第4話 遊園地1
そして日が経ち土曜日。俺は、夢葉と共に、遊園地に来た。
ここは絶叫マシンなどが多いという点で有名な遊園地だ。
俺は絶叫マシンが好きだ。
だが、真に行きたがったのは夢葉だ。
夢葉がここに行きたいと言ったのだ。
夢葉にとって遊園地は大好物らしい。
そして、早速遊園地に入る。
すると、夢葉がいきなりある物を見て「あれに乗りたいのです」と、指さした。それは、コーヒーカップだった。
「あれなのか?」
個人的に最初は絶叫マシン系から乗りたいところなのだが。
「最初は楽な奴がいいのです。だからあれに乗りたいのです」
「……おう、分かった」
そして俺たちはコーヒーカップに乗る。
「楽しいのですー!」
夢葉はそう笑顔で笑う。
「それはよかったな」
そして降りるとすぐに、「次はあれが乗りたいのです」と言ってまた、夢葉が別のアトラクションを指さす。
それに付き合うように俺も乗る。
そして、様々な乗り物に乗った後、昼めし前にジェットコースターに乗ることとなった。
いよいよ本番だ。
「前半戦最後なのです! 楽しみなのです!」
「そうだな。楽しみだな」
そして俺たちは列に並ぶ。
「列を待つ間。これを読んでほしいのです」
突然夢葉に小説を手渡された。
「……これは」
胸樹陶磁の小説だ。
「夢葉が書いた小説じゃないのか?」
正直夢葉の小説を渡されると思っていたんだが。
「のんのん、違うのです。私の小説よりもお父さんの小説を読んでほしいのです」
「……分かった」
夢葉的には自身の物よりも夢葉のお父さんの小説なんだなと、思った。
いろいろな小説を手渡されたが、一先ず刑事ドラマ的な小説を読む。
最初の一〇ページで人がしに、その後さまざまな人の立場で被害者との関係が示唆され、そして事件の方でも、カリスマ刑事が推理を進めていく。なるほど。まだ五〇ページしか読んでないが、普通に面白い。
「なるほど、やっぱり面白いな」
「そうなのです。恋愛もいいですけど、これもいいのです!」
そう笑顔で言う夢葉、可愛い。
そしていよいよ俺たちの番が来た。
「いよいよだな」
「はい! なのです」
そして俺たちは乗り込む。二人で隣に座る。
「楽しみなのです」
「ああ、楽しみだ」
ジェットコースターが走っていく。
樹にビュンビュンと走っていき、風が気持ちいい。
隣の夢葉を見ると俺同様に楽しんでいる様子がうかがえる、
「楽しかったのです!!」
さっきから夢葉、楽しいですしか行ってない気がする。それくらい楽しかったということなのだろうか。
「さて、ご飯を食べにいくのです!!!」
そう元気よくいう夢葉。その手に引っ張られるようにして店に入っていく。
「夢葉、何頼む?」
「私、これが食べたいのです!」
夢葉が指さしたのは、カップル用のフロートカフェラテだ。
二人で飲むように巨大に設定されていて、なかなか量が多い。さらにストローも二つついていたり、セットでカップルパフェがついていたりと、なかなかのものだ。
「頼んでもいいぞ」
「やったのです!」
「ただ、まずは普通の食べ物を頼もうな」
そして、メインの食べ物としては俺がカルボナーラスパゲッティ、夢葉がオムライスということになった。そして食後に、カップルカフェラテアンドパフェを頼むこととなった。
「そういや、昨日の試合は観たか?」
昨日の試合、つまり野球の試合だ。
静岡ランドリーズと岡山ピジョンズの試合だ。
ちなみに俺たちが応援しているのは静岡ランドリーズの方だ。
「観たのです。当然なのです! 宇田川選手が二点タイムリーヒットを打ってくれたのですから」
さすが夢葉が気に入っている宇田川選手だ。何しろ今この話を口にしたのも、昨日宇田川選手がタイムリーを打ったというのも関係しているからだ。
「でも、俊哉くんが好きな、橋下選手も好投したのです」
「そうだな。よく試合を作ってくれたもんだ」
彼は六回一失点の好投をしたのだ。
そんな、野球談義をしていると、食事が届いた。
「わーいなのです!」
夢葉は食事を前にして無邪気に喜ぶ。
そして、写真を撮り始めた。
「それはなんだ?」
「SNSに上げる用の物なのです。ほら」
それを見ると、「オムライスなのです。美味しそうなのです」と、オムライスをの写真を添えてコメントされている。
フォロワー、一二万三千七百人の大型垢だ。
「おまえのアカウント、そんなすごかったのか」
「ふふ、なのです。俊哉くんのアカウントも私がフォローしていいのですよ」
「……普段使わない垢でよかったら」
「わかったのです」
そして、俺の垢にフォロワーが一人増えた。
俺はフォローバックボタンを押した。
「てか、早く食べないと、冷めるじゃねえか」
「確かになのです。早く食べるのですっ!」
そして俺たちは食事にむしゃぶりついた。
「はあ、美味しかったのです」
夢葉はお腹をポンポン叩きながらそう言う。
「だが、まだカフェラテと、パフェがあるぜ」
「そうだったのです。楽しい時間は終わらないのです!」
そして笑顔で笑う夢葉。やっぱりこの子、楽しそうだ。
「おいおい、なんだ?」
背後からそんな言葉か聞こえる。
「終わらないのです? 初めて観たぜこんなやつ」
「ああ、そうだな。しかも髪の毛が青って、かわいいと思ってるのかね?」
明らかに夢葉をバカにしている言い方だ。
「何がおかしいのですか?」
「何が? その全部だろ。明らかにおかしいだろ。ここは、漫画の世界なんかじゃ無いんだぜ、なのに、なのですなのです。現実くらい見ろよ」
夢葉の長髪を青で染めた髪。確かにアニメ感はある。
でも、それはこいつらには関係のない事だ。
「私はもちろん、現実に生きているのですよ」
「生きてるわけねえだろ。どうせ、女だから甘やかされてきたんだろ? 俺が現実教えてやる。そんな現実甘くねえ。社会はそんなキャラで乗り越えられるほど甘くねえんだよ」
「それともあれか? そのキャラで一緒にいる男に「助けてもらうか?」
さすがに許せない。これ以上夢葉をバカにする行為は。
俺は立ちあがり文句を言おうとした。だが、それは言われている本人である、夢葉の手によって止められた。
「確かにそれは一理あるのです。社会にはこんな人間なんていないのかもしれないのです。あなたたちの言う通り、私は周りの環境に甘えているのです。でも、私はそれを良しとしたいのです。私はずっと、憧れを抱いてきてるのです。この喋り方を止める権利は私にあるのです。あなたたちじゃなくて。だから、赤の他人であるはずのあなたたちは、もう何も言わないで欲しいのです」
そう、凛とした態度で言い放つ夢葉。
俺は「ふふ」と軽く微笑してから、
「本人がこう言っているんだ。だから一旦帰ってくれ。そしてもう関わって来ないでくれ。……もし立ち去らないと言うなら、警備員を呼ぶぞ」
そう、強く言う。あちら側に一方的に非があるのだ。
すると、警備員という言葉にたじろいたのか、
「分かったよ。行こうぜ」
そう言って立ち去っていった。
「はあ、怖かったのです」
そう、へたり込んだ。
「無理もない。ああいう輩に絡まれたんだからな」
「実は、あんなことは何回もあったのです。その度に気合いで、追い返したのです」
そして夢葉はスマホを取り出す。
「でも、今日は楽しいのです」
そして、スマホを見せる。その画面には「私の彼氏、かっこよかったのです❤️」と書いてあった。
「これを投稿するのです!」
「……やめろはずかしい」
「もう遅いのです!」そうやって見せられた夢葉のスマホにはもういいね通知が来ていた。
はあ、これが12万人に見られるのか。そう思うと憂鬱だ。
そいて、レストランから出た後、少し夢葉のSNSを見る。
一七一八いいね、一五七リプ、五七引用ライトがあった。
うん、拡散されすぎ。
リプを見ると、みんな「キャーかっこいい」などと書いてあって、少し変な気分になってしまう。
これは照れという感情なのだろうか。
そして下を見ると、「そんなの当然だろ。そんなんで乙女すんな」
みたいなクソリプがあったので、見なかったことにしよう。
そんな時に、「何を見てるのですか?」と、夢葉がスマホを覗いてきた。
「私の投稿を見てるのですか? 照れるのです」
「いや、どんな反応があるのかなって」
「大したことじゃないのですよ。むしろ、ここにリプを送ってみます?」
「なんでだよ!」
「フォロワーなのだしいいと思うのです!」
夢葉が言っているのは、俺がそのリプに彼氏としてリプするという事だろう。
俺のアカウントは所謂捨て垢だからいいが、流石に、緊張する。
「すまん。いいねだけさせてもらうわ」
「ええ、リプしてほしいのですよ」
「いや、いいねだけで」
結局夢葉の押しを耐えて、いいねだけにさせてもらった。
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