第3話

士郎はドアのノブを回し、玄関と外の隙間を作った。室内に飛び込んでくる強い朝の日差しに目を細め、"行ってきます"と、心中でつぶやき部屋を出た。


外に出ると同時に、情報の洪水が視界のインフォメーションウィンドウを埋める。

遮断状態の間に着信のあった上司からの着信連絡もそこに並んだ。

やや眉間を狭め、必要な情報をウィンドウから探しだすことが出来た。

就寝時の不在着信データ、しかも発信者である上司のエモート付きである。


「なぜ私の電話に出ないかはなはだ疑問ではあるが―

士郎は上司の前口上が長いことを知っており、そこで早送りに切り替えた。

留守番解析システムが"別のセクション"つまりは本題であると切り出す点まで飛ばし

とっとと本題を聞くことにした。


「超綱機一號の起動実験を前倒しとする」

ここから聞くこととした。そのまま続けてもらう。

「なぜかというのは君も疑問に思うことだろう。先んじて答えるが超鋼機一號搭乗者の来都が前倒しとなり、速やかな登場試験が必要となった為である」

嘘だ。この点宮本士郎は嘘であると知っていた。このため留守番解析システムの自動応答であるとわかっているが、あえて質問を入れる。

「超鋼機一號は搭乗者が決まっておらず、本機の特性上搭乗者の決定は"登場するまでわからないはず"、なぜ登場者が決まっている?」

留守番解析システムが分析を始め、上司のアイコン下部に自動の文字が出た。


留守番解析システムは現代においてロートルのシステムであったが、そこに士郎は独自に改修を加えていた。日々の暮らしの上で録音機能を常時使用し、その人が回答しそうな内容や背景を勝手に収拾させる。また、うかつにもIT部門が仕掛けた解析ソフト(つまりサボタージュしている社員をつるし上げるシステム)にただ乗りすることで、常時社内ネットワークに連絡収集システムを張り巡らせており、社内で収集した情報を回答するようにシステムをアップデートしていた。


自動とポップアップの出たまま上司の回答が読み上げされた。

「更なる上位の判断によるものであり、詳細は不明」

軽く舌打ちする。さらに質問を続けた

「更なる上位ってどこからだ」

「指揮系統上上であることが本文から推測可能、但し名称等出てこない為不明。またipやアドレス等も監視範囲内での使用履歴なし」

宮本はさらに質問した。

「発信元はさらに地下か?」

「さらに地下であると推定可能、ダミーによる接続比較比較を実行済み。結果より地下50層より深部であると推測される」

宮本はここで質問を打ちきった。社内に張り巡らせたシステムは徹夜の鬱憤で埋め込んだものであり、自分に繋がる秘匿化は完璧だが、システム自体はそれなりで済ませてある。よって宮本の質問に対応するための稼働内容によってはIT部門に足跡を残す可能性がある。変に調査するような質問になる前に切り上げることにした。指先を軽く動かし、システムに続きを促した。

「つまり、搭乗者のスケジュール上日程確保が難しく、また先々の不具合を事前に対応するうえでもこの前倒しには意義があり―


長くなりそうなので、士郎は録音を切った。

自宅を出て15分程度歩いた駅からモノレールに乗り換えた。

駅は朝方ではあるが、閑散としており旧時代を知る士郎にとっては快適そのものである。

旧時代においては数分ごとに来る電車に、数百の人が乗り込み過密状態となり、当時幼かった士郎は恐怖を覚えたものであった。

モノレールに乗り込んだのち、視界に出ているウィンドウを切断し、生の景色を味わうことにした。


朝日が車内に飛び込み体を温め、接続部に差し掛かる度に少し揺れる車内が不思議と気持ちを穏やかにさせた。

街をぐるりと囲むモノレールから見える、町の中央から延びるビルたちの間に小さな点としてうごめく人々が、士郎にまだこの街で暮らす住人が存在することを思い起こさせた。

宮本士郎は少し身動きをして、車両の椅子にかけなおした。

胸元から紙の手帳を出し、超鋼機の開発日程を考えることにした。

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