セキダ博士のちょっぴり変わった日常(7)
その後、川岸までたどり着き少女は救出された。周りの者たちは私をたたえてくれたが、不格好な姿を見せたくなかったから「写真撮影はNGで」と自ら顔を隠しながらその場をそそくさ去った。
私は研究所のストーブで身体をガタガタと震わせながら暖を取っていた。
「ハカセ流石でやんすね!」
小野少年は目を輝かせて言った。
「ゴリラは心配でなりませんでした。無事でよかった」ゴリ太はココアをよこしてくれた。
「天晴じゃ」
信長は私の背中を強く叩いて笑った。
「信長さんに言われなかったら私もただの傍観者でした」
私はくしゃみをしながら謙遜した。
「そんなことはない。為したかどうかが重要なのだ。お主をワシの家臣に置きたいほどだ」
「それは買いかぶりすぎです」
私はそう答えると、信長は橙色に染まりゆく窓を見つめてこう言った。
「先の桜をみて思った。自然の優雅さは不変だが、人の心は時代とともに移ろう無常なものだと。この時代は人を豊かにすれど、心までも豊かにするものではない」
信長の言葉は核心のように思えたし、無常という言葉にどこか寂しさを覚えた。
私は何も言わずストーブの炎を見つめた。
しかし信長は続けて言った。
「だがお主の精神には輝くものがあった。それを大切にし、精進するが良い」
信長は再び私の背中を強く叩くと「さあ小僧、質問とやらは何だ」と小野少年に向き直った。
小野少年は一時間かけて信長を質問攻めした。
◆
翌日、地域の新聞で「無名の男性が川で溺れる少女を救出!」という記事が大々的に掲載された。ほぼ全裸の姿をした私が顔を隠している写真も載っており、今にして思えば黒歴史を刻み込んだ気がしてまともに新聞を読むことができなかった。
しかし私の中で何かの決心がついた。
来週か再来週に三木先生をディナーに誘おう。そして私の想いを伝えるのだ。
私は三木先生のことを考えながら、今日もくだらなくて有意義な発明に邁進するのであった。
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調べた歴史上人物:織田信長
なまえ:小野
織田信長と会ったでやんす。織田信長はえらそうだし怒りんぼだしこんな人がえらいのかとがっかりでやんした。でも織田信長が言った言葉には小学生のオイラにもささるような重みがあったでやんすねえ。いや、言っていることはだいたい意味が分からなかったでやんすが。でも織田信長についていきたくなる家来の気持ちも何となくわかったでやんす。
ところで織田信長と一緒に歩いていると川で女の子がおぼれていたでやんす。ピンチでやんす! まわりの人はだれも助けに行こうとしなかったのにハカセは助けに行ったでやんす。ハカセは織田信長に褒められていたでやんす。ということは、ハカセは織田信長が認めるほどの良い男ということでやんすよ。ユーリョーブッケンってやつでやんす。先生も放課後にハカセの研究所に行くでやんすよ。
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三木先生は職員室で小野少年のノートを読んで笑みをこぼした。
「関田君も良いところあるじゃない」
三木先生は他の生徒のノートを一通り読み終えた後、残りの仕事を放っぽり出して寄り道をすることにした。
変わり者だけど愉快な彼に会うために。
セキダ博士のちょっぴり変わった日常 お茶の間ぽんこ @gatan
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