第5話

地下に潜るエレベーターを降り、自分のフロアに降りた。

フロアを出てデスクに到着すると、いくつも電子付箋が机にべたべたと張り付けてあった。

ほとんどは仕事の最速であった為、無視することにしたが、

ねっとりとした視線を感じ、視線を上げた。


恨みがましい目で私を見る女性がいた。自分と同じく目の下にクマが出来ているが、

目が充血しておりはれぼったい。どうやら部下である長谷川京子は帰れなかったようだなと少しかわそうな気持ちになった。

長谷川は席を立ちあがり、ゆっくりと歩いて士郎の横に立った。

士郎の脇を冷たい汗が流れる。先手を打ってこちらから話しかけることにする。


「おはよう長谷川。昨日はどうやら徹夜だったようだが、何かあったのか?」

ここで目を上げたのがいけなかった。長谷川とばっちりと視線が交差したとき

向こうのボルテージが最高潮あることを察した。

「先輩、出社遅いです!!!」

すいません、、、、士郎は肩をすくめる。

「起動実験の前倒しって何ですか?あの人詳細は宮本から聞けって言って、自分はとっとと帰っちゃいましたけど!!」長谷川は上司の席を指さした。

「何回も言ってますけど、私には会社員である前に一人の人間であって家にかえってぐっすり寝たいんです!!会社に仮眠室やシャワーがあるから良いという問題ではなく、自分の家の自分の布団が何よりの居場所なんです!!」

長谷川は一息でしゃべり切ったのち、顔を上気させていた。怒っているとはいえ正論であり、中間管理職である自分にとってはまさに締め上げられる思いであった。


士郎はおずおずと口を開く

「明寿のチョコレートあるけど、、、まず食べる?」

長谷川の大きな目が自分からカバンから取り出したチョコレートに移る。これだけで矛先をそらせたことを直感した。ここで押すしかない。

「実は先日応募しておいた配給が当たってね、日ごろから頑張っている君にプレゼントしたいなと―――――

手からチョコレートがひったくられる。長谷川は一気にパッケージを向き、チョコレートにかじりついた。がっつく姿はまだ10代の女性らしさを残しており、ほんの少しほほえましい気持ちになる。

ひとしきり食べている間に、長谷川は落ち着きを取り戻していた。

「先ほどは失礼しました」

淡々としているものだと士郎は思った。彼女の良さは切り替えの早さであり、基本は冷静な女性だ。ただし疲労が彼女を激情型へと変貌させ、時折先ほどのようになるのであった。

「いいんだ。早速で悪いが、まずは状況整理と行こうか」

長谷川は準備しておいたであろう資料を立ったまま端末を操作し、士郎に送付した。士郎の端末に展開され、デスク上にポップアップされる。

「現在の宮本チームの稼働状態は現時点で50%です、つまり我々4人チームのうち二人はダイブ作業を行っております。作業内容は超鋼機と開発中の"LHW-5"とのマニュピレーター部制御用のコーディング中であり、帰還は昼頃を予定しています。このため2日後の起動実験までにおおむね50%の状態であると推察されます」


弊社の開発部隊はおおむね4人体制で行われており、各チームごとに開発テーマが異なる。チームごとに競い合わせることで、社として最大のアウトプットを出させるというわけだ。士郎のチームはLH左側に使用する計画であり、W武器の5種類目を開発している。。。。と士郎は推測しているがあてずっぽうであり正体は定かではない。

何しろ開発規模が大きすぎるため、命名規則もその場その場で生まれる上に従っていないものもある。与えられたテーマと開発番号を管理するだけで会社全体としては精いっぱいであるように思えた。開発チームごとにテーマに対してペットネームをつけてせいぜい開発内容に愛着があるようにしており、LHW-5のペットネームは"ムラサメ"だ。

士郎は長谷川に続きを促した

「起動実験までに求められる要件として、起動実験時にムラサメの機能が要求を達成していること、つまり装備できることとシステムが作動するか、これがカギとなります」

士郎はここで質問した

「刀身の加工は、、、?」士郎としては加工が間に合わない"つまり宮本チームの責任ではない"ところで間に合わない言い訳を考えていた。

「昨晩すでに手配完了しており、明朝5時に納品があります。加工部からお怒りのメールが届いておりますが、そこは宮本さん対応をお願いします」

「できる部下ってのも考え物だねぇ、、、」


長谷川からの鋭い人にらみを眉根を寄せてやり過ごした。

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超鋼機整備士の静かな暮らし @keysmash

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