第26話 相手は反抗期真っ盛りの中二男子だよ!?



 ……


「うん、うん……わかった。じゃあね」


 お母さんからかかってきた電話を終えた私は、どっとため息を漏らす。

 それは、お母さんとの電話に疲れたわけではないけど、お母さんとの電話に疲れたからだ。矛盾しているようだけど、これ以外に表現できない。


 疲れたのは、お母さんとの会話ではなく……

 その、会話の内容についてだ。


「ど、どうしたのカレン?」


 傍では、私のことを見ていたハルキが目を丸くしている。

 電話をしていた私が、いきなり大声を上げたんだ。驚くのは当然だ。


 自分の部屋でそんなことをされたにも関わらず、ハルキは私の電話が終わるまで黙って待ってくれていたのだ。

 申し訳ないのと、ありがたい。


「今の電話、お母さん……って言ってたよね。いったいなにを話して……

 あ、ごめん。話しにくいことだったら言わなくていいからっ」


 しかも、今の会話内容がプライベートなものではないかを確認し、気まで遣ってくれている。

 電話の相手がお母さんだったことから、私との会話内容は家族間のものではないかと思ったわけだ。だから、その問題に気軽には突っ込めない。


 ハルキったら、そんなこと気にして……まったく。


「……大丈夫、言いにくいことじゃないの。ただ、すごくびっくりしただけだから」


 ハルキが怪訝した通り、お母さんからの話は家族に関係する問題ではあった。

 でも、これをわざわざ隠す、というほどの問題でもないのだ。


 それに、あんな反応しといてハルキに隠すなんてことも、できないしね。


「その、さ……覚えてる? 私の弟」


「え? そりゃ、うん。もちろん。さっきも話してたしね。

 確か、聡くん……だったっけ」


 私からの質問は、いきなりのことのように聞こえるだろう。実際唐突だし。

 でもハルキは、驚いた様子を見せながらもその次には、しっかりと答えてくれた。


 弟の話自体は、さっきの会話の中でも話題に出していた。

 でも、名前まで覚えてくれているなんて。


 私の二つ下の弟……恋上院 聡れんじょういん さとるのことを。


「カレンとは違って、聡は活発な子だったよね」


 懐かしむように思い出すハルキ。


 そう、聡は私とは違って、小さい頃から活発だった。それにとても前向きだ。

 転勤族であちこち居場所が変わり、友達もできないことに悩んでいた私に「ねーちゃんまえむきに考えよーぜ。新しいばしょで新しいともだちができるってことじゃん!」というくらいには。


 活発で前向きで、そしてちょっとおバカな私の弟。


「懐かしいなぁ。けど、聡がどうしたの?」


 懐かしい話に花を咲かせるために聡のことを話題に出したのならば、このまま話を膨らませていけばいいだろう。でも違う。

 私が弟の話を出したのは、お母さんからの電話に関係するものだからだ。


 ハルキも気にしていた、その内容に……深く関係するものだからだ。


「えっとね……聡、今お母さんたちと一緒にいるんだよ。まだ中学生だし、心配だから」


「それは、そうだろうね。カレンみたいに高校生ならまだしも、中学生でまさか一人暮らしなんかさせられないし。カレンと二人暮らしってのも……」


「一人暮らしより、そっちのが危なそうって思ったみたい。私も、一人がいいって言ったからね」


 私とは違って前向きな聡は、中学生になっても転勤族であることをマイナスには考えていなかった。

 お母さんに着いていったのは、それも理由の一つだろう。とにかく一人暮らしがしたかった私と違って。


 そう、今聡はお母さんたちと一緒にいるのだ。けれど。


「それで……ね。聡が……夏休みになったら、こっちに来るんだって」


「へぇ。なんだ、嬉しいことじゃない」


 夏休み期間、聡がこっちに遊びに来る。

 うん、これだけ聞けば微笑ましい家族の話だ。だけど、だ。


 私にとっては、あんまり嬉しくない。

 だって……


「一日二日じゃないの。それに、夏休み期間は私の家に泊まるんだって」


「……」


 端的に、要点だけを述べた。


 お母さんからの電話の内容は、こうだ。夏休みになったら聡が私のところに遊びに来る……

 その期間、私の家に聡を泊まらせてほしいのだと。


 私だって、一日二日なら喜んだかもしれない。でも、夏休み中だ……


「そ、そっか……でも、良いじゃない。久しぶりの兄妹水入らず」


「良くないよ! 相手は反抗期真っ盛りの中二男子だよ!? 絶対めんどくさいよ!」


 あぁ、昔のままのかわいい聡だったらな……私だってこんなに悩まないのに。


「でも、ご両親に着いていくくらい仲がいいんでしょ? ならカレンとだって、仲良く過ごすんじゃないかなぁ」


「仲が良いのと反抗期なのは結びつかないものなのよ」


 ていうか、私と聡の二人暮らしは渋い顔してたくせに、夏休み中の二人暮らしはいいんだ!? 夏休みの期間だけだから心配ないだろうって考えてるんだ!?


 あぁもう、適当なんだから!


「聡だって、カレンと暮らしたくないなら今回来ようなんて思わないと思うけどな。そりゃ、わざわざこっちに来る理由があるのかもしれないから、お姉ちゃんに頼るしかないのかもしれないけど……」


「ハルキはあの頃の聡で止まってるからだよ。今の聡めんどくさいんだよ? 思春期の男の子ってめんどくさいんだよ?」


「あはははは」


「笑うなよ!」


 ぐぬぬ……ハルキめ、自分には兄弟姉妹がいないからって、わかってないんだから。

 思春期の弟なんて、そんなめんどくさいものは他にこの世に存在しないんじゃないのかな。


 とはいえ、いくら嘆いてももう後の祭り。祭りどころか、もうほぼ決定事項で私には報告だけなんだもんなぁ。

 身内とは言え、報告連絡相談大事だと思うよ! 報連相大事!

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