秘密結社?

 凪は奏が自分の席に戻るのを見て、慌てふためいた。

 どうやら今度は凪が奏の席の前に立つ番のようだった。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 凪は奏の席の真ん前まで行き、昨日までは教室になかった二つの席を指差しながら、一息にまくし立てた。


「一日で、たった一日で! 西倫女子高等学校の琉歌さんや大人の裕貴さん、この二人を二年一組のクラスメートにしてしまったんだ、きみは。こんなのはありえない。

 そう、そうだよ、きみは一体何者なの?」


 とうに話は終わったとばかり、奏は興味なさげにスマートフォンを操作していた。

 だが、じっと自分を見つめる凪の視線に耐え切れなくなったのだろう、奏はスマートフォンを机に置き、それからボソッと、

「秘密結社」

 そうつぶやいたのだ。


「秘密結社……? えっ、それが北埜さんとなんの関係があるの?」


 どういうことか理解できず、凪は情報を得ようとさらに聞くが、奏はそれっきり口を開こうとはしなかった。


 凪は諦めて自分の席に戻ろうとしたが、その凪の席に彰人が堂々と座っていた。


「そこをどいてくれないかな、彰人くん」


 凪は彰人の肩を優しくトントン叩くと、彼は首をフルフルと横に振った。


「いや、首を横に振られても……ともかく、そこはぼくの席だからどいてよ。そんでもって、自分の席に戻りなよ」

「対話を……拒否する」

「…………」


 イラついた凪は彰人の肩を激しめにパンパン叩くと、彼も激しく首をブンブンと左右に振った。


 凪は深呼吸を何度か繰り返してから、彰人に最終通告をした。


「いいんだね、それで……本当にそれでいいんだね、彰人くんは」

「ああ、もちろんだ。これはおれが決めたことだ。すべての責任はおれが取る」


 最終通告を聞き入れない彰人に対し、ついに凪は彼を脅すことにした。


「分かった。……じゃあ、きみごと椅子を床に倒すから、どうかケガにはご注意を」

「ままま、まあ待て、遠山氏。早まってはいかん、早まってはいかん……いいか、遠山氏、遠山氏。

 まずはじっくりとおれと対話をするに限るが、それはどう思うのか」


「対話を拒否した人間と、どうコミュニケーションを取れと……?」

「言われてみれば、確かにその通りだが……むっ?

 いや、だがしかし! その選択は大きな過ちとなるだろう、遠山氏」


「ぼくの大きな過ちはね、きみと友達になったことだよ」

「気を確かに持て、遠山氏。自分を責めるのはよすんだ」

「オーケー。なら、彰人くん……全部きみのせいだ」

「おれのせいか」

「うん」

「その通りだ、認めよう」


「まあ認めるのは問題ないけど、その前に……いい加減、ぼくの席から離れようか」

「それでおれの過ちは償えるのか、遠山氏よ」

「少なくとも、ぼくはきみを赦すよ」

「おお、タコよ!」

「凪ね」


 凪の脅しは効果てきめんだった。

 出席番号二十七番氷室のプリティーなハンカチ、それで彰人は目元を拭う真似をすると、そそくさと自分の席に戻っていった。


 これでよし、と凪は空いた自分の席に座った。


 奏が口にした「秘密結社」という言葉の意味。

 考えれば考えるほど、凪は奏という変人少女を手放したくないという思いが強まり、もっと彼女を知りたいという欲求に駆られた。


 そんなこんな考え事をしていたら、いつの間にかショートホームルームが始まる時刻となっていた。

 まだ担任教師の美麗は教室には入ってきていなく、彼女にしては珍しい遅刻だった。


 今日は一体どうなることやら、と凪はこらえ切れず、ニヤニヤする。

 が、裕貴の嫌な顔を思い出し、そのニヤニヤは瞬時に消え去った。


 そんなとき、二年一組の教室の引き戸が開かれた。

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