第11話 おかずわけてあげようか?



 ハルキと一緒にお昼ご飯を食べることは、全然いい。むしろ望むところ、ウェルカムだ。

 だけど、お弁当の私と蓮花れんげに対して、ハルキはパンのみ……なんだか、目の前でお弁当食べるのが申し訳なく感じてしまうな。


 もちろん、ハルキはそんなの気にしないだろうけど。


「よいしょ」


 ハルキは、椅子を持ってきて近くに座る。

 こうしてハルキと一緒にご飯を食べることになるなんて、思いもしなかったな。


 一緒に遊んだ十年前だって、いつも外で遊ぶばかりだったから、一緒に食事をしたことがない。

 だから、ハルキとの初めての食事……初めての体験……初体験……


「ごほっ、げほ!」


「!?」


 わ、わわ私ってばなにを考えてるの!? なんで食事からそっちの方向に行っちゃうの!?

 まあそっちの方向もある意味では食事で……って違ぁっう!


「か、カレン? どうかした? まだなにも食べてないのにむせたの?」


 ハルキが、私を心配してくれている。

 その心配は嬉しいんだけど、私がハルキで変な想像をしてしまったのが原因なので、とても申し訳ない。


 背中をとんとん叩いてくれる。あぁ、優しい……


「だ、大丈夫よ、大丈夫」


「……」


 うっ、蓮花の目が痛い。なにやってんだこいつ、って感じの目だ。

 ここは、さっさと話題を変えてしまおう!


「あ、あー、お腹減ったわねー。さあ、ご開帳ご開帳ー」


「話題変えるの下手か!」


 蓮花のツッコミを受けつつ、私は弁当箱を包んでいた布を解いていき……その姿を見せた弁当箱の蓋を、開けていく。

 すると当然、中身が現れた。うぅん、我ながらおいしそう。


 二段弁当ではあるけど、量は少なめ。女の子ならこれくらいが普通だとは思うけど……少なくとも、中学の頃は男の子から、「その量足りるのか」と心配されたくらいだ。


「おぉ」


 私が開けたのは、おかずが入っている二段目。それを見て、ハルキが声を漏らした。

 定番の卵焼きに、ウインナー、そして唐揚げ……手間だけど、今日は高校初お弁当だから張り切っちゃった。


 少しサラダも添えて、栄養と色味も大切に。

 一段目のご飯には、中央に梅干しを置いてある。


「おいしそうじゃないか、カレン」


 ハルキが、素直な感想を言う。ここでお世辞を言う必要はないし、多分本心だ。

 まあ、ハルキにならたとえお世辞でも私は喜んでいた気がするけど。


 しかし……こうも、物欲しそうな目をされると……

 いや、本人にそのつもりはないんだろうけど。


「……少しなら、おかずわけてあげようか?」


「えっ、いいの!?」


 お弁当を見るハルキは、まるでお預けをされた小動物のようで。

 男の子っぽくもある彼女が見せるその表情が、とても新鮮で。気づけば、そんなことを言っていた。

 ハルキは「食べたい!」とにっこり笑って答えた。


 その直後に、気づいたけど……私、今ハルキに手料理を食べさせようとしているの!?

 な、なんてこった……なんの心構えもしてない、いつも通り作ったおかずをハルキに?


「あの……」


「どれにしようかなぁ〜」


 だめだ、今更なかったことになんてできない。

 あんな楽しそうにおかずを吟味してるんだもん、それを邪魔することなんてできないよぉ。


 うぅ、本当は私の初手料理は、もっと丹精込めて気合いも充分に作ったものを食べてもらいたかったのに。

 自分用に作ったお弁当のおかずを食べさせることになるなんて。


 そりゃ、なんであっても作るからには料理に手は抜かないけどさぁ。でも、わかってたらもっと気合いは入れたしさぁ。


「うーん、どれもおいしそうだし。

 そうだ、カレンのオススメ教えてよ」


「え」


 悩んでいたハルキだけど、選ぶ決定権は私に委ねられた。どれもおいしそうだから、選べないのだと。


 うーん、私の、オススメかぁ……

 オススメって言われたら、やっぱり……


「この卵焼き、かな」


 中学の頃から、これだけはずっと自分で作っていた。

 シンプルだけど、焼き加減や味付けによって全然出来が違ってくる。それがすごく表れるのが卵焼きだ。

 それに、塩辛いのや甘いの……好みもはっきりわかれる。


 練習しまくったこの卵焼きが、一番の自信だ。

 私は、なんとなしに卵焼きを箸でつまんだ。


「なら、卵焼きちょーだい!」


「いいけど……

 ハルキ、箸持ってないわよね。手掴みってのもアレだし、どうしようかし……」


「あーんっ」


「…………ら……?」


 ハルキは昼食にパンを食べるつもりだったのだ。ならば、箸など持っているはずもない。

 だったら、いったいどうやって食べてもらおう。それを、考えているときだった。


 箸の先でつまんでいる卵焼きの重みが、なくなったのは。なにかに引き抜かれる感覚……そしてそれがなにかは、考えなくても見ればわかる。


「ん、んんー、本当においしいよ!」


 もぐもぐと口を動かすハルキ。口を閉じているため中は見えないが、その口の中には私の卵焼きが入っていることだろう。

 だって、箸でつまんでいた卵焼きはなくなって、代わりにハルキがなにかを食べている様子だったのだから。


 今ハルキは、私が箸でつまんでいた卵焼きを食べた。どうやって?

 ……そんなの、考えるまでもない。


「ごちそうさま」


「っ」


 早々に平らげてしまったハルキが、ペロリと自分の口周りを舐める。

 その仕草に、私の心臓は高鳴った。


 私は、持っている箸を……箸の先を、じっと見つめる。

 ハルキが、口をつけた、箇所。ごくりと、私はツバを飲み込んだ。


 これって……私が、同じ箇所を口に含めば……か、かか、関節キスになっちゃう……って、ことなんじゃあ……!?

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