仲良し兄妹
その日、凪は琉歌とともに下校した。
琉歌とは同じ駅で降りるため、自然とそのような流れになったのだ。
下校時、琉歌はいくつかのことを凪に質問した。
それを凪は分かりやすく答えていった。
琉歌の色んな質問の中には、こんな質問もあった。
「凪くんって、料理得意だったっけ?」
「いや、得意というわけでは……母の手伝いくらいしか、料理はしたことないよ」
「とか言って……彰人くんと桜ちゃんの中だったら、一番凪くんが料理できそうだね」
「大丈夫、ぼくらには『赤髪のクック』がいるから、彼女が一番料理できるはずさ」
凪は「赤髪のクック」こと、叶夢の料理姿を想像しながら、そう答えた。
琉歌は微笑を浮かべたかと思いきや、急に真面目腐った顔で「叶夢ちゃん、どこまで奏ちゃんの情報集めてくれるかな」と口にした。
「……うん」
何を言えばいいのか分からず、凪はうなずくことしかできなかった。
気まずい雰囲気を察したのか、琉歌は話題を変え、違う質問を凪にした。
「そういえば、彰人くんのことを好きな卯月先生って教師……あの人、どうして彰人くんのことが好きなの?」
「んんっ。それはだね、東城高校七不思議のひとつに入るくらいの不思議だから、ぼくには分からないよ。ただ……」
「ただ?」
「卯月先生は物好きな人だからね。そういうのもあって、彰人くんのことを好きなのかもしれないね」
「……言ったら悪いけど、わたしには東城高校にいるすべての人が不思議に見えるかな」
「東城高校に通うぼくが言うのもなんだけど、それは同感だよ」
凪は苦笑しながら、うなずいた。
それからまもなくして、凪と琉歌は東城高校の最寄り駅に着き、電車に揺られること、数十分。
二人は自宅の最寄り駅の睦月駅改札を出ると、少し雑談をしてから、「また明日」と別れた。
このとき、凪は久しぶりに琉歌と下校をしたことで、なんだか浮かれていた。
それで凪は自宅付近の道を歩いていて、つい大声で「ひゃっは~!」と叫んでしまった。
そしたら、ドン引きしたような少女の声が背後から聞こえてきた。
「……とうとう精神を病んでしまったか、兄上」
凪はビクッとし、あわてて後ろを振り返ると、そこには……。
「うわっ、
凪の妹の
まだ中学生ではあるが、悠奈の色白の顔は大人びていて、身長は一六五センチメートルほどもあり、その背丈は凪と大して変わらなかった。
悠奈は凪の顔を覗きこむと、頬を引きつらせた。
「いやらしい顔であるな……さては美貌のいい女子とでも下校したか」
「なんてことを。心の中を覗くのは、ご法度ですぞ」
「安心なされ、兄上。心の中を覗いたのではなく、現場を見ただけに過ぎない。
――むっ、何を呆気にとられているのか、兄上は。少しはシャキッとなされ」
唖然とする凪にデコピンをするのは、凪と琉歌の下校姿を見ていたらしい悠奈。
凪は痛む額を押さえながら、「……いつから見ていたの?」と彼女に尋ねた。
「睦月駅」
即答。
さらに悠奈は付け加える。
「兄上が学生寮にいるはずの琉歌殿といたので、きっぷ売り場でサイコロを振っていた余は驚いた。
それに琉歌殿が兄上と同じ東城高校の制服を着ていた事実にも、余はとびきり驚いた。
まさか、サイコロで二の目を四回連続で出すことで、そんな珍しい光景を見られるとは思わなんだ。
……一体なぜ?」
「話せば長くなるんだけど、それでも良ければ話すよ」
「うむ、どんと来るがよい」
腕組みをする悠奈の目は輝いていた。
息をついてから、凪はこれまでのいきさつを悠奈に語った。
すべてを聞いた悠奈は「あい分かった」と言ってから、凪の頬を両手で引っ張った。
「……にゃぜ?」
「それはこちらのセリフであるぞ、兄上。なぜ愚鈍な兄上が、聡明な余よりも青春しているのか、余にはちんぷんかんぷんだ。
それに、そう……久しぶりの片思いとの下校を終えたあと、兄上はアウトローな喜びの声を叫んだであろう? さすがの余でも、これにはドン引きした。
余はこれ以上、兄上が片思いをこじらせる姿は見ていられぬ。さっさと琉歌殿に告白するがよい。そうして彼女からちゃんと振られるがよい。それで万事解決じゃ」
凪は頬を引っ張る悠奈の両手をどけてから、兄の尊厳を守るため、えへんえへんと咳払い。
「なんだか勘違いしているようだけど、今のぼくは琉歌さんのことは好きではないよ。
そりゃあ、いっときは彼女のことを好きだったさ。でも、あの頃と今とではね、何もかもが違うんだ。
ぼくも琉歌さんも……中学校を卒業してから、色々なことがあって、様々なことが変わってきたはず。
当然、琉歌さんへのぼくの思いも違ったものになっているし、それは琉歌さんだって同じはずさ。
そうやってぼくらは成長していくんだよ、悠奈」
「ひゃっは~、ひゃっは~、か……ふふっ。ひゃっは~」
「ハイライトはやめて。恥ずかしいから。お願いだからやめて」
凪が懇願すると、つまらなさそうに悠奈は黙りこんだ。
気まずくなった凪は、コホンと咳払いをしてからニコッと笑い、「さあ、家に帰ろうよ」と悠奈の手を引いた。
悠奈はコクンとうなずくと、凪と手を繋ぎながら並んで歩く。
凪と悠奈は夕焼け空の中、二人で「夕焼け小焼け」を歌いながら、ゆっくりと家に帰った。
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