第19話 はぐれないように手を繋ごうか



 ――――――



「はぁ、お腹いっぱいだ」


「そうだねー、ちょっと食べすぎたかも」


 ファミレスで食事を終えた私たちは、外へと出る。膨れたお腹を軽く撫で、満腹を実感。ふぃー、食べた食べた。

 最初は、量も少なめにして食べるつもりだった。


 でも……



『じゃあこの……ハンバーグ定食、ご飯は大盛りで! あとスープも……』



 メニューを見て、楽しそうに注文するハルキを見ていたら、私もなんだかお腹が空いてきてしまって。

 さすがにハルキほどは食べられなかったけど、思っていたより食べてしまった。


 おかげで、お腹がちょっと重たい感じ。

 こんなに食べたの、久しぶりかも。


「いやぁ、こんないいお店があったんだね! 知らなかったよ。ありがとうカレン、連れてきてくれて!」


 ……それに、こんなに喜んでくれるハルキと一緒に食事だなんて、ついつい食べすぎてしまっても仕方ないと思う。


「気に入ってもらえたならよかった。他のメニューもおいしいから、また来ましょう」


「もちろん!」


 とにかく、ハルキが喜んでくれているなら私はそれで……って、あれ?

 私今、なんて……ま、た、来、ま、しょ、う?


 また来ましょうって……私、ハルキとまたこのお店に来たいってことを無意識のうちに声に出してた!?

 しかも、ハルキ……もちろん、って……


 そ、それって……また、こうしてで、デートしてくれる、ってことなのかな……


「っ、よ、よぉし! 腹ごしらえも済んだし、け、携帯ショップ行こうか!」


「? う、うん」


 頭をぶんぶんと振り、私はこの後のことを話題に挙げる。今の話はまた後々考えよう、今考えるのはこれからのことだ!

 これから行くのが、今日のお出掛けの本命。目的は、ハルキのスマホを買うために携帯ショップに行く。


 今まだスマホを持っていないハルキのために、私が諸々の案内係を担当することになったのだ!

 落ち着け私。落ち着いて切り替えるんだ。


「さあ、こっちだよ! 行こっか! い、行くぞ!」


「? お、うん」


 なんだかハルキに不審者を見るような目を向けられている気がする。いや、気のせいだ。きっと気のせいだ。


 足を進めて、目的地へと向かう。

 携帯ショップは、普段行くことはない。けれど、場所はわかりやすいところにあるから迷うことはない。


 広い交差点の一角……そこに、携帯ショップはあるのだ。


「あそこだよ」


「へぇ、結構大きいね」


 信号機で立ち止まり、ハルキに目的地を示す。

 それを確認してから、ちょうど信号も青になったので……二人で渡っていく。


 人通りも多いし、大丈夫だとは思うけど離れないようにしないと……


「カレン、はぐれないように手を繋ごうか」


 ……私の右手を、あたたかくて柔らかい感触が包みこんだ。

 それは、ハルキの左手だ。ハルキが、私と手を繋いでくれている。


 またっ……この子は、こういうことを、平然として……!


「う、うぅん、そ、そうだねぇ……」


 だけど、手を握られただけだ。そんな程度で、慌てることじゃない。

 いい加減、慣れないと。


 ハルキの手の感触を一身に感じつつ、歩みを進めていき……ついに、目的の携帯ショップへとたどり着いた。


「うわぁ、携帯ショップなんて初めてだ。緊張するなぁ」


 入口の前に立ち、ハルキは緊張したような……それともどこか、楽しそうな声で話す。

 携帯電話を持っていない……いや、持ったことがないハルキは、携帯ショップに入ったことすらないのだろう。


 ハルキにとって、未知のお店というわけだ。


「ふふ、ハルキったら」


 なんだか、その姿を見ていると……かわいい、と感じるのだ。

 少しだけ、緊張もほぐれた気がして……私は足を、進める。


 一定の距離に行くと、自動ドアが開く。そして、自動ドアが開くとチャイムが流れる。


「おぉお、ここが……」


 ハルキは興味深そうに、周囲を見回している。


 最新の機種のスマホが並び、少し横に行けばスマホのアクセサリー。カバーや画面フィルムなど、様々なものが売っている。

 ハルキにとっては、初めて見るものばかりだ。


「ど、どれがいいんだろう……どれにしよう……」


 とりあえず、今並んでいるスマホを見てみるけど……当然と言うべきか、携帯電話初心者のハルキには、なにがなんだかさっぱりのようだ。

 まあ、初心者もなにも私だってスマホを持っているからといってここにあるものを理解できてるわけじゃないけど。


 とりあえず、だ。


「ハルキは、どんな機能があるスマホがいいの?」


 やはり一番重要なのは、本人が望んでいるものにどれだけ近づけるか、だ。

 それを改めて、ハルキに確認しておく。


「そうだなぁ……あんまり複雑な機能はいらないんだけど、いろんなアプリっていうの使ってみたいな。それに、カメラで写真も撮れるんだろ? いっぱい撮りたい」


 今日までの間に、ハルキも考えてきたんだろう。

 すらすらと話すそれは、ハルキが望むスマホの機能。


 ふぅむ……最近の機種なら、そこまで深く考えなくてもいろんなアプリは入っていると思うし。

 となると……カメラ。写真をたくさん撮る……つまり、容量が大きいスマホがいいと。


「よぉし、任せてよ」


 私のスマホとお揃いの機種……と考えたりもしたわけだけど。

 まずは、他にどんなものがあるのか見てからでも、遅くはないよね

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