第5話 ユニコーンへ堕ちる


 正之は…配信を見ていた。

 推しの佑月ユイがいた。

 何時もように頑張っている推しの姿を見ていた。

 見ていた。

 楽しんでいた過去ではない。

 今は…監視だ。


 正之の見ているのは、コメント欄だ。

 流れてくるコメント欄のコメントの主達を見て

「だれが…情報を漏らしているんだ?」


 コメント欄にいる誰かが…推しを…。

 その疑念が取り憑き、疑念の怨霊となっていた。


 正之は

「この子は、ボクが守らないといけないんだ…ボクが…ボクが…」


 正之はコメント欄にあった名前をパソコンにコピーして、その一人一人を検索する。

 意外とコメント欄の名とSNSの名前が一致する人達が多く、その人達のSNSでの投稿をチェックして、推しの悪口を書いていないか…調べる。


 正之は暴走していく段階を一つ一つ上っていく。


 推しを、推しの子を守るという義務ではなく、欲望に従って敵を探し出して…


 幸いにも、コメント欄の人達に…推しを悪く言う人はいない。

 だが、今度は、推しの名を検索にして、推しを悪くいう相手を探し出す。


 推しの事を悪くいう投稿の全てに、それを否定する投稿を始める。


 それが…後々に。


 ◇◇◇◇◇


 正之は過剰な推しへの思いの暴走によって、SNSの投稿攻撃を開始して一週間後


 推しの佑月ユイが

「この配信に来ている皆さん、みんなはヒドい事をしない人達だと分かっています。

 最近、私の事に関してSNSで荒らす投稿が多くなっています。

 どうか、SNSを炎上させるような事をしないでください。

 私は、みんなと一緒に配信を楽しくすごしたいです」


 正之がコメントで

”ヒドいね。そんな事するなんて”

と、多くが似たコメントを残す。


 正之は、正之のやっている事が冷静に見られない。

 自分は、推しの為にやっている。

 推しを傷つけるヤツがいる。許せない。


 正之はSNS警察という悪行に手を染めてしまっている。

 だが、それは正之が自分の事とは一切、思っていない。

 ボクは、推しの為に頑張っている! もっと頑張らないと!

 更なる敵を求めて攻撃を開始した。


 そして、それが正之にとって気持ちよさに変わっていた。

 相手が悪い。ボクが正しているんだ。

 そう…思い上がりを始めているのに気付かずに…。

 今日もSNSで、敵を鋭い額の角で突き刺すユニコーンと化して。



 ◇◇◇◇◇


 孝一は、AI検索を続けていると、最近…活動を活発化させているアカウントを発見する。

 そのアカウントは、佑月ユイの悪評を広めようとするアカウント達に攻撃をしている。

「このアカウントは…」


 孝一は、直ぐに分かった。

 正之のアカウントだ。


 孝一は悩む。

 どうするべきか?

 正之を注意しても、こういう状態になった人間に説得は逆効果。

 

 孝一は、まさか…大切な甥っ子が…害悪ユニコーンとなっている事実に悩んでしまう。


「正之に話を聞きに行くか…」


 どうでもいい他人なら、アカウントを停止させるように頼む事もできる。

 いや、もう…そういう事をやっている者もいるかもしれない。


 孝一は考えた末に

「正之」

と、正之にラインを送る。


”少し、オジさんと話をしないか?”

と…。


 正之は止められないかもしれない。

 でも、それでも…最後の繋がりだけは…

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