第7話 姉
今日は夢葉は珍しく家まで来なかった。
どうしてだろうか。
家を出ると、「よ、少年」と話しかけられた。
誰だ、夢葉じゃない?
見た目的に、美人さんだ。赤いロングの髪の毛を垂らしていて、夢葉に似ている。
しかも顔は整っていて、夢葉のような可愛い系よりも美人系というのが正しい。
だが、今はそんな考察よりも、こいつ誰だ。
会ったこともねえ。
本当に誰だろうか。
「俺のこと知らないみたいな顔だねえ。教えてやろう。俺は水口夢木。夢葉のお姉ちゃんだ」
おいおい、姉いたのかよ。という事はこいつも小説の影響受けてそうだな。
「ん? なんだ。そんなじろじろとみて。そんなに俺が珍しいのか?」
「珍しいだろ」
思わず突っ込んでしまった。
だって、赤髪の俺っこって時点で珍しいし。そもそもの話、一人称。
「おっと間違えた。そんなに似ているかって言おうとしたんだ」
「性格全然似てねえよ」
確かに姿は似ている。だが、性格に思わず突っ込んでしまった。
夢葉の姉妹とは今でも信じられない。
今その間を小説家の父という矮小な存在がつないでいる状態だ。
いや、そもそももはやどういう教育をしてたらこうなるんだ……いや、それは夢葉の否定につながってしまうな。
「それで、俺に何の用だ、もしかして夢葉のことか?」
「ああ、そうだ。あいつは病気で今日は休む。それを伝えたくてな」
「そうか」と、スマホを開く。すると、何のラインも来ていない。
「俺がわざわざ直接伝えに来たんだ。ラインなんて届いているわけがないだろう」
「いや、ならなぜあなたが?」
「俺はただ、妹の彼氏の顔を見たかっただけだ」
はい、そうですか。
「なら行きますよ」
「ん? お前は俺と登校するんだよ」
その時に彼女の服に気付く。これは上級生の制服だ。つまり、
「同じ学校という事か……」
「そうだ」
ん? なら、
「なぜ、俺は今まであなたに会っていなかったんです?」
俺はこれまで夢葉の家に二回行ったことがある。だが、その際に彼女とは会っていなかった。
「それなら単純だ。その二回とも私の予定で家を離れてた。一回目は旅行、二回目は食事会でだ」
そんな偶然あるのか、と思ったがどちみち学校についた時点で分かることだ。
学校に夢葉がいれば嘘だし、欠席してたら本当という事だ。
夢葉はめったに学校を休まない。
そもそも夢葉がここにきていない時点でおかしいことだし。
そして学校まで歩いていると、複数の視線が集まってくる。
「もしかしてこれ、」
もしかしなくともだが。
「浮気と思われていませんか?」
「かもな」そう言って豪快に笑う夢木さん。こっちとしたら笑い事じゃないんだが。
「どうするんですか。もしこれで破局したら、あなたのせいですからね」
「ん? たらればの話をしてどうするんだ? あいつがお前のことをそう簡単に嫌うと思うか? それにこれはあいつに伝達済みだ。俺とお前がキスでもしない限り大丈夫だ」
そして、お前はそういうことをする奴ではないだろと付け加えた夢木さんは豪快に笑う。
本当に漫画のキャラみたいだ。そして、悪口になるかもしれないが、絶対この人脳筋だ。
そしていよいよ学校につき、席に着く。
「なあ、君浮気した?」
そう言ってくるのは、鮎川さんだ。
「浮気したなら許さないけど」
ほらあ、夢木さん。早速誤解を受けてるって。
「あの人は夢葉のお姉さんらしい。そして今日夢葉が休んでいることを伝えに来たらしい」
「それ本当?」
「本当だ。夢葉の姉っぽい風格があったし、そもそも夢葉の姉でしか知りえないことを知ってたし」
まあ、夢葉自体変に有名だから、姉じゃなくても知ってることなのかもしれないが。
「そうか、それならいいよ。あの子に姉がいるという事は知ってたし」
なるほど。知っていたのか。
「でも、あの人、本当に変な人じゃない?」
そう言う彼女。
確かに変な人過ぎる。
今更確認する必要もないくらい変な人だ。
いや、その言い方はなんとなく悪いな。
個性的な人というのが一番当たり障りないか。
そして、授業を受ける。
だが、やはり夢葉がいないと寂しいな。
思えばここ最近は夢葉と常に一緒にいた気がする。
だからこそ、心の中にぽっかりと穴が開いたような感覚に陥ってしまう。
ああ、寂しいな。
そんなこんなで、なあなあで昼休みとなった。
携帯を取り出し、夢葉にメールを送る。
(おい、夢葉。調子はどうだ?)
そこから暫く返事が返ってこない。
そりゃ、元気がないよな。
無理に送ってくれともいえないし。
(結構しんどいのです。でも、父さんが小説執筆の傍ら看病してくれてるので、まだましなのです)
(そうか。そう言えば、夢木という人が訪ねてきたんだが)
(私の姉なのです。伝えてほしいと言ったのです)
(結構個性的――)
と書いた時点で、これを妹に見せていいのか?と思った。
姉を罵倒することになる。
一旦やめておこう。
(とにかく、学校終わったらそっちに行くわ)
(そんな、行かなくて大丈夫なのですよ)
(いや、心配だから。それにマスクするから大丈夫だ)
(それならいいのです)
そしてその放課後に。
「少年。行くぞ」
そう、夢木さんに言われた。
正直、
「少年って言っても二歳しか年が変わらない気がするんだが」
「それはそれこれはこれだ。俺は年下好きでな、ショタロリが好きなんだ」
「俺はショタじゃないですよ」
俺がショタなんだったら十六歳は皆ショタという事になってしまう。
客観的に見れば、俺は軽く童顔かもしれないが、流石にショタと言えるほどではないはずだ。
「そうか、俺にとっては年下はショタorロリだ」
うわ、元から変わってる人だったけど、ますますやばい奴になってる。
「夢葉のことをロリと思って接してないですよね」
「いや、接している」
「殴っていいですか?」
「どうぞ」
俺は軽く手に力を込め、夢木さんの頬を狙って拳を振るう。
「ま、抵抗するけどなあ」
だが、手で受け止められてしまった。
「別に俺は世間でいうショタコン、ロリコンみたいに性的感情は持ってないから。あれだ、所謂二次元キャラに気軽にロリコンショタコンとか言うやつだ。二次元キャラのショタ、ロリも可愛いからなあ」
(夢葉も大変なんだな)
俺はそう思い、心の中で夢葉を労った。
「それはともかく、俺と夢葉を変な目で見ないでくださいね」
「それは当たり前だ。俺が妹と、妹の彼氏を性的な目で見ると思ってるのか?」
正直に言うと、思ってしまう。
もはやこの人に関する信用なんてゼロなんだから。
「まあ、いいや。さっさと行こうぜ。夢葉が心配だ」
「ああ、そうだな」
そして俺たちは小急ぎで、夢葉の家まで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます