4 鬆ュ髯?陲九?諤ィ髴
トンネルの闇は、生者の目には単なる暗がりに過ぎない。
だが、そこに潜む者たちにとってそれは別の世界だった。
湿った空気がじっとりと満ち、かすかな腐敗臭が漂う。そんな冷たい闇の中で、幽霊たちはじっと佇んでいた。
「測量班のやつらはどこだ。どこに隠れているんだ」
そんな中、一人の老人の幽霊が虚空に向かって呼びかけている。
と、その背後の闇――
その中心から一つの影が浮かび上がってきた。
まず現れたのは巨大な斧の切っ先。錆びついた刃がわずかな光を反射して不吉に輝く。そして、頭陀袋を被った大柄な男の姿が姿を現した。その存在感は圧倒的で、周囲の空気までもが凍りつくようだった。
ただ、老人の幽霊は認識がずれているようで、それにも気づかず叫び続けていた。
「ダム建設なんて許さんぞ。この里山を守るのが我々の――」
その言葉は鈍色の一線と共に途切れる。
空気を切り裂く音と共に、頭陀袋の男が振るった斧が老人の体を両断していた。真っ赤な飛沫が飛び散り、次いですべてが霧散する。それはまるで、水の中に赤い絵の具が滲み溶けていくかのようだった。
傍らにいた女将の幽霊は、恐怖に震えながらその光景を目の当たりにしていた。
「だ、旦那様、乱暴なことはおやめください……」
彼女のその大きな頭が不安げに揺れ動く。周りには様々な姿をした幽霊たちが身を寄せ合うようにしていた。
「くそが。駒にするためとはいえ、馬鹿どもに付き合うのは面倒だな」
頭陀袋の男は吐き捨てるように言うと、ゆっくりと幽霊たちの前を歩き始めた。引きずられる斧が、金属の擦れる不快な音を響かせていく。それが女将の幽霊の頭の中をぐわんぐわんと揺らした。
「うう……」
「言っておいただろう。強い力を持つ者が来たらすぐに俺に教えろと」
声には怒りと共に底知れぬ闇のような狂気が含まれていた。幽霊たちは身を縮ませ、それぞれの幻想の中でさらに深く埋没していく。
「も、申し訳ございません、旦那様。あの方はただのお客様かと……」
「黙れ」
頭陀袋は斧を振り上げ、女将の幽霊に向けて突きつける。
「力のある人間は明らかにうまそうに見えたはずだ。それを馬鹿みたいに逃しやがって。やつらはおどかすよりも直接食った方が遥かにうまいというのに」
女将の幽霊は、思わず体を縮こませた。その大きな頭がまるで風船のように揺れる。
「お詫び申し上げます。次はきっと……」
「次はない!」
斧が女将の横をかすめた。かすかな風切り音と共に、近くの壁にあった青い札が切り裂かれて燃え上がる。
その光景に、その場の幽霊たちは固まって悲鳴を上げることすらできなかった。
「ここも、お前らも、取り替え時だ。最後に、次に来る人間は最初から俺が出て喰う。お前らはただ報告しろ。いいな!」
その言葉には、凄まじい殺意が込められている。
女将と他の幽霊たちは、そのおぞましさにただ身を震わせ続けることしかできなかった。
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