等生物だというのに!!!」


魔王の咆哮が辺りに響き渡る。魔王は人間などすぐに滅ぼせると確信していたのだ。魔族のように個々の力が強くなく魔王のような強大な指導者もいない。どこに負ける要素があったのだろうか。しかし、魔王は劣勢の立場にある。魔族の半数以上は息絶え、魔王の配下四天王も倒された。魔王の目の前にいる勇者とかいう人間たちに。勇者が魔王に言う。


「魔王、僕たち人間は確かに弱い。魔族みたいな力はなく、魔王が侵略してきているのに国同士や内部で争っている始末だ。ただ僕は知っている。家族に向けられる親愛を、友との友情を、人間の心の強さを!僕たちは心の強さで魔王、お前を倒す!お前を倒して世界に平和を取り戻す‼」


「よく言ったクリス!そうだぜ、人はハートがつえー奴がいっちゃん最強なんだよっ!俺らは人類の未来背負ってんだよっ!散っていった奴、平和を願っている奴、これから生まれてくる奴。こいつらに最高にハッピーなプレゼントしに行くんだよっ!俺らはぜってーお前を倒す‼」


戦士が勇者の勇ましい啖呵に同調する。勇者たちは未来を、平和な未来にしてほしいという願いを背負っていた。これまでの戦いで散っていった同胞たちの、自分たちの力足らずで守れなかった者たちの、行く先々で自分たちに願いを託した者たちの、そしてこれから世界に生まれる者たちの願いを。


「レオったら言葉が汚いですよ。仮にも勇者たちといわれるものなのですからそれ相応の振る舞いをしてほしいです。ですが、気が引き締まる啖呵です。私は負けられない!これまで救えなかった者たちに顔向けできる自分に、胸を張って生きれる自分になるんです!クリス、レオ、ハル!勝って平和を取り戻しましょう‼」


聖女は戦士をたしなめ、決意を固める。勇者たちは多くの出会いを経験した。多くの決別を経験した。自分たちの力のなさを嘆いた夜もある。だからこそ負けられない。彼らに報いるために。


「アリア、気負いすぎだよ。僕たちは死ななければ勝ちなんだ、気楽にいこうよ。いつもならこんなことを言うけど今回は僕も気持ちが昂っちゃうね。この戦いで全部決まっちゃうんだ。まさに未来を勝ち取るための戦いだ、サボれないね。でもみんな熱くなりすぎだ。冷静に勝ちに行こう。」


魔法使いが冷静になれと注意する。闇雲に戦って勝てる相手ではない、それは目に見えて明らかだ。何回も同じ轍を踏んでいる戦士はばつが悪そうだ。


「みんな準備は良さそうだね。じゃあ行こうか!平和のために、過去に報いるために、未来に託すために!最終決戦だ!」


「こい!勇者たちよ!我にも背負っているものがある!勝って世界を手に入れるのだ‼ここで立ち止まれないのだ‼」




こうして魔王と勇者一行の最後の戦いが始まった。戦いは三日三晩続く苛烈を極めたものになっていた。剣はところどころ刃こぼれしており、切るより殴るという表現が正しいほど切れ味が落ち、斧は魔王のブレスの盾として使っていたがブレスの威力を受けきれず溶け、槍は刃先が折れ、杖も魔力切れで宝石の輝きがなくなってしまう。

魔王の暴力的なまでの強さに武器がなくなり体力も底をつきかけている。それでも彼らは前を向いていた。誰一人諦めはしなかった。戦いの中でおもいだすのだ。共に戦って散っていった同志たちを、自分たちが守れなかった者たちを、魔王を倒してほしいと願う者たちを、そしてあのハプニングしかなく順調にいったことがない面白おかしいかけがえのない旅を、仲間たちとの思い出を。ここで負けるわけにはいかない。力が湧く。立ち上がれる。武器を持つ。戦える。まさに勇者、まさに英雄の姿がそこにはあった。

かくして魔族との戦いは幕を閉じた。平和を手に入れたのだ。多くの人は歓喜し、亡くなったものに涙を流し、勇者たちを称えた。しかし、勇者たちの表情はさえていない。平和を勝ち取った立役者なのに、心ここにあらずな様子。ただ、人々は気づいてしまった。勇者たちは3人しかいないのだ。


「これがその伝承にある勇者様たちの像だ。どうだ、とても凛々しいお姿をしているだろう。ただ、この伝承もところどころ不可解なところがあるんだ。まず像が三人しかなく伝承にある魔法使いの像がない。過去の情報でも魔法使いがいたと言う伝承はなく、魔物がいたという伝承があるが真偽はわからない。次に勇者様たちの情報が魔王討伐後ぱったりとなくなっている。噂では勇者様たちは次の脅威が現れるときに備えているんだとか。この像も想像で作ってんだとか。最後に本当にこの伝承があっているのか。なんでも200年前のもんだ。情報も極端になくなっている。俺もこの伝承嘘だと思っているんだぜ。魔王なんてそんなんいねぇって。坊主もこんな伝承信じるなよ、どうせデマでどっかの売れない彫刻家が売れたいがためのカバーストーリーだ。」


「はぁ、ありがとうございます。立派な像だったので、つい聞いちゃいました。」


「まっ、像は立派だからな。おかげでここらはちょっとした観光地だ。商売としてはありがたいんだけどな。坊主またパン買っててよな!」


僕いない設定になってるんだけど!!


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