第2話 主人公、電話する。

上司からの電話を切り、深い溜め息をついた。

出社もしていないが、すでに疲労感に包まれているのを感じる。

会話の内容をふりかえると、要点は概ね二点に集約された。

一つ、いい加減に"遮断状態"で過ごす生活を辞めること。

二つ、現在開発中である超綱機一號の起動実験の可及的速やかな見直しである。


1つ目については、再三注意されている事であるからして、ある一定自身にとって耳にタコであったが、逆にそのことが未だに指導に従わずに要られる自由があり、まだ法律がこの国に存在することを思い起こさせた。


今から30年ほど前、"侵襲性知覚拡張装置"に関わる法律が制定された。政府にとって、氾濫していた技術の手綱を掴むために作った暫定的な法律だが、存外"前時代的な考え方"との融合を果たし、未だに施行当時の大筋を外さずに施行されている。

侵襲性知覚装置とは一般的にはサイバネティック・オーガニズム、要するに"サイボーグ"である。

人類史を考えても西暦をつけ始めて二千年とすこし。蒸気機関の完成から考えると、人類の持つ技術の発展はまさに爆発的な勢いで成長を遂げていた。

既に人類の多くは自身をネットワークに接続し日々暮らしているが、自身は"意識的"にロートルとして暮らしていた。

人類が体外で情報を管理していた時代の名残、もはや遺物となった小型端末を使っているのは、士郎の知る限り自分一人であった。


そんな士郎に対して、世間からの対応は冷ややかであるが、この点においては自身でも意外なほどの強い意思を持って肩身の狭い思いをしている。

その"意思"を持ったきっかけは些細なことではあるが当人にとっては至極重大なことであり、士郎は未だに小型端末を使っている、というわけであった。


ドアの前に立ち、ゆっくりと呟いた。

「、、、ロック解除と同時にオンラインに復帰」


ドアの内側に設置されたディスプレイが点灯し、警告が室内に表示される。

‐ロックを解除。ドア開放後に遮断モードを終了します‐


士郎はドアのノブを回し、玄関と外の隙間を作った。室内に飛び込んでくる強い朝の日差しに目を細め、"行ってきます"と、ぽつりとつぶやき部屋を出た。

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