第25話 ちょっとごめんね、ハルキ
「じゃ、行くよー。はいチーズ!」
パシャリ、とその場にシャッター音が気づく。
ハルキが掲げたスマホのカメラ部分に視線を向けて、出来る限りの笑顔を浮かべていた。
私とハルキのツーショット……二人が画面に入るため、当然距離が近づくことになる。
肩が触れ合いそうな……というか、触れちゃう距離にまで接近して。
ついに私は、念願のハルキとのツーショット写真を撮ったわけだ。
「うわぁ、見て見て! 初めてにしてはうまく撮れたと思わない!?」
「そ、そうね」
初めてのスマホカメラ撮影に、ハルキはテンションが上がっている。
か、かわいいなぁちくしょう。
しかも隣でそんなにはしゃがないでよ……なんかもう、私は胸の中がいっぱいだよ。
「そ、その写真私にも、送ってね……」
「当たり前だよ!」
今撮った写真は、もちろん私のスマホにも欲しい。
スマホにデータを転送してもらって、プリントアウトして部屋に飾ろうかな。いやそれはさすがに、重いか……?
ううん、ハルキだって十年前の写真飾ってくれてたんだし……
「ねえカレン、自分のスマホにある写真や画像って、待ち受け画面……ってのにできるんだっけ」
「うん、設定すればできるわよ。……って、まさかハルキ今の写真を……」
「はい、送ったよ」
「え、あぁ、ありがとう」
ぴろん、とスマホの着信が鳴る。
それはハルキから送られてきた、今撮った写真だ。確かに初めての、それも自撮りにしてはよく撮れている。
それに、ハルキとの初メッセージやり取り……ふふっ。
「……って、ハルキ! もしかして今の写真、待ち受け画面にするつもり!?」
今のやり取りだけで忘れそうになっていたけど、とても忘れられるような内容でもない。
だって、ハルキは今の写真を……私とのツーショット写真を、待ち受け画面にしようと言うのだ。
待ち受け画面って……それって、スマホを開いたら必ず映し出されるんだよ!?
それって、後ろを通った人がうっかりハルキのスマホ画面を見たりなんかしたら……
「え、だめかな」
「いや、だ、だめなわけじゃないけど。ええと、だってぇ……」
画面を見た人が、私たちの関係を誤解する可能性だってあるのだ。だから、そういうのは……
……いや、落ち着くんだ。私とハルキは女同士だ。同性で仲良く撮った写真を待ち受け画面にしているからって、なにかまずいことなんてあるもんか。
考え過ぎなんだよ、私は。
「い、いいよ……」
「ほんと? やったー」
べ、別に……私とハルキが元々知り合いだってことは、みんなに隠す必要もないんだし。
そうじゃなくても、この数日で一緒にスマホを買いに行くくらい仲良くなったんだと思ってもらっても、不都合はない。
さ、さすがに私まで同じ待ち受け画面にするっていうのは、ちょっと……いや、かなーり恥ずかしいから、やらないけど。
ハルキがやってくれる分には、私は別に……
「カレン、早く早く」
「はいはい」
写真を待ち受け画面にできることは知っていても、どうやって設定をすればいいのかわからないハルキ。
私はハルキに急かされるまま、待ち受け画面を変更していく。既存のものから、今撮ったツーショット写真へと。
「……はい、できたわよ」
「おぉ! これでいつでもカレンを見れるね!」
「っ、そ、そう……」
うわ、うわぁ。やっちゃった、ついにやっちゃったよぉ。
ハルキのスマホの待ち受け画面が、私とハルキのツーショット写真に。男女でこれをやったら、恋人のそれだと言われても言い訳出来ない所業だ。
でも……恥ずかしいのとは別に、なんだかとってもいい気分。なんて言うんだろう……そう、優越感ってやつだ。
「と、とりあえず……さっきも言ったけど、たいていの操作はやっているうちに慣れると思うから。よく使うアイコンをホーム画面に置いておいて、いろいろ触って見てみるといいよ」
「うんうん、わかったよ」
「本当にわかってるのかしら。……ふふ、まったく」
ハルキは、まるで新しいおもちゃを前にした子供のようだ。
気持ちは、まあわかるんだけどね。
「……もう、こんな時間か」
ハルキはスマホの画面を見つつ、そう呟いた。
私も同じく時間を確認すると、もう夕方を過ぎていくところだ。
これ以上遅くなっては、外が暗くなってしまう。
そうなる前に、帰らないと。
「時間が経つのは、あっという間だね」
そう話すハルキは……少し、寂しそうに見えた。寂しいと、思ってくれているんだ。
私だって……もうハルキと過ごす時間が終わりかと思うと、寂しい。
今日はハルキと待ち合わせて、ナンパから助けてもらって、お昼ご飯を食べて、スマホを買いに行って、まさか家にまで来て……
充実した、一日だった。
「それじゃあ私、そろそろ……」
感慨ふけっている場合じゃないな。私は帰宅するために立ち上がろうとした……その時だった。
スマホが着信を、知らせる。これは……メッセージではない、電話だ。
もしかしてハルキが試しにかけてきたのかなと思ったけど、違ったようだ。スマホを持ったまま、きょとんとしている。
画面を確認すると……そこには、お母さんの名前が表示されていた。
「? どうしたんだろ、珍しいな」
電話することがないとは言わないけど、お母さんから電話がかかってくるのは珍しかったりする。たいていメッセージで済ませる人だから。
どうしたんだろうと思いながらも、私はハルキに一言断ってから、電話に出る。
「ちょっとごめんね、ハルキ。
……もしもし、お母さん? どうしたの?」
着信ボタンをタップして、スマホを耳に当てて電話に出る。
電話口から聞こえてくるのは、お母さんの声。お母さんはなにかしらの用事があるから、私に電話をかけてきた。メッセージでもいいだろうに、わざわざ電話でだ。
それほど重要なことなのだろうか。
何度か言葉のやり取りをする。それは前置きだ。学校生活はどうだとか……それらを終えて、ついに本題を切り出された。
その内容を聞かされた、私は……
「えぇ!?」
近くでハルキが聞いているにも関わらず、思わず大きな声を出してしまっていた。
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