心労の恐ろしさ
「……北埜さん」
凪は奏に聞いた。
「なんだい?」
「……さっきの言い方だと、北埜さんは二人目の転入生を知っているんだよね?」
「まあ、そうなるね」
「それって……その二人目の転入生って、もしかして、さ」
「正解!」
「まだ何も言ってないってば! ――二人目の転入生、それって琉歌さんだよね……?」
「正解!」
「やっぱり……道理で」
凪は衝撃のあまり、首をうなだれた。
彰人は興味津々に「どこの誰だ、その琉歌とやらは」と目を光らせ、さらに言葉を続けた。
「それに裕貴という奴は、何者なのだ。奴は、さっきからクラスメートどもが口にしている大人の男の転入生のことか?
一体どうなっているのだ、この教室は。して、我がクラスはどこに向かおうとしているのか」
同感、と凪は彰人の懸念に首を振ってうなずいた。
「たぶん、迷走しているんじゃないかな」
「なら、いいのだが」
「いいの……?」
またもや凪は首をうなだれた。
そのときだ。
「ギャバー!」
謎の奇声が教室のすぐそばから聞こえたかと思えば、生者らしくない死者のような感情のない顔つきで美麗が教室にゆらりゆらりと入ってきた。
二年一組の教室は途端に静まり返る。
これは重症だ、そう凪は美麗の様子を見て硬直した。
美麗は凪たちのいる場所までゆらりゆらりと近づき、自然といえば自然、不自然といえば不自然に奏のほうを見た。
「ギャバ―……」
「すまないが日本語で頼む、怪獣型竹原ロボ」
「ギャバ、ギギギ……ギ、北埜……また貴様の差し金、許すまじ」
「さすがのわたしでも、これは同情しよう」
「同情……不要」
「仕事に戻ることだね、怪獣型竹原ロボ」
「仕事……ギゴト、ギ、ギ、ギギギ、ギャバ―!」
またもや人間ではない奇声を上げてから、今度は素早い動きで教室から飛び出た美麗。
少々時間はかかったが、再び教室はクラスメートのおしゃべりに満ち、それでようやく凪の緊張の糸がほぐれた。
「なんだったんだ……今のは」
思わず凪はつぶやく。
そんな凪の言葉に答えるのは、彰人と奏。
「今のは明らかに過労だな」
「いや、それを言うなら、過労怪獣型竹原ロボットではないだろうか」
どれも間違っている、と凪はフルフルと首を横に振った。
「過労じゃないでしょ、あれは。普通に竹原先生は心労で……あぁ、かわいそうに」
凪は心労が絶えない美麗の過酷な教師生活を想像し、静かに涙ぐんだ。
何はともあれ、と奏は話をまとめにかかる。
「我が教室に二人の生徒が転入してくるのだ。この事実に変わりはなく、ましてやそれ以上のことを考えるなど、愚の骨頂。
どんな生徒だろうとも、我々クラスメートは受け入れる……それでよし、それが良き。
――そうではないかね、諸君!」
奏が叫ぶと、教室のどこからともなく賛同の声が聞こえた。
奏は満足げに「そうとも」とつぶやきながらうなずき、スクールバッグを肩に提げながら自分の席に戻っていった。
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