第10話 もしかして手作り?



 キーンコーン……



「おっと、予鈴か。じゃ、二人共後でね」


 私がうんうん唸っている間に予鈴が鳴り、ハルキは自分の席に行ってしまう。

 あぁん、まだ全然話してないのに。


 入学したばかりだから、席順は名前順だ。つまり『い』ちじょうじのハルキと『れ』んじょういんの私はほぼ端と端になるわけで。

 あぁ、ハルキが遠いよぉ。


「ホント、爽やかな人よねー。あんな人が彼氏だったら、嬉しいかも」


「かっ……」


「あはは、冗談よ。女の子同士だもんね。

 じゃ、私も行くねー」


 本気か冗談か、わからない態度で蓮花れんげも自分の席へと戻っていく。

 いや、本気じゃないとは思うんだけど。むしろ本気だったら困る。


 ……『た』かしなの蓮花のほうが、私よりもハルキと席が近いんだよなぁ。あ、今二人で顔見合わせて笑い合った!

 むぅ、ずるい。


「はぁあ」


 ハルキのことは、深く考えない。そう決めたはずなのに。

 いざ本人に会うと、昨日の決意なんて簡単に崩れちゃうよぉ。


 考えちゃいけないハルキのことを考えるという、矛盾した状態でいる私だったけど、ポケットの中でなにかが震えて我に返る。

 スマホが震えたのだ。着信かな。


 もしかして、ハルキ……と一瞬思って、それは違うとすぐに思い直す。ハルキはスマホを持っていない、一緒に買いに行こうと約束したばかりじゃないか。

 すぐハルキに結びつけるんだから……私は重症だな。


「……迷惑メールか」


 一応、机の下でスマホの画面を開き、確認する。

 メールが来ているみたいだったけど、どうやら迷惑メールだ。はぁ、ヌカ喜びさせやがって。


 ハルキはスマホ持ってない……だから、どれくらいスマホのことを知っているかわからないけど。

 迷惑メールとか、いたずら電話とか。そういう大事なことも教えておかないとな。


「私がハルキに、教える……」


 うぅん……私がハルキにスマホを選んで、私がハルキにスマホのあれこれを教える。

 なんか……良い。いや、もちろんスマホを選ぶのはアドバイスくらいで、決定権は私にはないけど。


 でも……さ。なんか、こう……ないかな。私のスマホとペア的な、要素とかさ。

 なんなら、私とお揃いのスマホにそれとなく誘導する? 私もスマホを買ったばかりだし、古い機種じゃないからお店にあるだろうし。


 ……考えてみれば、私のほうが先にスマホを手に入れたとは言え、そこまでの差はないんだよな。

 ハルキに頼られていい気になってたけど、ちゃんとハルキのためにスマホ選べるのかな。


「お前らー、席についてるなー」


「むむむ……」


 ホームルームのため、担任が教室に入ってくる。

 そんな中で私は、ハルキとのスマホ選びで失敗しませんようにと、祈るばかりだった。



 ――――――



「カレンー、一緒にお昼食べない?」


 時間は流れてお昼休憩。教室内ががやがやと騒がしくなる理由は、一つだ。


 みんなお腹が減り、昼食のために各々準備をしている。お弁当を出す人、財布を持ち立ち上がる人。

 この学校には……というかほとんどの学校だと思うけど……購買と食堂がある。

 自分で用意していない人は、そっちでお昼を食べるのだ。


 そして私は、お弁当を用意している。

 そんな私に声をかけてきたのが、ハルキだ。


 私は反射的に、ハルキの方を向いた。


「わ、カレンお弁当なんだ。……そういえば、一人暮らしって言ってたけど。もしかして手作り?」


「うん、そうだけど」


 桃色の布に包まれたお弁当箱を見て、ハルキは目を輝かせた。

 手作りお弁当……そう言われれば聞こえはいいけど、別にたいしたことじゃない。


 私は、ハルキに恋をしてから、ハルキにふさわしい女の子になるため、いろんな努力をした。

 勉強、運動……料理だってそうだ。料理上手な子が好きかなと思って、たくさん練習をした。


 おかげで、人前に出しても恥ずかしくない腕前になったと自負している。

 まあ、この努力も結局、ためになったのかどうかはわからない。少なくとも、初恋の子にふさわしい女になる……という意味では、とんだ空回りだ。


 でも、自分磨きという点では、存分にためになったと思う。


「ふふん、華怜かれんのお弁当はとてもおいしいんだから」


「なんで蓮花が誇らしげなのよ」


 私と共に机を並べて正面に座る蓮花が、なぜか鼻を鳴らして胸を張っていた。

 ちなみに蓮花もお弁当だけど、こっちはお母さんに作ってもらったみたいだ。


「華怜ってば、中学のときから料理が上手でね。その頃から、ずっと自分で手作りしてるの」


「手作りって……半分以上は、昨晩の残りだったよ」


 中学のときはまだ、両親と一緒に暮らしていた。だから、前の日の晩ご飯に出たおかずを、翌日のお弁当に入れていた。

 今と違うところといえば、晩ご飯はお母さんが作ったものだということ。


 お母さんが作ったおかずを、弁当箱に詰めていただけ。卵焼きなんかは、毎朝焼いてたけど。


「そういう蓮花は、いい加減自分で作ったら?」


「いやあ、料理は苦手で……」


 苦笑いを浮かべる蓮花は、本人が言うように料理は苦手なのだ。

 以前、蓮花の家にお邪魔して料理を教えたことがあるけど……あれは、すごかったなぁ。


 レシピ通りに作っているのに、なぜかまったく別のものが出来上がるんだ。


「それはそれとして、ハルキはお昼は?」


 一緒に昼食を、とやって来たハルキ。

 その出には、お弁当箱は持っていない。代わりに、いくつかの惣菜のパンが握られていた。


「……もしかして、それがお昼ご飯?」


「え……そうだけど」


 変かな、とパンを掲げるハルキ。

 なんてことだ……お昼にパンだけって、全然栄養が取れていないじゃない!

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