第2話 明るくなる日々

 

 正之はバイトを始めた。

 近くのセルフガソリンスタンドだ。セルフガソリンスタンドの仕事は、補充品の追加が主な事で、他には、セルフスタンドの操作が分からないお客に説明する。

 あと…スタンドの清掃。

 時間が空いている場合は、監視カメラを見つつ時間を潰せる。

 セルフスタンドは、朝の7時から午後11時まで、現金は回収する業者が来て、まとめる必要はない。

 時給は、最低限だが…それでも合間に宿題や勉強とか出来る。

 時給が安いのでやる人は少ない、高齢者が多い職場だが、それでも正之には十分な職場だ。

 空いた時間は、勉強や宿題をしつつ

「今日も…」

と、推しである佑月ユイの生配信に行く。


 監視カメラがある大きな部屋で、宿題をしつつ佑月ユイの配信に参加する。

「こんにちは、みなさん!」

と、かわいい声がスマホから放たれる。

 それだけで、正之は幸せになった。

 そして…バイト代が入ったら推しの佑月ユイにスーパーチャットするつもりだ。


 スーパーチャット、それは…配信者に投げ銭をできるシステム。

 主に、クレジットカードで支払いをするが

 高校生の正之にクレジットカードを持つ事はできない。

 だが、保護者の許可があれば、ネットショッピング専用のバンドルカードというお金をチャージするプリペイド式のクレジットカードが使える。

 正之は、このバンドルカードで使って推しの佑月ユイにスーパーチャット、スパチャするつもりだ。

 バンドルカードも使用上限が決まっていて、その最低限度で使う事にしている。


 バイトも始めたのも、推し活の為であり、両親と話し合って使う金額の限度を決めて推し活する。

 その話し合いの参考として、正之のオジさんの意見があった。

 オジさんは、色々なネットカルチャーに詳しくて、多くの失敗した事例を知っていた。

 オジさんが知っているムリのない金額の推し活。

 それで正之は十分だった。

 こうして、正之の推し活する生活が始まった。


 正之の生活にカラフルな色が広がる。

 大好きな推しの配信で、推しと過ごす時間が暗く灰色だった高校生活に彩りを取り戻してくれた。

 学校の成績は…問題なかった。

 元から正之の学力なら大丈夫な学校だった。ビリではないが…真ん中より少し上のちょうど良い感じで、推し活も学校もバランスよく回っていく。


 今日もガソリンスタンドでバイトを終えて帰ってきた時だ。一台の車が正之の隣に止まった。

 歩いて帰っていた正之は困惑する。


 隣に止まった車の後部座席の窓がスライドして

「こんばんは…」

と、正之と同年配の女の子が顔を見せてくれる。


 正之が戸惑いつつ

「こんばんは、天城さん」


 天城さんと呼ばれた女の子は

「やめてよ。お隣さんの幼馴染みでしょう。私達」

 彼女の名は天城 かな恵。

 正之のお隣に住んでいる家の娘だ。

 正之のお隣さんは、会社を経営しているので、正之の家より裕福だが、それでもお隣で同年配という事で仲良くしてくれた。

 

 正之は、天城さんに距離があった。

 小学校までは一緒に遊んでいたのに、中学に入った後は…何処となく距離ができてしまった。

 天城さんは、成績優秀で綺麗な子だ。

 学校でも男子の間で密かな人気があった。

 

 正之が目指していた第一志望の学校は天城さんが通っている学校だ。

 そう、正之にとって天城さんは、初恋でもある。

 だから、一緒の学校に通って…それも叶わなかった。


 正之が

「その…天城さんは、どうして…こんな時間に?」


 かな恵は正之に微笑みながら

「勉強したい事があってね。そこから帰ってきた所。ねえ、一緒に帰ろうよ」


 正之が

「ごめん、ちょっと用事を頼まれていて…。バイトしていて…ガソリンスタンドの店長に休んだ人の家に…書類を届けて…欲しいって頼まれて…」


 かな恵が驚きの瞳で

「バイトしているんだ…」


 正之は頷き

「うん。そうなんだ…」


 かな恵が正之のバックに付いている佑月ユイのキャラクターホルダーを見て

「それ…なに?」


 正之がバックを掲げて佑月ユイのキャラクターホルダーを手にして

「その…趣味なんだ」

と、見つめる瞳と頬が優しい笑顔を作る。


 かな恵がすっと引いて

「そうか…バイト…頑張ってね」


「うん。ありがとう。天城さん」

と正之が、かな恵に見せた微笑みは作りモノだった。


 かな恵を乗せた車が離れて行った。


 正之の初恋は終わったのだ。

 正之は自分の終わった初恋のキズを守る為にウソをついた。

 店長からの用事なんてウソだ。

 もう、天城さんと自分の関係は終わっている。

 そして、新たな光であるVの佑月ユイのキャラクターホルダーを握り

「帰ろう…」



 ◇◇◇◇◇


 正之のオジさん、梓澤 孝一は今日も作業をしていた。

「AWS起動。各アカウントのパスワードと認証を開始」

 孝一が目にする画面にプログラムと様々なアプリが起動する状態が並ぶ。

 孝一は、カップを手にして

「さて、AIによるネット検索をかけるか…」

 孝一は、ネットワークサービスにあるAI機能を使って、自分の好みの情報をAI達を使って探させる。

 日本語から英語、フランス語と、AI達はネット飛び回って孝一が欲する検索結果を開示させる。

「なるほど…このVの炎上が起こっているのか…」


 孝一はVPNを起動させて、色んな国々からアクセスしているように偽装させて、SNSのBOTアカウント達を起動

「少し、火消しをしてやるか…」


 孝一が作ったAIのBOT達によるSNSの発信が開始しされて、炎上の火消しの種をばらまく。


 トレンドに乗りやすい時間の計測、そして…センセーショナルな逆記事のAI生成。

 SNSで最低でも1000ポスト以上に、会話を20以上も続かせれば、SNSの事実の完成。


 孝一は、この機能をSNSの炎上を沈静化するのに使っている。

 最初は、色んなSNSサイトや配信サービスの検索の為に作ったAIシステムだが、こういう使い方ができる事を発見して、細々ではあるが…炎上の火消しをしている。


 そんな孝一のSNSアプリに連絡が入る。

 DDDという似たような事をしている知り合いからDMが入る。


 DDD

”元気かい?”


 孝一

”ああ…ボチボチだ”


 DDD

”君に協力して欲しい事がある”


 孝一

”大統領選挙の誘導か? 拒否する”


 DDD

”違う。最近、大規模なDSS攻撃とハッキングがあったのを知っているだろう”


 孝一

”ああ…ゲーム関係のサーバーがやられたヤツか?”


 DDD

”それをやったのは、サンダーボルトいう犯罪系のハッキング組織らしい。サンダーボルトを飼っていた、とある国が支払いをケチったのが原因で、売れそうな個人情報があるサーバーやシステムを狙ったらしい”


 孝一

”今や、お金や仮想通貨より、個人情報が高値の時代とは…末期だ” 


 DDD

”そのサンダーボルトから個人情報を買ったヤツがいてね。そいつが…個人情報を暴露して儲けるつもりらしい” 


 孝一

”政治家や官僚、経営者の個人情報を週刊誌に売るのか?”


 DDD

”そんな事したとて、儲かる事はない。VTuberの個人情報を…暴露するとして、大手事務所に圧力を掛けてお金を脅し取る算段らしい”


 孝一

”オレにどうしろ…と?”


 DDD

”火消しが得意な君なら…分かるだろう。脅しの為に一部暴露される情報は偽物であるという偽物を大量生成して潰して欲しい”


 孝一

”なるほど、偽物を大量投下して火消しとは…”


 DDD

”もし、協力してくれるなら…この貸しを必ず返そう”


 孝一

”貸しの返済は期待しないが、火消しはオレのやるべき事だ。乗らせてもらうぜ”


 DDD

”感謝する”


 孝一はDDDとのDMを終えて、飲む物を口にして

「全く。上手く使いやがるぜ…」

 

 孝一は準備を開始する。

 SNSやネットに上がるであろう、VTuberに関する個人情報の話題を直ぐにAI達が検索できるようにして、それを検索したら偽の情報をばら撒くように仕込みをする。

 これで、ある程度の事は潰せる。

 だが、ネットの速度は凄まじい。

 即興で必要な部分は、次の操作…という事で…。

 こうして、孝一の仕込みは終わり、眠りにつくのであった。

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