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 アパート暮らしが長いので、仏壇を実際に目にするのは久しぶりだった。リビングに置かれたそれは新品ならではの光沢を放っており、築三十年一戸建ての室内においてはなんとも居心地が悪そうだ。私は、おりんを鳴らし、美知香の写真に向かって手を合わせた。そういえばおばあちゃん家の仏壇は備え付けだったな、とか考えながら。

「久しぶりに焼いてみたんだけど、良かったら食べていって」

 私が形式だけのお祈りを済ませている間に、美代子さんはカットしたシフォンケーキを取り皿に移し、生クリームを添えてくれていた。

「わあ、ありがとう」私はことさらに感嘆してみせた。「美知香ママのケーキ、久しぶり」

 美代子さんは、一皿を私の前に置き、もう一皿を美知香の前に置いた。

「祐子ちゃんが来てくれて、あの子も喜んでいると思うの」美代子さんの目尻に、十年前にはなかった皺が浮かんだ。

 美知香の死を知ってから今日まで、なんとなく味覚が鈍くなった。何を食べてもおいしいとは思えず、食事が楽しめない。美代子さんのケーキでも、それは同じだった。生への幻滅が味覚を奪ったのだろうか。一緒に出された紅茶のおかげで、かろうじて残さず平らげることができた。

「部屋、見て来ても良いですか?」

 紅茶を飲み干した後、私は当初の目的を改めて伝えた。

「もちろん、いいわよ。しばらく使ってないから、ほこりっぽいかもしれないけれど」

 私はお礼を言って、階段に向かった。美代子さんは、自分のケーキに手をつけていなかった。

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