第6話 ブロック


 正之は、オジさんの孝一とファミレスに来ていた。

「最近、どうだ?」

と、孝一は和やかに微笑む。


 正之が

「んん…まあ、勉強とバイトと忙しいよ」


 孝一には正之が疲弊いるのが見えた。

「そうか…あんまりムリはするなよ」


 正之が「うん」と頷く。


 孝一が世間話に話題を

「そう言えば…さ」

と、SNSで、とあるVTuberの悪評を立てる人達を攻撃するVTuberのリスナーの話を始める。

 その攻撃によって、より…そのVTuberは危険と思われて、新しいリスナーが来る事が減っている…と

 おそらく、若い子で、ユニコーンっていう厄介なリスナーになっている…と

 軽く言う。


 正之の顔が少し険しくなって

「へぇ…そうなんだ」


 孝一が

「正之、お前は…被害にあっていないか?」


 正之がカッとして

「ボクは! 関係ない!!!!!!!!」


 孝一が頭を下げ

「すまなかった。言い過ぎた。でも…正之…オジさんは、お前には…そんなヒドい事になって欲しくない。楽しんで欲しい。

 オジさんがVTuberを見始めた時は、それがヒドい状況で…本当に…今、思い出せば、最悪でヒドい事だと思っている。

 正之、もう一度、推しのVTuberは…何て言っていた?」


 正之がテーブルを叩き

「ウルサい! オジさんなんて嫌いだ!」

と、ファミレスから飛び出していった。


 孝一は頭を抱えた。

 そして、正之のラインに

”どんな事があっても。オジさんは正之を見捨てないぞ”

と、送った。



 ◇◇◇◇◇


 正之は自宅へ帰って、部屋に行きパソコンを

「ボクは、彼女を守っているんだ! だから! だから!」

と、推しの佑月ユイのSNSへ投稿しようとアクセスした瞬間

 ブロックされていた。

 一瞬、何があったのか…理解できなかった。

 でも、SNSのそこには推しが、大好きな彼女がブロックした現実があった。


 正之は信じられなくて、今日ある推しのメンバーシップ配信に行くと

 推しの佑月ユイが

「今日、色んな所へ荒しを行っている人のSNSをブロックしました。

 そして、多分、SNSアカウントと同じアカウント名の方がいたので、その方もブロックしました。

 私は、私の配信を楽しんで欲しいです。

 荒らすような事をする人は、嫌いです。

 メンバーシップも抜けて貰っても構いません」


 正之は叫んだ。泣いた。

 どうして、ボクは、君のために…君を守るために…

 と、裏切られた気分になっていた。


 正之の考えは勘違いだ。

 佑月ユイと正之の関係は、多くいるリスナーの一人であって、動画配信サービスで視聴する視聴者が正之であって、演者が佑月ユイという仮想の存在だ。

 二人の間には、特別な関係はない。

 それは無論、多くのコメント欄にいるリスナー達と一緒だ。

 佑月ユイと正之は、特別な関係ではない。

 ただの動画と視聴。

 故に、それに悪影響を与える者は排除されるのは普通であって、当たり前だ。


 だが、正之だけは違った。

 特別な関係が推しとの間にあると思っていた。

 でも、それは幻想であり、存在しない。

 正之は、存在しない気持ち、疑似恋愛感情に支配されて、自分と推しとの間には特別な何かがあると勘違いしていた。

 それは、存在しない特別であって、有り得ない現実なのだ。


 正之と推しの間には、特別な関係性はない。

 正之だけが一方的に勘違いした感情を持ち、それで推しと繋がっていると思い上がり、全てを推しを守るという、推しに責任転嫁した結果だ。

 これを、ガチ恋と呼ぶ幻想だ。

 ガチ恋は、ユニコーンというVTuberの魔物を作り出す。


 正之は、その魔物になってしまったのだ。


 正之は、ユニコーンという厄介なリスナーになってしまった。


 それは、推しの拒絶によって終わりを迎える。

 ユニコーンという厄介なリスナーになった半分は、自分がユニコーンという魔物になっていると教えられて、離れて終わる。

 もう、半分は…次の依存できる推しを探すか…

 もっとヒドい状況へ落ち込む。


 正之が堕ちた地獄は、なぜ…推しが自分を拒絶したのか?

 その理由を、とあるSNSから探し出した。


 佑月ユイは前世という、佑月ユイになる前のVTuber時代があり

 その前世から付き合っている彼氏がいるという、ネットのゴミ情報を手にして

 それに依存した。


「彼氏がいたから…佑月ユイは…」

と、正之は佑月ユイを憎しみ始めた。


 そして、佑月ユイの住所を探すようになった。

 正之は、ネットを彷徨う、お気持ち自縛霊となってしまった。

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