第7話 お気持ち自縛霊

 正之は、ネットを彷徨っていた。

 裏切ったと勘違いした推しのウワサや話をネットの中で探し続ける。

 そのウチにゴシップに辿り着く。

 そこには、意味の無い、真実も、事実もない、煽るだけのウソが蔓延している。

 その煽られた記事に取り憑かれた結果、破滅するしかない。

 それに正之は手を伸ばしてしまう。

 

 正之は、SNSでそのウソをばら撒く。

 いつの間にか…楽しかった推しとの思い出さえも、苦痛に変えて。

 推しを攻撃し始める。

 ボクは、ボクは…。

 苦しかった。

 楽しかった思い出の全てが黒く憎く染まっていく。


 推し、佑月ユイと誹謗中傷するネタをSNSに発信し続けるようになった。

 それでも佑月ユイのメンバーシップは解除してない。

 佑月ユイへの憎しみに取り憑かれた…お気持ち地縛霊へ変貌してしまった。


 自分が大切にしていた思い出さえ、憎しみに変えて…

 その苦しみの怒りを、推しに責任転嫁して。

 それが正しいと…思い込んで。


 毎日が苦しい、憎い、嫌い、嫌い、嫌い、なぜ…? 

 ボクは、ボクは、推しが好きだったはずなのに…

 その気持ちは、推しは最悪なヤツだった…と責任転嫁して気持ちを塗り替えて。

 VTuberのユニコーンの末路は、苦しむ、怒り、周囲へ当たり散らす魔物に変貌する。


 学校に行くのもツラい。

 誰とも話したくない。

 静かに息を潜めて、孤独に…。

 いや、そうではない。

 正之が話し掛ければ、話してくれるクラスメイトはいる。

 正之が自分で自分を縛って苦しめている。


 クラスメイトの数名、正之に近い生徒が

「どうしたんだ? 最近…高木のヤツ…ヤバい感じがするんだけど…」

と、気付く者がいる。


 でも、クラスメイトは十代半ばの少年と少女だ。

 彼らに、闇に落ち込んだ者をどうするか?の対処法なんて分かる筈もない。

 だから、離れて遠くから見るしかない。


 教師は…気付けない。

 問題行動をしている訳でもない。静かにしている。

 クラスで平静にしている者を咎める必要はない。

 それに、クラスメイトは十六歳という年齢だ。

 ある程度の距離感を持つべき年代でもある。


 正之は、毎日、毎日、静かに煮詰まっていく。


 推しの住所を…探し出そうとする正之。

 VTuberは画面の存在であり、画面を通して、見るだけの存在だ。

 VTuberに誹謗中傷や、不法行為をすれば罰せられるのは、変わらない。

 だが…それを忘れて…

 正之は、その画面を通り越そうとしていた。

 佑月ユイの中身を探し出そうとした。


 錯綜する佑月ユイの住所、その場所へ訪れる正之。

 それは、学校へ通う事を止めてしまう。

 ネットで佑月ユイの住所とされる場所を巡る。

 だが、そこは偽物ばかり。

 ホンモノは一切無い。


 ウソでウソを塗り固めたウソの虚像。

 ウソを百回しても真実にはならない。ウソはウソのままだ。

 

 学校から正之が登校していない…と両親に連絡が入る。


 正之が帰ってくると両親がいた。

 父親が

「正之、学校から連絡があった。学校に行っていない…と」

 母親が

「どうしたの、正之」


「うるさい!!!!!!!!」

と、正之は荷物を投げ出して部屋に。


 正之の部屋のドアがノックされて

「正之」

と、何度も呼ぶ父親と母親の言葉。


 正之はベッドに丸まり耳を塞ぐ。


 バイトで手に入れたお金は僅かだ。


 正之の推しを探して巡る怨霊は、焦りと苛立ちを呼び起こす。

「早く、早く、早く」

 早く、見つけないと…。

 そこには、悪鬼となった何かがいた。

 止められない。


 怨念の悪鬼となった正之は、パソコンを開くと…SNSのDMにとある情報が来た。

 

”アナタの憎いヤツの住所ですよ”

 ################


 とある住所が示されていた。

 正之はそれをメモして、明日を待つ。


 両親は会社にいって、正之は誰もいなくなった家で冷蔵庫から食べられる物を食べて、家から出て行った。


 そして、DMで受け取った住所へ向かう。


 そこにあったマンションの出口を隠れて見つめている。

 雨が降ってきた。

 それでも、正之は待ち続けた。


 そして

「ああ…もう…」

と、一人の女性と

「ですね。大丈夫ですか?」

と、一人の男性が女性を雨から守るようにしてくれる。


 正之が目を光らせて

「あの…」

と、二人に近づく。


「はい?」

と、女性が見る。

 男性が少し前に出て

「何か? ご用でしょうか?」


 正之は、確信した。

 佑月ユイのメンバーシップで見ていた音声の特徴、はい?の答える時に少しだけ上がる特徴。

 正之が笑み

「あの…道に迷ってしまって」


 正之の身長は170より少し下で、女性より少し高い程度で、若い十代だ。

 警戒が薄くなる。


 女性が

「どこに行きますか?」


 正之が笑みながら

「コンビニを…探していて…」


 男性が

「でしたら、ここを、こう…」

と、説明する。

 

 それに正之は

「ありがとうございます」

と、答えて離れて行った。


 雨に濡れて走って離れる正之。

 

 男性と女性には、道に迷っていた高校生の男の子…という程度だ。


 正之は笑っていた。

「やっぱり…そうだったんだ!」

 正之が裏切られていたのを喜びの確信に変える。

 佑月ユイは、男と同棲していた。

 

 ボクを騙していたんだ!

 

 お気持ち悪鬼になった正之と止める者はいない。

 事態は最悪へ転がる。



 ◇◇◇◇◇


 正之のSNSのアカウントへ住所のデータをリークした少女は

「アタシから彼を奪った罰よ…」

と、暗闇で薄ら笑っていた。


 

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