第6話 劇
そして翌日、また学校へと向かう。
「昨日は楽しかったな」
「ええ、そうなのです。昨日のSNSでのやり取り楽しかったのです!」
そこに鮎川さんがくる。
「昨日のやり取りびっくりしたよ。だって、普通にSNSでやり取りしてるんだもん」
「そう……スマホを見られて、それで教えたのです」
「なるほどね。昨日のトーク面白かったよ。思わずいいんrつけちゃった」
「そうか、ありがとう」
え、咄嗟にありがとうと言ったが、あれ、鮎川さんにもみられてたのか?
死ぬほど恥ずかしいんだが。
「でもね、ああいうの苦手な人もいるからそこは気を付けるべきだと思うけどねー」
「それは私が先にいちゃいちゃ投稿をしたので、俊哉君は悪くないのです」
「それは知ってるけど」鮎川さんはにやにやする。「どんな反応をするかなって」
「うぅ、恵は悪魔なのですか。俊哉君をいじめる人は恵でも許せないのです」
そういった夢葉は、鮎川さんの背中をぱんぱんと叩く。それも無邪気な感じで。
そんな叩きを受けて、鮎川さんは無邪気に笑った。
良い光景だな。
そ んな会話をしていると、授業が始まるチャイムが鳴った。その音に従って自分の机に座る。
今日はこの前と違って物わかりのよくない教師はいない。
「この答えはAなのです」
「正解だ」
この前の事件があったから少しだけビビっていたのだが、大丈夫だったようだ。
そしてそのまま時間は過ぎていき、放課後ホームルームの時間。文化祭の出し物を決めることとなった。
まだまだ文化祭は先だが、早めに決めておこうという事だ。
そこで夢葉は早速手を挙げた。
「私、劇がしたいのです!!」
そう、元気に言った。
なるほど、劇か。夢葉の好きそうなやつだ。
周りの人が次々に「劇か」「なあ敦、どう思う?」などと言っている。
そういえば夢葉が劇をする場合、なのです口調はどうするんだろうか。
「はい! お化け屋敷がしたいです」
別の男子がそう、手を挙げた。
その後もたくさんの意見が出た。
そしてそのたびに隣の夢葉は不安そうな顔を見せる。
「大丈夫だ。きっと選ばれるよ」
俺にはそういう事しかできない。
そして決議の時間になった。
決議方法は実にシンプル。そう、多数決だ。
決議の寸前、不安そうに夢葉は俺の手をぎゅっと握ってくる。
正直こういうのは、周りの注目の的になるからやめてほしい。
周りの人たちは多数決の方に注目しているからあまり心配はいらないだろうが。
そして、多数決が行われる。まずは夢葉の出した劇だ。
パラパラと手が上がる。一三人。微妙と言わざるを得ない人数だ。
このクラスは総勢三六人。約三分の一となれば他に人気のものがあれば劇は消える。
さて、早速次々と述べられていく。それぞれ一人、二人程度。
最後に控えている。メイド、執事喫茶。これが残っている。耐えられるのか。
おそらく残っている人数は一四人。全員上げてしまったら負けだが、こういうのは 面倒くさがって何も上げないという人もいる。
そういう人たちがいることにかけよう。
そして、メイド喫茶
一人、二人、三人、四人……一二人、
ここで、あと二人残っていた。
この結果が示すのは、俺達、強いては夢葉の敗北だ。
「悔しいのです」
そう、夢葉はつぶやいた。そして次はもう少し大きな声で。
「悔しいのです」
そう言って号泣した。
周りの目がこちらに向いて正直恥ずかしい。
「じゃあ、水口さん、何か不満というか、劇を押す言葉をお願いします」
そう、文化委員の方が言う。
恥ずかしすぎる。
これだと泣いたら何でも許してもらえるみたいに名tぅてしまう。
「夢葉。何かあるなら言え」
「何もないのです。私の案は負けたそれだけなのです」
あ、現実は見えている。
「メイド喫茶でいいですから。ただ、少しだけそっとしてほしいのです」
そう言って、夢葉は机に顔をうつ向かせた。
そして気まずい空気の中、話し合いは続いていった。
結局メイド、執事喫茶に決まり。そこで料理を提供する形の文化祭にすることとなった。
そしてその帰り道。
「お見苦しいところを見せてしまったのです……」
そう、夢葉は恥ずかしそうに言った。
「でも、本当に悔しかったのです。それは事実なのですから」
「そうか……なんでやりたかったんだ?」
「それは……その……お父さんの小説の内容を劇でやりたかったのです」
そう、指を逆側の指に絡ませながら言う夢葉。
もじもじとしているが、言いたいことは分かった。
「じゃあ、二人でやるか?」
「それは嬉しいのです」
そして、そのまま夢葉の部屋に行き、小説を読む。
夢葉がやりたいといったのは、恋愛小説のそれだった。
「おい、まさかこの恥ずかしいセリフ……」
「はい、全部読んでほしいのです」
参ったな。しかもこれ、ヒロインのセリフ全部なのです口調じゃん。
そういえば夢葉はなのです口調は小説のキャラにはまったからとか言ってたな。
だから、なのです口調でヒロインをできるという魂胆だったわけだ。
「私は、あなたに会いに来たのです」
俺の目の目に天使がいた。それは比喩表現だ。だが、本当にそう言えるほどの美女だ。
髪の毛は青色で、背は小さい。
俺はその姿に一瞬で心を奪われた。
「君の名前は?」
「青原雫」
そう名乗った彼女に俺は焦がれてしまった。
「私はいつもあなたのことを思っていたのです。でも、私は天使、あなたとは付き合えないのです」
小説を読みながら夢葉がそう言った。
「私は……」夢葉は悲しい顔をする。「あなたのもとを去らなければならないのです。正体を知られたからには」
「待て!」俺は夢葉の手をつかむ。
「俺はお前のことが好きだ。だから行かないでくれ」
「だめ……なのです」
そして、夢葉は涙を流した。小説にそう書いてあったのだ。だが、涙を出せるなんて、まるで女優だな。
「さよならなのです」
その瞬間、地面が震える。その影響で俺は立ち上がれなくなり、いつの間にか夢葉の姿が消えた。
「はあ、疲れたあ」
俺はその場に寝転がる。
四時間半、小説のセリフを言いまくった。
マジで全部のシーンやるとは。
大体実写化映画などは二時間付近であることが多いと聞く。だが、それはシーンとセリフを少しカットしている場合が多い。
それなのに、素人の俺らがフルでやったらそうなるのは当然のことだった。
「本当に……疲れたよ」
そう言って横に転がる。
「でも楽しかったのです」
いつの間にか隣にいた夢葉がそう言った。
「だって、相手が俊哉君なのですから」
「ああ、そうだな。俺も相手が夢葉で楽しかった」
そして、俺と夢葉は寝転がりながら手をつないだ。
「ようやく終わったか」
そこにやってきたのは夢葉のお父さんだ。
「いやー、俺の書いた小説の心のこもった熱演が聞けて良かったよ」
「どれくらい聞こえてたんですか?」
「だいぶ聞こえてたよ。いやー、楽しく聞きながらご飯を食べてたよ」
そう言って豪快に笑う夢治さん、俺としては作者に聞かれるほど恥ずかしい事はないのだがな。
「お父さん。こんな面白い小説を書いてくれてありがとうなのです」
そう言って父親に抱き着く夢葉っぱを見たらそんな気持ちはなくなっていったが。
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