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細部まで鮮明に思い出せる出会いというものがある。美知香との出会いがそれだ。
小学五年生の、もうすぐ夏休みという頃。五年生になって初めて同じクラスになったその女の子は、休み時間や昼休みはいつも一人で、黙々とノートに向かっていた。大雑把な性格だった当時の私は、その子の前の席に座り、「何書いてるの?」と話しかけた。その子はびくりと小さく体を揺らした後、おそるおそるというように顔を上げた。くりっとした大きな瞳が、うっすらと怯えの色を帯びて私の顔に向けられた。
「……漫画……」
驚くほど小さい声で、彼女はそう言った。今の私だったら、その声のトーンで、あ、これは触れちゃいけないやつだ、と思っただろうけど、当時の私は本当に大雑把な性格の持ち主だった。
「マジで? えっ、読ませてよ」
おそらくだけど、当時の私は美知香の返答を待たずにノートをひったくったと思う。「他人のプライベートに土足で侵入する」という概念と出会う前のことだから、どうか勘弁してほしい。
あの瞬間の衝撃はたぶん永遠に忘れない。彼女の描いていた漫画は、とりわけ絵の力が圧倒的だった。一本一本の線からは強力な意志すら感じられた。あまりにも魅力的なキャラクターが豊かな表情と躍動感をもってノートの中に息づいていた。ページをめくると、ファンタジックな出で立ちの女の子が見開きでポーズを決めている。
「これ、あなたが描いたの?」
美知香は頬を真っ赤に染めながら、こくんとうなずいた。このとき私は、美知香と、美知香が描いたキャラクターに一発で魅了されていた。それから程なく、私たちは親友になった。
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