第24話 カレンがいてくれてよかったよ



「んー、できたー!」


 両手でスマホを持ち、ばんざいをするように天に掲げるハルキ。

 大袈裟なそのはしゃぎように、私は思わずかわいいと思ってしまう。


 ハルキと再会してから、かっこいいなとばかり思っていたけど……この数時間で、ハルキのかわいい部分もたくさん見つけた気がする。


「これが電話帳で、こっちが連絡アプリ。文字だけのやり取りもできるし、電話は無料でできるから便利だよ。

 ……で、これがみんな使ってるSNSね。なんか、適当なことつぶやいたりしてんの」


「なるほど……」


 こうしてハルキにものを教えているのが、なんだか楽しい。

 ハルキの電話帳を開き、そこにある名前を見る。


 『恋上院 華怜れんじょういん かれん』。ハルキのスマホの連絡帳には、私の名前が刻まれている。

 それも、他の名前はない。私の名前だけ。


 正真正銘、私が一番最初の名前だ。


「ふふっ」


 そして私のスマホの連絡帳には、『一条寺 晴樹いちじょうじ はるき』の文字が。

 私は、スマホを持ってからしばらく経つし……家族や蓮花の連絡先が入っている。残念だ。


 でも、ハルキの連絡先にはまだ家族のものすら入っていない。

 そう、私が、ハルキの連絡帳初めての女ということだ!


「お父さんやお母さんの番号も入れておかないとな」


 か、家族よりも先に、ハルキに……入れちゃった。連絡帳……うふっ。


「えっと、ここに名前と番号を入れればいいんだよね?」


「わっしょおい! え、お、う、うん」


「……わっしょい?」


 あ、あっぶねー……私ってば、今なに変なこと考えてたんだよぉ。

 いかんいかん。浮かれるな私。


 ハルキに操作説明をしながら、ハルキの両親の連絡先を入れていく。

 いくら先にスマホを持っているとは言っても、機種が違えば操作方法も違う。手間取ってしまう。


 そう考えたら、同じ機種にしておいて正解だったのかもしれない。


「ありがとーカレン、カレンがいてくれてよかったよ!」


「い、いやあ、それほどでも……」


 や、やだもうハルキったら。いてくれてよかった、なんて……


 それにしても……はじめは、ハルキの部屋に二人きりなんてどうなることかと思ったけど。

 慣れてみれば、なんのことはない。普通に過ごせている。


「……あれ?」


 部屋を見回す。女の子らしくないと言えばらしくないけど、ハルキらしいと言えばらしい部屋。

 さっきより余裕が出てきたからだろうか……私は、机の上に一つの写真立てを見つけた。


 気付かなかった。今までいっぱいいっぱいだったもんな。

 でも今落ち着けてるってことは……ふふん、私落ち着いてるってことだよね。


「ハルキ、あれ……」


「ん? ……あぁ、あれか」


 私が写真立てを指差すと、ハルキが立ち上がる。

 そして、机の上の写真立てを持ってから、再び私の隣に座る。


 見せてくれた写真に写っているのは、小さな男の子と女の子だ。


「これって……ハルキ?」


 そこに写っている、笑顔を浮かべている男の子は……ハルキだった。

 いくら小さい頃でも、私がハルキを間違えるわけない。ってことは、この子は男の子じゃなくて……


 こうして見ると、小さい頃のハルキは男の子にしか見えないなぁ。

 今の私でも、昔のハルキを知ってなかったら男の子だと誤解してしまうくらいには、男の子だ。


「あはは、ホント男みたいだよね。あははは」


 ハルキ、めちゃくちゃツボに入ってる。

 机に置いてるってことは、毎日この写真見て笑っていたりするんだろうか? ふふ、かわいい。


 ……っと。こっちの男の子……に見える女の子がハルキ、ってことは。

 その隣に写っている女の子は……


「……もしかして、私?」


「正解!」


 そこに写っていたのは、なんと私だった。

 自分の小さい頃の写真なんて、なかなか見ないからなぁ。えぇ、これ私なんだ……ていうか、この写真私も持ってるなぁ。


 うわ、ハルキはにこにこに笑ってるのに、私はぎこちない……それに髪もぼさぼさだし、やだこれ見ないでぇ!


「……って、この写真……飾ってるの? いっつも?」


「そうだよ」


 机の上に飾ってあった写真。わざわざ今日のために準備したのか? 今日私がここに来たのは、ハルキに誘われて……だけど、ハルキは最初から私を呼ぶつもりだったとしたら。

 いや、それは考えにくい。もしそうなら、もっとわかりやすい場所に置くだろう。

 それこそこのテーブルの上とか。


 じゃあ……い、いつも飾ってるの。この写真を。

 わ、私とハルキがツーショットの……この写真を!


「や、やめて! こんな……私、全然かわいくないし! こんなのやだ!」


「? いや、かわいいでしょ」


「っ……」


 こ、このすけこまし……! なんでこう、そういうことをさらっと言うかなぁ。


 ハルキは……私との写真を、飾っててくれたんだ。こんな、十年も前の写真を。

 ……嬉しい。


「そうだ。だったらカレン、写真撮ろうよ」


「え?」


 な、なにを言うのいきなり!?


「この写真が嫌なんでしょ? なら、新しく撮ったのを飾ろうよ」


 なっ、ななな……! い、今ここで、ハルキとのツーショット写真ですって!?

 そりゃ、この写真よりはいいのかもしれないけど……いや、この写真だって、本気で嫌なわけじゃない。


 私だって、写真をスリーブに入れて厳重に保存してるし……


「で、でもそんな、いきなり……こ、心の準備とか……」


「……だめ?」


 ぅっ……! な、なんでこういうときは、かっこいいじゃなくてかわいい仕草をするのよ!

 そんな風に、小動物みたいな目をされたら……こ、断れないじゃない!


「それに、初めての写真はカレンとがいいんだもん」


「撮ります」


 ここで、不意打ちの追加攻撃……!? しかも「だもん」ってなんだよ「だもん」って。

 殺したいの? ハルキは私を殺したいの? キュン死にさせたいの?


 私が撮るとうなずいたことで、ハルキは「やったー」と喜ぶ。

 その横で、私は自前の手鏡で必死に、髪を整えていた。

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