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「この眺めも今日で見納めかあ」

 卒業式が終わった後、私たちは学校の屋上にいた。二人で弁当を食べたり、放課後、部活が始まるまでだべったりした場所。高校生活最後の日になって、私たち二人にとってはここが大切な場所だったと気がついた。式典終了後、どちらが誘うわけでもなく、気がついたら足がここへ向かっていた。

「マックの看板、今日は回ってるね」

 駅の近くにあるマクドナルドのポール看板が回っているときとそうでないときがあることに、ある日美知香が気づいた。風の強さによるのか、店員の気まぐれなのか、規則性がつかめず、いつからか私たちは屋上に来るたびに看板の回転を確かめるようになっていた。

 来月から、私たちは離ればなれになる。その事実は私たちを感傷的にさせた。

「いつでも遊びにおいでよ。祐子が好きそうなとこ、見つけておくから」

 美知香は東京の美大への進学が決まった。「絵を描く」というただそれだけをひたすら追いかける彼女の姿は、当時の私にはまぶしすぎた。私はといえば、なんとなく都会へ行きたいという思いはあったものの、合格した第三志望の私立大学と地元の国立大学を天秤にかけ、後者を選んだ。「選んだ」と言えるほどの意思もなく、母親と担任の顔色を読んだに過ぎない。思えば、私の人生はずっとこんな感じだ。選択肢が提示されれば、「なんとなく無難な方」を選んでしまう。

「コミケとか行ってみたいな。二人で出展できるよ、きっと」

「美知香はともかく、私は無理だよ」

「物書きとか絶対向いてると思うんだけどな、祐子は」

 美知香はマクドナルドの看板を眺めながら言った。この頃になると自意識がちゃんと芽生えた私は、美知香の作品に口を出さなくなった。美知香もまた、美術部の作品製作が創作活動の中心になっていた。

 私は柵にもたれて空を見上げた。雲ひとつない空はどこかそっけない。春とはいえまだ冷ややかな風が前髪を吹き上げた。美知香の方に目をやると、髪留めと目が合った。目玉が私をのぞき込む。

 横顔が、とても愛おしかった。私たちはこのまま、ずっと親友のままでしか、いられないのだろうか。そう思うと、どうしようもなく胸が苦しくなる。本当に手に入れたいものをふんわりと諦めたまま生き続けるなんて、耐えられる気がしない。触れたい。確かめたい。できることなら、あなたに選ばれたい。

 「今日が最後」という現実が背中を押した。感傷から始まる行動はいつだって後悔の種になることを、私は後で知る。

 その日私は、美知香と出会ってから今日まで、ずっと彼女に対して抱えていた思いを口にした。

 以来、美知香が亡くなるまでの間、私たちが再会することはなかった。

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