第3話 夢葉との登校

 俺の朝のモーニングルーティンは単純だ。朝起きて歯磨きして髪の毛のセットなどをして服を着替え、ご飯を食べる。基本的に朝の準備だけだ。


 そして、ご飯を食べていると、ピンポンと音が鳴った。お客さんのようだ。とりあえずドアを開ける。すると、


「来ちゃったのです」


 と、夢葉が来た。


「なんで?」

「朝一緒に登校したいからなのです」

「それにしても早すぎないか?」


 今はまだ八時十分。まだ学校に向かうには早い時間だ。


「いや、なんか緊張して早く起きてしまったので」


 そう、笑う。


「まあでも、俺まだご飯食べきってないから、少しだけ待っててくれ」

「分かったのです。じゃあ、お邪魔するのです」


 そう言って、夢葉は椅子に座って俺が食べる様子を見る。


「なんか緊張するんだけど」

「いや、気にせず食べてほしいのです。私は見ているだけで楽しいのですから」

「そうは言われてもなあ」


 食べにくいのは食べにくい。

 だけど、そろそろ食べ始めないと学校に夢葉もろとも遅刻することになる。それは嫌だということで、夢葉はいない、いないと思うことで、緊張を精一杯消しながら食べる。

 だが、やはり目の前にいるのは、クラスでも五本の指には入るだろう美少女だ。緊張しないでというほうが無理がある。

 語尾が特徴的ということで、クラスでも何回か告白されているのを見たことがある。まあ全員ラノベ好きな男児だったが。

 そしてそんな美少女に見つめられながらも、なんとか頑張ってご飯を食べ終えた。

 なんだか、疲れた。


「じゃあ行くのです!」


 そう言う彼女に手を握られ、学校に向かっていく。


「そういえば、一人暮らしなのですか?」

「ああ、父親が海外出張なんだ。だから一人で暮らしてる」

「何処なのです?」

「イギリスだ」

「イギリスなのですか……俊哉君は英語を喋れるのですか?」

「俺は喋れないよ。平均レベルだ」

「そういえば学校の成績って……」

「恥ずかしい事に、あまり良くはないな」


 クラスの中の下と言った感じだ。勉強はやろうとは思っているが、中々やる気が出ない。特に現代文なんかはもう絶望的に出来ない。


「じゃあ、今度教えてあげるのです」

「そう言えば夢葉は勉強できたんだったな」

「そうなのです! 尊敬するのです!」


 そう言ってまた夢葉はどや顔するのであった。

 俺はそんな彼女に対し、すごい凄いと言ってやった。

 すると、想像以上に照れてくれた。


「それと、お前の小説良かったぞ」

「これ以上褒めないでほしいのです。時と場合を考えてほしいのです」

「いや、前者は褒めてほしそうだから褒めただけだが。……まあ、とにかく、夢葉らしさが出てたしな」

「ありがとなのです。でも、もう照れくさくて死にそうなので、そろそろやめてほしいのです」

「ん、分かった」


 これ以上言ったら夢葉が死んじゃいそうだ。


「おはよう夢葉」


 そう鮎川さんが言った。


「おはようなのです」

「昨日どうだった?」

「楽しかったのです。あの濃密な夜は今でも忘れられないのです」

「ええ!?」


 鮎川さんは驚きの表情を見せる。


「言っとくけど、俺お泊りしてないからな。夢葉も勘違いさせるようなこと言うな」


 確かに濃密は濃密だが、一般的にそんなことを言えば、男女の営みになってしまう。


「まあ、でも楽しかったのは事実なので」

「ねえ、俊哉くん?」

「なんだ?」

「夢葉のお父さんにあった?」


 そう、にやりとした顔で、。が話しかけてきた。


「ああ。会った。いい感じの人だったな」

「経歴も聞いた?」

「もちろん」

「すごいでしょ? 夢葉のお父さん」

「ああ、すごかった」

「ちょっと、俊哉くんを取らないでほしいのです」

「そっか。悪かったわね。二人でごゆっくり―」


 そう言って鮎川さんはその場を去って行った。


「何だったんだ、いったい」

「じゃあ、二人で話すのです」

「ああ、そうだな」


 そして俺たちは授業が始まるまで一緒に喋った。そして、授業が始まった。

 今日の授業は、先生が休んだらしく、別の教室で教えている先生が代理で来てくれた。


「じゃあ、水口、この問題解いてみろ」


 早速夢葉が当てられた。


「この答えは、三なのです!」


 夢はは、元気にそう答えた。すると、


「正解だが、何だその喋り方は! ふざけるな!」


 先生がいきなり怒鳴った。確かに、夢葉のことをあまり知らない先生がこんな喋り方をされたらふざけているように思われてしまうよな。


「私はふざけてなんていないのです!」

「だったらその喋り方をやめろ!」

「私は間違ってないのです。だったらそれでいいのです」

「ん? お前アニメキャラの真似か? よくそれで高校生までやってこれたな? これからの社会そんなんじゃやってけねえぞ?」

「え、嫌なのです。怖いのです」

「いいからその喋り方やめろ!!」


 これはまずい、夢葉が泣きそうになっている。俺はこの状況をよしとしたくはない。


「ちょっと待ってください!」


 思わず、手を挙げて喋った。


「何だお前は?」

「夢葉の彼氏です」

「そうか、俺は今水口としゃべっているんだ。だめってくれ」

「いや、俺は黙ってみていられません。しゃべり方なんて個人の自由です。現にほかの先生も強く注意はしていません。それよりも授業をちゃんと行うほうがいいんじゃないんですか?」


 とはいえ、他の先生も軽くなのですに対して苦言は呈してはいたが。


「俊哉君.ありがとうなのです」

「いやいや、どういたしまして。まあ、とりあえず! 俺はまだ付き合って一日二日ですけど、この語尾は個性だと思っています。だから、お願いします」

「っち、分かったよ」


 そう言って先生は授業に戻った。よし、夢はを守れたようだ。


 そして授業後、鮎川さんに感謝された。そして「夢葉のヒーローだね」とも言われた。まんざらでもなかった。だってそう言われるのはうれしいのだから。

 そして、夢派が来たことによって、鮎川さんは「じゃあね」と言って向こうに行った。

 二人きりの時間を作ってくれたのだろう。



「ありがとうなのです。たぶんあなたがいなかったら私はまた……」


 その言葉から察するに、この特徴的な語尾でいじめられたりしたのだろう。


「大丈夫だ。お前がいじめられたり、いちゃもんをつけられたら、すぐに俺が助けるから」

「……ありがとうなのです」


 そう言った夢葉はうれしそうな顔をしていた。


 そして、その放課後、カラオケに行くことになった。

 二人きりで。

 夢葉がカラオケに行きたいと言い出したのだ。

 個人的に歌っている時はどうなっているのかは気になるところだ。


「じゃあ、歌うのです!」


 そう元気に言う夢葉。歌ってくれるのが楽しみだ。


 夢葉が歌うのは最近話題のアニメの歌だ。確かラノベが元に奈tぅていたはずだ。


「好きという気持ちがあふれるのです。心に満ち溢れているのです」


 夢葉はのですを素早くいう事でちゃんと歌っていた。まあ、そのなのですという場所では少しだけ音程が狂ってるし、忙しそうだった。だが、それを奢名えるくらい声がきれいで、歌が上手い。

 なるほど、流石だなと、聞きほれてしまう。

 となると、これから歌う俺自身が心配だ。何しろ歌が上手くないからな。

 ただ、カラオケに居るという時点で、そういう事は覚悟しなければならない。

 そんなことを考えていると、あっという間に夢葉の曲が終わった。

 よし! っと頬を叩く。


「どうだったのですか?」


 歌い終わりに夢葉が俺に訊く。そんなの当然、


「良かった」


 それ以外にない。


「良かったのです」


 そう言って夢葉はニカっと笑う。


 そして次は俺が歌う番だ。緊張する。でも、どんな結果になろうとも! という訳で、マイクを握る。


「君と過ごした日々は、虚構に終わったのか……」


 歌い出す。恋愛映画のエンディングソングだ。

 歌っていて楽しい曲だ。っと、夢葉はこれを見てどう思ってるのだろうか。


 そう思って夢葉の方をちらっと見る。すると、楽しそうにしていた。良かった。


「どうだった?」

「良かったのです。……でも、もう少しうまく歌う方法があると思うのです」

「うまく歌う方法?」


 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。

 何だそれは。


 そして、夢葉が言うには、もう少し腹に力を入れたほうがいいという事だった。


 そして夢葉のアドバイスを訊いた後、


「じゃあ、これを踏まえてやるのです!」


 そう、次の曲を入れられる。

 自分で歌わなくていいのかと、少しだけ思った。

 だが、俺の特訓の成果を見たいようだった。


 夢葉が居れた曲は、所謂有名な演歌だ。もしかしてこれ、いつの間にか、歌のレッスンになってないか?


 そして、夢葉のアドバイス通りに歌う。すると、なんとなく声が先ほどよりも出ているような感じがした。なるほど、これが腹式呼吸か。まさかこれだけで変わるとは思っていなかった。


 さてさて点数は?


 86.743だった。そこまで点は変わっていない。

 そもそも、この曲は歌いやすい曲なのだ。些細な点の変化など、俺が上手くなったのではなく、曲のおかげと考えるのがいいだろう。


 まあでも、



「さっきよりは楽しかったな」

「それは何よりなのです」


 そう言って夢葉は笑う。

 やっぱりこの子の笑顔は国宝級だな。そう思った・


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